元魔王様とフォルトゥナとの再会 4
ジル達は魔法道具が出品されるオークション会場へとやってきていた。
ここでは人の手によって作製された魔法道具からダンジョンで見つかった魔法道具まで幅広く出品されているらしい。
会場にいる者達から大量の入札が飛び交っている。
「バイセルのオークションに比べると入札数が凄まじいな。」
「さすがはテルイゾラですね。」
「値段の上がり幅も凄いですよ。」
さすがは本場のオークション会場である。
そもそもの人数が多いのでどんどん入札が入って面白い様に金額が上がっていく。
出品者側の方が金額の上がり幅を見て楽しめそうだ。
「ジル様は何か入札なさらないのですか?」
「これと言って欲しい物が無くてな。」
オークションが始まってから一度も入札をしていない。
それでもオークション自体は楽しめているので問題無い。
「ジル様なら全て自分で作れてしまいそうですもんね。」
「今の我はそこまででは無いが異世界通販のスキルや美咲のダンジョンポイントもあるからな。」
欲しい魔法道具が見つかったとしても、それよりも更に高性能な物が手に入れられる。
そう考えると落札しなくてもいいと思ってしまうのだ。
「目玉商品なんかはどうですか?中々凄い物じゃないです?」
「これくらいなら自分で作れそうだな。」
「目玉商品でそうなのであればジル様が欲する物は無さそうですね。」
「それでもオークションを見るのは好きだからな。雰囲気を味わうだけでも充分だ。」
出品されている目玉商品のリストを事前に貰っているが興味を惹かれる物自体が少なかった。
なので今回はテルイゾラのオークションを見て楽しむだけでもいいと思っていた。
「さあさあ、続いての魔法道具は知る人ぞ知る恋愛の師匠、ラバーズ氏による出品だ!恋する乙女の願いを成就させるべく作製されたその名もベタ惚れ薬!意中の相手に使えば自分しか目に映らなくさせられる最強の一品です!」
司会が落札意欲を駆り立てる言葉で台車の上に乗せられた魔法道具を紹介する。
ポーションが入っている様な瓶にピンク色の怪しげな液体が入っている。
「危なそうな薬だな。あんなのを欲しがる者がいるのか?」
「「…。」」
ジルは全く唆られなかったが両隣りの二人は何故かステージ上に目が釘付けになっている様に感じるが気のせいだと思いたい。
その後とんでもない勢いの入札が飛び交う事になる。
思ったよりもベタ惚れ薬は人気があるらしい。
「意外にも入札が多いな。」
「それだけ好きな想い人に振り向いてほしいんでしょう。分かります、分かりますよ!」
皆が必死に入札する声を聞いてテスラが大きく頷いている。
「85万Gでお願いします!」
「85万Gが出ました!もう少しでデスザード大金貨にまで届く額です!」
「ん?」
大台に迫る入札があったところでジルが反応する。
「ジル様、どうかしました?」
「今の声、フォルトゥナではないか?」
「「え?」」
ジルの言葉に二人が少し驚いている。
続けて入札があるかもしれないと三人は耳を澄ます。
「93万Gが出ました!他にはいませんか?」
「95万Gでお願いします!」
「更に値段が上がりました!大金貨まであと少しです!」
「今の入札だ。」
ジルがフォルトゥナと思われる声を言うと二人は首を傾げる。
「そう言われると似ている様な気もしますが。」
「フォルトゥナの声なんて最後に聞いたのが何十年も前だから覚えてないですよ。」
随分と会っていないのではっきりと断言出来る様な確信が持てない。
逆にジルは最後に会ったのは転生前なので百年以上が経過している事になる。
それでもフォルトゥナの声を覚えているかの様な反応だ。
「我は合っていると思う。フォルトゥナは欲望に忠実な奴だった。その時だけは普段よりも良い声色になっていただろう?」
「女性と会話する時とかですね。確かに言われてみれば入札の声は良い声だったかもしれません。」
「ずっと彼女が欲しいって嘆いてましたからね。」
女性の前では普段と違って更に良い声になる。
本人は意識した事が無いのかもしれないが魔王軍では誰もが知っている事だった。
「そんなフォルトゥナだからこそ、この商品を欲しても不思議は無い。」
異性を虜にする魔法道具ベタ惚れ薬。
女好きのフォルトゥナだからこそ惹かれてもおかしく無い商品だ。
「魔法道具の力を借りて女性に振り向いてもらおうと言う事ですか。」
「うわっ、さいてーですね。」
フォルトゥナがこれを聞いたら言葉のナイフに刺されてよろめきそうだ。
「テスラ、それは私達にも刺さります。」
「入札してないからセーフよ。」
欲しいとは思ったが行動には移していないので大丈夫だとテスラは言う。
「とにかくあの声の主に万能鑑定を使ってみるとしよう。それで分かる事だ。」
ジルはフォルトゥナと思わしき声の主に万能鑑定を使用した。
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