元魔王様と愛弟子の訪問 6

 魔の森にやってきたジル達は二手に分かれる事にした。

実力者が四人も固まっていては効率が悪いと言う意見が出たからだ。


 魔物が潜む危険な森ではあるが、個々の実力が高く浮島の住人であるウルフ達も巡回しているので危険は少ないだろう。


「はあ!」


 ルルネットが短剣を振るって魔物を斬り伏せる。

ここまで全く危なげ無く魔物と戦えている。


「さすがに大口を叩くだけの事はあるな。」


「ふふん!そうでしょう!」


 ジルに褒められてご満悦だ。

毎日訓練してきた甲斐があったと言うものだ。


「魔装も完全に使いこなせているし、しっかり訓練を頑張った様だな。」


「お姉様にしっかり仕込んでもらったんだから。魔装は全身で使える様になれたわ。あ、魔物ね。丁度良いからこれも見せるわ、フレイムエンチャント!」


 遠くに魔物を発見したルルネットが火魔法で短剣を強化する。

間合いにしては距離があるがルルネットは短剣を振るう構えだ。


「飛炎!」


 ルルネットが短剣を振るうと熱を帯びた魔力の斬撃が魔物に向かって飛んでいく。

そしてあっさりと魔物を両断してしまったので相当な威力が込められているのが分かる。


「ほう、我の短剣術か。」


 前にルルネットの将来性を示す為にタイプBと全力で戦って見せた事がある。

飛炎はその時に披露した短剣術だ。


「タイプBとの戦いは私の未来の一つだったんでしょ?だからジルが使った技を再現してみたの。」


「別に無理して同じ技を使わなくてもいいんだぞ?」


 あれは魔王時代に様々な武器を使っていた時期があり、短剣を使っていた時に考えた技だ。

今では短剣を使う事も無いのですっかり使わなくなったので、あの時に久々に使用した。


「無理なんてしてないわよ。師匠が使う技を使ってみたいと思うのが弟子ってものなの。」


「そう言うものか?」


「そう言うものよ。」


 少し照れながらルルネットが言う。

師匠であるジルの技を自分も使える様になりたいと頑張って会得してきたのだ。


「まあ、気に入っているのなら我は構わないが。」


「ええ、とても気に入っているわ。他にも短剣や双剣の技があったら教えてね。」


「そうだな。1カ月も滞在するならその内教えてやろう。」


「やったー!」


 両手を上げて喜びを表す。

またジルに戦闘の訓練をしてもらえるのが嬉しいらしい。

暫くこちらに滞在するつもりの様なのでその内機会はあるだろう。


 それからも狩りを続けたジル達。

殆どルルネットが魔物の相手をして倒したが相当な数を無限倉庫に収納した。


「随分と狩ったんじゃないか?」


「えー、まだもう少し狩りたいわ。」


 かなりの魔物を倒した筈だがルルネットはまだ足りないと不満気だ。


「やれやれ、だから戦闘狂だと言うのだ。」


「別に狂ってはいないけど、まだ強敵が出てきてないじゃない?このくらいの敵だと物足りないのよ。」


「先程倒した魔物はCランクだったぞ?」


 Cランクの魔物と言えば冒険者でも中堅クラスが相手にする魔物なのだがそれでもルルネットは物足りないらしい。


「だったらBランクを倒して終わりにしましょ。Bランクの中でも強い魔物が来てくれると嬉しいわね。」


「仕方無い、付き合ってやるか。」


 危険な相手であれば直ぐに止めに入るつもりだが今のルルネットならそれなりに戦えているので問題無さそうだ。


「確か魔の森って外周部から奥に進む程魔物が強くなっていくのよね?」


「本来はそうだな。だが浮島の魔の森は結界に近付く程だな。浮かせる時にそう言う風に切り取ったから普通の魔の森とは少し違う。」


 形状で言えば浮島の魔の森は扇形の様になっている。

中心角の方が本来の浅い部分であり魔物が弱く、弧になっている方が本来の深い部分であり魔物が強くなっている。


「この巨大な結界もジルが常に展開しているのよね?」


「浮島に何かあった時に直ぐに分かるからな。」


「結界魔法に適性があるからこそ、これがどれだけ凄い事かよく分かるわ。」


 ルルネットが小さく溜め息吐いて呆れる様な視線を向けてくる。

ここまで巨大な結界を張るとなれば相当な魔法適性が求められる。


 それに結界魔法は展開した時に多くの魔力を消費するが、展開し続けている間も微量の魔力消費があるのだ。

ジルの場合は魔力の自然回復量が多いのと大量の食事による魔力回復により消費量を回復量が上回っているが、常人ならば簡単に魔力切れになっているだろう。


「そう言えば何か使える様になったか?」


 トレンフルにいた時は結界魔法の適性がある事も知らなかったので使える魔法が無かった。

結界魔法の訓練もしていたのなら何かしら習得しているかもしれない。


「遮音結界を使える様になったわよ。適性が低いから効果も短いし範囲も狭いけどね。」


「ほう、良かったじゃないか。遮音結界は便利だから使い勝手が良いぞ。」


 ジルも頻繁に利用する結界の一つだ。

他の者に聞かれたくない話しをする際に最適の魔法だ。


「密談とか魔物の近くでの作戦会議に使えるわよね。私も便利だからよく使ってるわ。」


「他にも何か結界魔法を覚えられるといいな。」


「この機会にまた色々とジルに見てもらおうかしら。」


 久々に師匠であるジルに会えたので、使える魔法を増やす為にも見てもらおうかと考えるルルネットだった。

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