元魔王様とオークション島テルイゾラ 9

 ジル達を乗せた砂漠船が砂の海を進んでいく。

この巨大な船自体が魔法道具らしく、砂の上であっても水の様に進めるらしい。


「速いですね。」


「これならあっという間に到着するんじゃない?」


「到着予定時間は10分後です。何事も無ければですが。」


 町から出た後に暫く砂の上を進んで行き、島を取り囲む湖の中心にテルイゾラがある。

順調に進みさえすれば10分程で到着出来る距離だ。


「何か起きる事があるのか?」


 ミネルヴァの不穏な言葉にジルが尋ねる。


「不法入行者の発見、魔物による進路妨害等で遅れる事があります。」


「それはよくある事なのか?」


「そうですね、比較的多いかと。砂賊であった私も盗んだカードで入行していたくらいですから。」


「納得だ。」


 実際に見てきたミネルヴァの言葉なのだからそうなのだろう。

そして砂漠には魔物も相当数生息している様でその被害も多いらしい。


「進行方向に魔物の群れを発見!魔法部隊は殲滅用意!」


 そんな話しをしていると早速魔物が現れた様で、甲板に出てきた船長が大声で指示を飛ばすと、船の中に待機していた杖を持った集団がぞろぞろと甲板に出てきた。

対魔物の為に砂漠船に常駐している護衛の魔法部隊だ。


「いきなりか。」


「ランクによっては時間が掛かるかもしれませんね。」


「私達が殲滅してもいいのですが目立ってしまいそうです。」


 自分達で殲滅した方が早いだろうが確実に目立つ。

その結果余計な時間を使う事になるのなら大人しくしておいた方がいい。


「お三方が出るまでも無いでしょう。砂漠船に搭乗している護衛の魔法団は中々優秀ですから。」


「ほう、お手並み拝見だな。」


 ミネルヴァの言葉に他国の魔法使いの実力に期待して観戦する事にした。


「魔物はサンドワームか。相変わらずワーム種はでかいな。」


 砂漠船の方が大きいがサンドワームもかなりの大きさだ。

小さくても五メートル、大きい個体だと十メートルを越えそうである。


「しかも群れですから迫力もありますね。」


「うへ~、ワームってちょっと苦手なのよね。」


 集団でうねうね動いているサンドワームを見てテスラが嫌悪感丸出しの表情をしながら呟く。


「テスラのワーム嫌いは昔からでしたね。」


「だってブニョブニョしてるし得意の近接で戦いたくないんだもん。」


「それにうまみも少ないしな。」


 ワーム種もゴブリン種と同じく価値が高いのは魔石くらいだ。

ゴブリン種との違いとして肉は一応食べられるし体表も防具に出来なくもない。

だがあまり美味しくなく防御力も低いので人気は無いのだ。


「魔法構え!目標、前方のサンドワーム!放て!」


 船長の指示に従って魔法部隊から様々な魔法がサンドワーム目掛けて降り注ぐ。

杖による魔法の強化もあってかサンドワーム達を蹂躙していく。


「中々の火力だな。」


「あれだけの上級魔法を浴びればサンドワームではひとたまりもないでしょうね。」


「うわ、ぐちゃぐちゃで気持ち悪いわね。ん?」


 魔法により残骸と化したサンドワームを嫌そうに見ていたテスラが何かに気付く。


「どうかされましたか?」


「ミネルヴァ、あそこ動いてない?」


「?確かに砂が盛り上がって…っ!?」


 テスラの指差した場所をミネルヴァも見てみると盛り上がった土の下を何かが移動している様に見えた。

そしてその直後に砂漠船が大きく揺れ出した。


「じ、地震!?」


「ジル様、これは。」


「少しまずいな。下に大物がいるぞ。」


 空間把握を使用して砂の中を確認したジルが呟く。


「大物って何がいるんですか?」


「この砂漠船を超えるくらい大きなワームだ。サンドワームの上位種か?」


 姿形は同じだが大きさが先程までと段違いだ。


「な!?それはクイーンサンドワームです!デスザード全域にサンドワームを生み出していると言われているサンドワームの主です!滅多に姿を現さないのに何故今になって!?」


 ジルの言葉を聞いてミネルヴァが驚愕している。

そして上位種なのは間違い無さそうだ。

それに反応からするとかなり厄介な魔物みたいである。


「このままだと食べられちゃう!?ワームの口に入るなんて絶対嫌!」


 大きなサンドワームと聞いてテスラが絶望の表情で嘆いている。

ワーム嫌いからすれば地獄の様な状況だろう。


「既にこちらを攻撃対象と見ていそうですね。我が子を蹂躙された復讐でしょうか?」


「以前現れた時は一度に大量のサンドワームが討伐された時と聞きました。これくらいの数が倒されるのは普通なのですが。」


 砂漠船で移動中に出会う規模としては先程の群れは普通の数らしい。

クイーンサンドワームが出てくる程の数では無い。


「あ~、成る程。そう言う事か。」


「私みたいですね。」


「確証は無いがそうかもな。」


 ミネルヴァの言葉を聞いてジルとレイアが納得した様に頷く。

おそらくクイーンサンドワームが敵視しているのはレイアだ。


 町に到着するまでに砂賊だけで無く魔物も大量に狩っていたが、その中にはサンドワームもいた。

その時に大量に倒した事で怒りを買ってしまった可能性は高い。


「レイア!なんて事してくれたのよ!」


「こんな状況になるとは予想出来無かったのですから仕方の無い事です。ですからせめて自分で尻拭いして参ります。」


「いや、我がやろう。レイアには道中大量に魔物狩りをしてもらったからな。上位種なら素材にも期待出来そうだ。テルイゾラのオークションに出す物が更に増えそうだな。」


 剣を抜こうとしたレイアを制して、ジルは砂漠船の上から飛び降りて砂漠に着地した。

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