元魔王様とフォルトゥナとの再会 10
周りを囲まれているので逃げてジル達と合流と言うのは難しそうだ。
本気を出せば出来無くはないが、本来の姿がバレる事になってしまったり、より大勢のテルイゾラの裏の者達に気付かれる事になりかねない。
「囲まれていると分かりながら逃げずに立ち向かおうというのか?」
敵意のある視線に男性が余裕の笑みで尋ねてくる。
これだけの戦力がいて負けるとは微塵も思っていない様子だ。
「こう見えても結構強いのよ?」
「そうらしいな。人を操る術も持っているし是非私のグループに加わってもらいたいものだ。それに見た目も悪くない。」
いやらしい視線をテスラの全身に向けながら舌舐めずりをしている。
男性を誑かすサキュバス種と言うだけあってテスラは男性に好かれる良い身体付きをしている。
「気持ちの悪い視線を向けないでほしいわね。あんたみたいなのは願い下げよ。」
男性の視線にぶるりと震え、自分の身体を抱きながらテスラが言う。
好きでも無い相手のそう言う視線は願い下げである。
「そう言っていられるのも今の内だ。捕まえた後にじっくりと楽しませてもらうとしよう。」
「あんたを楽しませる気なんて無いわよ。断絶結界!」
テスラは結界魔法を使用して自分を取り囲む治安維持組織の者達全員を包む結界を展開する。
逃げ帰られて騒ぎになるのも援軍が到着して終わりのない戦いになるのも面倒なので、初めから内外を分断する結界を展開する事にした。
「結界魔法か。相当な魔法の使い手らしいな。」
「続々と増えられても面倒だからね。さあ、来なさい。遊んであげるわ。」
テスラが拳を構えつつ近くにいる者達を挑発する。
「お前達、その女を捕えろ!だが傷は付けるなよ?」
男性の指示に従って冒険者達が攻撃を仕掛けてくる。
傷者にすれば何をされるか分からないので攻撃は単調で迫力の無いものばかりだ。
高ランク冒険者が相手と言っても元々テスラの方が実力は上なので、こんな手加減された攻撃が通る訳も無い。
「遠慮しなくてもいいわよ?貴方達程度では私に傷なんて付けられないから。」
「はっ!」
成果を出さないのも監視役の男性の機嫌を損ねてしまうので一人の獣人が鋭い拳を放ってくる。
しかしテスラはそれを難無く受け止めてしまう。
「なっ!?」
「へぇ、高ランク冒険者ってのは嘘では無いみたいね。Aランクくらいかしら?」
テスラの冒険者ランクはDだ。
しかしジルと同じく実際の実力はランクよりも遥かに高い。
ジルからの吸精により力も徐々に戻っているので、現役のAランク冒険者でも敵う者はいないだろう。
「何をしている!さっさと捕えろ!手加減なんかしていると人質がどうなっても知らんぞ!」
「て、手加減なんてしていない!」
獣人は怪我をさせるつもりで拳を放ったのだ。
自分の実力にも自信があったので、まさか軽々と受け止められるとは思っていなかった。
「無能な監視役ね。私の実力の高さが分からないのかしら?でも貴方なら分かるわよね?」
「っ!?」
何かされると感じて獣人はその場から飛び退こうとしたが、その華奢な手や腕からは考えられない程の力で拳を掴まれていて振り解けない。
「チャーム!」
そのままテスラに魅了魔法を掛けられて獣人の身体から力が抜ける。
「何をしている!さっさと捕えろ!」
監視役の男性が怒号を浴びせるも獣人は動かない。
魅了魔法によって既にテスラの支配下となっている。
「無力化した人に無茶な事を言わないであげてほしいわね。」
「む、無力化だと!?今の一瞬でしたとでも言うのか!?」
高ランクの冒険者が簡単にテスラの力によって無力化されてしまい焦った様に叫んでいる。
そんな簡単に無力化される程弱い者達では無いので想定外な事だった。
「そうよ、そう見えなかったのかしら?」
「ちっ、ならば取り囲んで一斉に掛かれ!多少の傷は構わん!ポーションで治療すればいいだけの話しだ!」
手加減無しでテスラを捕える事に切り替える。
冒険者達が息を合わせて一斉にテスラに突っ込んでくる。
「アルーリング!」
テスラは慌てる事無く別の魅了魔法を使用する。
敵単体に効果を及ぼすチャームとは違って、自身の魅力を上げて周囲の者に影響を与える魅了魔法だ。
テスラの魅力に戦意が削がれて動きが遅くなっていき、最終的には皆が見惚れて動かなくなった。
「良い子達ね。こっちにいらっしゃい。」
皆がテスラの言葉に従って行動する。
離れている監視役の男性以外を完全に魅了魔法で支配した。
「何をしている!貴様ら、戦え!人質がどうなってもいいのか!」
「そんな野蛮な言葉が響く筈無いじゃない。既に皆が私の虜よ。」
「ば、馬鹿な!?」
誰も指示に従わず監視役の男性が唖然としている。
人質で脅して従わせてきたのに、その効果が無くなったとなると打つ手が無い。
「さて、これで残りはあんた一人ね。色々と不愉快な事も言ってくれたし無事で済むとは思わない事ね。」
テスラがニヤリと笑みを浮かべつつ手の関節をパキポキと鳴らしながら近付いていった。
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