元魔王様と愛弟子の訪問 7

 魔の森を更に奥へ進んでいったジル達はお目当ての魔物と遭遇していた。

キラーパンサーと言うBランクの魔物で、動物の豹を一回り大きくした様な見た目だ。

速度も動物の比では無くかなり速い。


「ルルネット、手伝ってやろうか?」


「いらないわ!ジルは邪魔しないでよね!」


「師匠を邪魔扱いとは。」


 危険な魔物ではあるがルルネットが劣勢と言う訳でも無いので言われた通りに見守っておく。

いつでも助けに入れる様に魔法の準備は万端だ。


「はあっ!」


 二つの短剣でキラーパンサーを斬り裂こうとする。

しかし軽く距離を取られて簡単に回避されてしまう。


「もう!ちょこまかと!」


 先程からこの繰り返しでありルルネットは苛立っていた。


「グルアッ!」


「私だってその速度に対応は出来るんだから!」


 しかし有効打を与えられないのはキラーパンサーの方も同じであった。

速度を活かしてルルネットに爪を振るうが回避されたり短剣で防がれたりしている。


「速度特化のお姉様の方が速いのよ!あんたなんかに負けないわ!」


「グルルル。」


 普段から格上で速度重視の戦い方をするブリジットを相手にしている事から、そう言った速い攻撃は見慣れている様だ。

キラーパンサーの攻撃をさばくのがかなり上手い。


「ルルネット、我に成長した姿を見せるのだろう?防御面は分かったがそろそろ魔法も使用してみろ。フレイムエンチャントしか使っていないが魔法の方は成長していないのか?」


「だって森の中なんだから使う魔法は選ばないとでしょ?燃え広がって森の一部が無くなっちゃうわよ?」


 ルルネットの主力となる魔法は火魔法や爆裂魔法だ。

こんな森の中で使ってしまえば燃え広がってしまうので使うに使えない。


「成る程、それを気にしていたのか。ならば気にせず全力を出していいぞ。魔の森は魔力の濃い地帯だから燃え広がっても森は直ぐに元に戻る。」


「それを早く言いなさいよ!」


 セダンでは常識なのでうっかり伝え忘れていた。

通りでルルネットが魔法を使いたがらない訳である。

ちなみに魔の森には獣道や開けた場所等が沢山存在しているので燃え広がったりしても森全てが焼けると言う事は無く、ジル達の居住区も森に隣接はしてないので問題は無い。


「それなら遠慮はいらないわね!覚悟しなさい!クイックボム!」


「グル!?」


 ルルネットが使用したのは初級爆裂魔法のクイックボム。

遠くに爆煙を発生させるだけで殺傷能力は無い魔法だが、この爆煙は目隠しとして使われるのが一般的だ。

キラーパンサーも突然視界が真っ黒になって戸惑っている。


「か~ら~の~、イグニスピラー!」


「グルゥ!?」


 続けてルルネットはフレイムエンチャントと同じく上級火魔法を使用する。

キラーパンサーの足下に魔法陣が現れて炎が噴き出し、周りの木々をも超える巨大な火柱に飲み込まれる。


 火魔法の発動が終わって火柱が収まっていくとキラーパンサーが全身黒焦げの状態になっていた。

しかし満身創痍ながらもまだ立っている。


「…グル。」


「さすがはBランクの魔物、かなりしぶといわね。でもこれで終わりよ!」


 止めとばかりに接近して短剣を振るう。

もう回避する余力は無く、キラーパンサーは地面に倒れた。


「ジル、どうだった?」


「目潰しからの本命の攻撃の流れは見事だったな。」


「でしょう!ジルの戦いを参考に私も練習したのよ!スムーズに二つの魔法を発動させる様になるのは大変だったんだから!」


「そうだろうな。」


 実戦で成功させてジルに認められた事でルルネットはとても上機嫌である。

ここまで仕上げるのに相当苦労したのだろう。


「フレイムエンチャントだけで無く上級火魔法のイグニスピラーも詠唱破棄出来る様になっていたな。」


「超級はまだまだ練習中だけどね。でもイグニスピラーを使える様になってからはかなり戦闘の幅が広がったわ。」


 フレイムエンチャントと違って遠距離からの強力な攻撃手段だ。

近接戦闘しか出来無かったルルネットはもういない。


「しっかり成長している様で何よりだ。」


「ふふん!」


 ジルに褒められて得意気になっている。

しかしジルからすると気になる点もあった。


「一つ言うとすれば素材が台無しと言う点だな。キラーパンサーの毛皮はそれなりに高値で売れるのだがこれではな。」


「素材?」


 チラリとキラーパンサーに視線を向ける。

上級火魔法に飲み込まれて全身黒焦げになったので当然毛皮として使える訳も無い。

高値で売れる魔物は討伐方法も考える必要があるとジルは言っているのだ。


「た、倒せたんだから良いのよ!一番肝心な魔石だけは手に入るんだし!」


「まあ、これは冒険者だからそう感じてしまうだけだろう。職業病だな。」


 今回はダンジョンポイントに変えるだけなので死体ならどんな状態でも構わない。

それにルルネットが言った通り、Bランクの魔物を倒せるくらい強くなったのは師匠として喜ばしい事だ。


「それで満足出来たのか?」


「そうね、キラーパンサーとの戦いは楽しかったし、そろそろ引き上げましょうか。狩った魔物はダンジョンで使うんでしょ?」


「ああ、待っているかもしれないし届けに向かおう。」


「お姉様達よりも沢山狩れてたらどうしよう!私の大活躍の成果を早く見せてあげたいわ!」


 沢山の魔物と戦えて大満足なルルネットと共にジル達はダンジョンへと帰還した。

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