元魔王様とフォルトゥナとの再会 5

 スキルを使用した瞬間、ジルの視界は白一色に染まった。


「どうでしたかジル様?」


「万能鑑定を使用したが何も視えないな。それどころか今視界を潰されている。」


 万能鑑定を解除しても視界は白いままだ。

時間経過で治るとは思うが何かされたのは間違い無い。


「鑑定系スキルの妨害ですか。フォルトゥナお得意の陣形魔法でしょうか?」


「いや、おそらく別の者だろう。我がスキルを使用した瞬間に近くにいる者の一人がこちらを見た。」


 ジルがフォルトゥナではないかと疑っている者は全く気付かず入札を続けていた。

なので唯一気付いた者がジルの万能鑑定を妨害したと思われる。


「それでは結局フォルトゥナ本人かどうか分からないままですね。」


「全身を覆うローブを身に付けているみたいですし、声しか判断材料がありませんもんね。」


 その集団は全員がローブを身に付けて姿を隠している。

顔も口元くらいしか出ていない。


「オークション終了後に直接接触を図りますか?」


「それには情報が無さすぎるな。あの周りにいる者達との関係も分からないままだ。」


「ミネルヴァが何かしら情報を持ち帰ってくれるとよいのですが。」


 フォルトゥナがテルイゾラで過ごしている間の人間関係等が知れるだけでも大分動きやすくなる筈だ。

今はとにかく情報が欲しい。


「あっ。」


「テスラ、どうかしましたか?」


 突然声を上げたテスラにレイアが首を傾げる。


「いやー、すっかり忘れてたんですけどレギオンハートから言伝を預かっていたのを今思い出しました。」


 テスラが申し訳無さそう表情でジルに言う。


「レギオンハートから?」


「はい、前に邪神教の拠点潰しの経過報告でパンデモニウム島に立ち寄った時があったんです。その時にテルイゾラを訪れた際にこの場所へ迎えと簡易的な地図を渡されていました。」


 テスラはレギオンハートから預かった地図をジルに渡す。

視界は元に戻っているので見てみるとテルイゾラ全域を示す地図の様であり、とある一点にバツ印が書かれていた。


「何故テルイゾラへ向かう事になった時に思い出さなかったのですか?」


「レギオンハートの命令なんて従う必要も無いやって話し半分に聞き流してた。」


「全く、重要な情報を貰えるかもしれませんのに。」


 テスラの発言を聞いて呆れた様な視線を向けるレイア。

ジルの言葉が最優先なのは自分も同じだが、有益な情報がジルの為にもなるのであれば無視する選択はあり得ない。


「確かレギオンハートの従魔がテルイゾラでも情報収集をしていたと言っていたな。フォルトゥナの事も調べさせると言っていたからその事かもしれない。」


 前回パンデモニウムでレギオンハートと会った時にその様な会話をしていた。


「でしたらオークションが終わったら向かってみますか?」


「そうだな、接触はその後にするか。」


 先ずは何も情報の無い現状からの脱却が必要だ。

テルイゾラで情報収集をしていたのであれば、レギオンハートの従魔が何かしらの情報は得ている筈である。


「ならば二手に別れましょう。私とジル様が地図の場所へ。テスラにはフォルトゥナと思われる者の尾行を。」


「ちょっとレイア、何で地図を持ってきた私が一人でフォルトゥナを追わないといけないのよ。」


 レイアの采配にテスラは当然文句が出る。

地図を持ってきたのは自分なのにジルと共に行動出来無いのは納得いかない。


「貴方の魅了魔法があれば人心掌握はお手のものです。追跡中に誰かに気付かれても無力化が楽でしょう?」


 サキュバス種のテスラは魅了魔法のエキスパートだ。

異性同性関係無く自分の虜に出来る。


「それくらいレイアにも出来るでしょ?私である必要は無いじゃない。」


「もう一つの理由はあれです。」


「あれ?」


 レイアの指差した方を見る。


「129万Gでベタ惚れ薬が落札となりました!」


「やりました!」


 フォルトゥナと思われる者がベタ惚れ薬を落札して喜んでいるのが目に映る。


「万が一あのベタ惚れ薬が使用されても他者を魅了する事に長けているサキュバスの貴方には殆ど効果がありません。ですが私だと操られてしまう可能性もあるのでテスラが適任です。」


「うっ、確かに私には魅了魔法の高い耐性もあるけど。」


 魔法の適性の高さはその魔法を使用する際にだけ役立つものではない。

それは同時に耐性の高さも表していて、魅了魔法にずば抜けて高い適性を持つテスラには魅了系の魔法や魔法道具が殆ど効果無いのである。


「適材適所と言うものだな。テスラ、悪いが尾行は任せてもいいか?我らもレギオンハートの地図に向かった後に直ぐに追い付く。」


「お任せ下さい!絶対に逃しません!」


「最初からジル様に頼んでいただければ直ぐに話しは纏まりましたね。」


 ジルの言葉を受けて自信満々に頷くテスラを見てレイアが小さく溜め息を吐いて呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る