元魔王様とオークション島テルイゾラ 10

 ジルが砂漠に降りると同時にクイーンサンドワームが地上に姿を現す。

圧倒的な大きさに砂漠船の乗員や魔法団が狼狽えている。


「普通のサンドワームと違って素材が豊富かもしれないし斬るだけにしておくか。」


 魔法で燃やしたり凍らせたりして素材が傷んでしまってはオークションでの価値が落ちてしまう。

ジルは銀月を魔装して居合いを放つ事にした。


「キシャアア!」


「抜刀術・断界!」


 クイーンサンドワームがジルや砂漠船を飲み込もうと迫ってきたが、それ以上行動する事は出来無かった。

ジルの魔力による斬撃で巨大な身体を一瞬で真っ二つにされて砂の上に力無く横たわる。

それを見て砂漠船の上から歓声が上がる。


「結局目立ってしまったな。」


 サンドワームの時は見学に徹していたが、さすがにクイーンサンドワームは搭乗員達の手に余る魔物と判断した。

目の前でワームに飲み込まれていくのを見ているのも嫌なので今回は仕方無い。


「おーい、あんたがやったのか?」


「ああ、素材は倒した我が貰うぞ?」


「勿論構わない、なんなら助けてもらった礼に解体を手伝うぞ?」


「そうか?ならば頼むとしよう。」


 それぞれ素材として分けておいた方がオークションに出品する時にも楽だろう。

船長が砂漠船の解体員を数人連れて降りてきたので任せる事にした。


 砂漠船に戻ると乗っていた者達から次々に感謝される。

クイーンサンドワームと接敵して生き残れたのはそれだけ珍しい事らしい。


「ジル様、お疲れ様です。」


「ああ。その男は誰だ?」


「助けてもらった礼を言いたいと言われまして。」


 やっと解放されたジルが仲間達の下へ戻ると見知らぬ男性がいた。


「初めまして勇敢な冒険者殿。私はテルイゾラの中で奴隷商をしている者です。クイーンサンドワームから救っていただき感謝を。」


 そう言って男性が深々と頭を下げてくる。


「気にするな。大した相手では無い。」


「あれ程の魔物が大した事が無いとは。私は自分や商品が丸ごと食われそうで頭を抱えていましたが。」


「奴隷の補充の帰りなのか?」


「ええ、町の方から大量の奴隷契約の手伝いを頼まれましてテルイゾラから応援に出ていたんです。あれ程の砂賊を一度に見たのは初めてですよ。」


 この奴隷商人はジル達が大量に町に連れてきた砂賊の奴隷契約の手伝いの為にテルイゾラからやってきたらしい。

近隣の町に手伝いを頼んでいると言っていたがテルイゾラからも呼んでいた様だ。


「おかげで私も良い商品を仕入れられました。懸賞金の掛けられていた元砂賊と言うだけあって戦闘自慢が多かったですからね。」


 そう言って満足気な表情をしている

奴隷契約だけでは無く、大量の犯罪奴隷も仕入れた様だ。

それが自分と一緒にクイーンサンドワームに食われそうになっていたのだから、ジルに感謝したくもなるだろう。


「その奴隷達はオークションに出すのか?」


「そうですね。奴隷商館の方も営業していますから普通に売る事も可能です。ですが定期的に開催される奴隷専門のオークションの方が高値が付きやすいのですよ。」


「ほう、そんなものもあるのか。」


 さすがはオークション島テルイゾラである。

奴隷だけのオークションなんて中々見られない。


「奴隷に興味がおありですか?テルイゾラの奴隷商人の中ではそれなりだと自負しています。ご希望の奴隷も紹介出来るかと。」


「いや、奴隷にはそこまで興味無いが探し人がいるのだ。もしかしたら奴隷になっているかもしれないと思ってな。」


 フォルトゥナの現状が詳しく分かっていないがその可能性もある。

もし奴隷になっていたらナキナの時の様に落札して救い出すつもりだ。


「テルイゾラでですか?もしそうなのであれば急いで探した方が宜しいかと。」


「ん?何故だ?」


「明日はその奴隷オークションなので奴隷であれば出品される可能性が高いです。大切な知人が奴隷になっているのであれば急いで購入しないと手の届かないところへ行ってしまいます。」


 タイミングが良いのか悪いのか、明日がその奴隷オークションらしい。

と言ってもフォルトゥナが奴隷になったと決まった訳でも無い。


「明日か。ならば今日なら間に合うか?」


「ええ、まだ出品の手続きを完了していない可能性もあります。」


 オークションに出品されていないのであれば先んじて購入する事も出来る。

既に出品されていれば落札するしかなくなるが、そうなっても資金は潤沢なので問題無いだろう。


「そうか、教えてもらえて助かったぞ。」


「いえいえ、こちらも命を救われた身ですから。それではこれで失礼します。知人と巡り会える事を祈っております。」


 一礼して男性が去っていく。

大量の犯罪奴隷を仕入れたらしいのでこれから忙しくなるのだろう。


「と言う事だミネルヴァ。まだ奴隷になっていると決まってはいないが到着したら直ぐに調べてくれ。」


「畏まりました。」


 フォルトゥナを探す役を引き受けてくれたミネルヴァに頼んでおく。


「我らも別行動で探してもいいな。」


「いえ、それには及びません。全て私にお任せ下さい。」


 ジルの発言を否定してミネルヴァが言ってくる。

何故か焦った様な雰囲気を感じるが気のせいだろう。


「いいのか?」


「はい、お三方は初めてのテルイゾラを楽しんでいただければと。」


「ならば任せるとするか。」


 ミネルヴァが自信満々にそう言うので有り難く観光させてもらう事にした。

その後ジルは気付かなかったがレイアとテスラの目的であるデートを守ったミネルヴァが密かに二人に褒められていたのだった。

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