元魔王様と愛弟子の訪問 9

 異世界の甘味を味わった後、早速ブリジットとタイプBが激しい模擬戦を繰り広げていた。

遠巻きに見学していた高ランクのウルフ種達がビクビク怯えていたと言えばその激しさが分かるだろう。


「ブリジットも随分と腕を上げた様だな。」


「お姉様も強くなる事への執着が凄いからね。ジル達がトレンフルから帰った時から私と一緒で毎日訓練三昧だったわ。」


 ジルやメイドゴーレム達が盗賊討伐やトレンフルでの活動で与えた影響は大きそうだ。

騎士達もより一層訓練に励む様になったと感謝された。


「雷霆魔法もかなり自然に使える様になっているし良い成長だ。タイプBとこれだけ戦える者はそういない。」


 ブリジットは幾つかの雷霆魔法の詠唱破棄を会得していた。

ジルがトレンフルを去る時に渡した雷霆魔法の効果を高める魔法道具のナックルリングもしっかり装備している。

その効果もあり風魔法同様主力級の魔法となっている。


「むぅ、お姉様ばっかり褒められててずるいわね。」


「ルルネットの事も先程褒めたではないか。」


「全然足りないわ!最後に会った時から一年以上も空いたんだからもっともっと褒めてもらわないと!次は私がタイプBと戦うわ!」


 そう言って気合いを入れているルルネット。

今言った通り最後にルルネット達と会ったのは一年以上も前だった。

そんなに経っていたかとジルは思ったがルルネットはしっかり覚えていた様で、それだけ会いたかったのだろう。


「ジル。」


「ん?どうかしたか?」


 ルルネットと一緒にブリジットとタイプBの模擬戦を見ていると天ちゃんが声を掛けてくる。


「こっちこっち。」


 天ちゃんが付いてきてほしい様子で手招きしている。

チラリと隣りに視線を向ける。


「タイプB、次は私の番よ!」


 ルルネットは戦いに夢中な様子だ。

久しぶりに会うからか来てからずっと近くにくっ付いていたのだが、これなら少し席を外しても何も言われないだろう。


「何か用か?」


「外に魔族が来てる。多分私に気付いて近付いてきてない。」


「魔族?と言う事は。」


 天ちゃんの話しを聞いて空間把握を使う。

すると浮島の外には警戒する様なレイアとテスラが重力魔法で浮いていた。

人化のスキルを使って人族の姿をしているが天ちゃんには魔族だと分かるらしい。


「戻ってきたか。」


「知り合い?」


「ああ、我の仲間だ。」


 ジル達よりも長い事浮島を離れていた二人だが、ようやく帰還した様だ。


「仲間なら良かった。敵対しなくて済む。」


「天使なのにいいのか?」


「別に相手が魔族でも私は気にしない。記憶が無いからかもしれないけど。」


 魔族の敵対種族である天使族だが天ちゃんは気にならないらしい。

ジルの仲間と聞いて友好的な態度を示している。


「それなら我も助かるな。一先ずあちらの誤解も解いておくか。」


「そうしてほしい。攻撃されたら面倒。」


 レイアとテスラはまだ天ちゃんの事を知らない。

早速重力魔法で浮きつつ天ちゃんと共に浮島の外へと出ていく。

するとジル達を見て喜び半分警戒半分と言った様子の二人が近付いてくる。


「ジル様!お久しぶりです!」


「ただいま帰還しました!」


「ああ、ご苦労だった。」


 久しぶりに会ったので二人共テンションが高い。

ジルに会うのを心待ちにしていた様子だ。


「色々と報告したい事があるのですが、その前にそちらの天使とはどう言った状況なのでしょう?」


「浮島に攻め込まれているとかではなさそうですけど?」


 レイアが警戒心の強い視線を向けてテスラは首を傾げている。

一先ず天ちゃんは敵対の意思が無い事を示す様にジルの隣りで両手をあげている。


「こちらもお前達がいない間に色々とあってな。お互いの報告といくか。」


 一先ずジルの方から天ちゃんが普通の天使とは違うと言う事の説明をした。

出会った経緯から現状までを大雑把に話す。


「成る程、記憶の無い天使族ですか。」


「私達のいない間に住人が増えたんですね。」


 天ちゃんに付いて話していたので同じくシャルルメルトで出会った美咲、この間起こった天使族との戦いで出したタイプAの事も軽く説明した。


「シャルルメルトで二人、我の無限倉庫から新たなメイドが一人だな。ちなみに今トレンフルの貴族もやってきている。」


「それでは後で我々の紹介もお願い致します。」


「そうだな、紹介の場を設けるとしよう。」


 二人は魔族だが人化のスキルがあるので人族として接する事が出来る。

二人は元々トレンフルで結界を張って過ごしていたが、ブリジット達とは会った事が無いので対面しても何も勘ぐられる事は無いだろう。


「天ちゃんだったわね?私達が魔族だって事は他の人には絶対言わないでよね?」


「何で?」


「貴方達天使族と違って我々魔族は人族の明確な敵と判断されています。正体が知られると面倒なのですよ。」


 ブリジット達ならば今更そんな事を話しても問題無さそうな気もするが、わざわざ自分達から話さなくてもいいだろう。

魔族と言うのは人族の国にいるだけで色々と騒がれる存在なのだ。


「正体を隠す為に人族に化けてる?」


「そう言う事よ。」


「分かった。ジル達の仲間なら言わない。」


「本当に話しが通じる天使族なのね。」


「全ての天使族がこうであればいいのですが。」


 素直に頷いた天ちゃんを見て二人が少し驚いていた。

魔族の指示に従う天使族なんて滅多に見れるものではない。


「まあ、口約束だし記憶喪失の間だけかもしれないけどな。だから二人も注意しておいてくれ。」


「「分かりました。」」


「気を付けてね?」


「お前がな。」


 他人事の様に言う天ちゃんにツッコミを入れるジルだった。

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