元魔王様と愛弟子の訪問 4

 三人を連れて向かったのはセダンの街では既に精霊商店として名が広まっているジル達のセダンでの拠点だ。

営業時間中は常に忙しい店の方とは別の裏口から中に入る。


「とても盛況な様ですね。」


「ここに来るまでに精霊商店って何度か聞いたけど、シキが経営している店なの?」


「そんなところだ。シキが作った様々な物を販売しているから、時間がある時に見てみるといい。」


「それは楽しみですね。帰る前に是非寄らせてもらいます。」


 初めて精霊商店の盛況ぶりを見たブリジット達は興味津々だ。

売られている物も珍しい物が多いのでセダンの住人は勿論の事、観光客も必ずと言っていい程足を運んでくれる。

おかげで従業員である孤児院の皆は大忙しだ。


「ここが一応仕事部屋と言う事になっている。」


「なっているってどう言う事?」


「殆ど利用しないからな。重要なのはこの扉だ。」


 一応シキが仕事部屋としてメイドゴーレム達と使う事もあるらしいが殆ど浮島の方でやってしまうので使うのは稀だ。

なので浮島へ繋がる扉を置いてある部屋と言う事の方が重要度が高い部屋となっている。


「この扉装飾品じゃなかったんだ。」


 近くに寄ってルルネットが見ている。

貴族の目からしても装飾品に見えるのは有り難い。

なるべく違和感無く置いてあるのでそう思われた方がいい。


「これは何かの魔法道具ですか?」


「正解だサリー。これは遠距離間を繋ぐ魔法道具の扉だ。離れた場所に置かれているもう一つの同じ扉へと繋がっている。」


 浮島へと繋がる魔法道具の扉だ。

飛行手段を持っていなければこの扉を使うしか浮島へ入る事は出来無い。

もっとも飛行手段を持っていてもジルの結界が浮島を包んでいるので入るのは難しかったりはする。


「何それ!とんでもない魔法道具じゃない!」


「破格の性能ですね。行商人の仕事を全て奪ってしまえそうです。」


「この扉を使ってジル様の本当の拠点に向かう訳ですか。」


 三人がそれぞれ扉の効果を聞いて驚いている。

魔王時代に作った魔法道具なので今の時代で考えても技術が追い付いていないのだろう。

シキにも無限倉庫の仕分けで封印指定された魔法道具だったので、大衆の目に触れない浮島の扉として使う事になった。


「そこで一つ約束してもらいたいのは、我の魔法適性同様にこれも秘密と言う事だ。仲間内以外で招待するのはお前達が初めてとなる。」


 これは初の試みだ。

浮島の防衛設備も整ってきたので仮に悪意を持った者が侵入しても問題無い様にはなったが、やはり入れる者はしっかり見定めるべきだろう。

つまりブリジット達は問題無いとジルに判断されたのだ。


「やはりそう言った類の物ですか。扉の性能を考えても納得ですね。」


「今更ジルの秘密を暴露するなんて事しないわよ。」


「そうですね。私もブリジット様とお嬢様同様、何があっても口外は致しません。」


 三人共秘密にしてくれると約束してくれた。

今更関係を悪化させる様な事もしないだろう。

これまでの付き合いで信用出来ると判断しているので一応の確認だ。


「それよりも早く行きましょうよ!」


 ルルネットがワクワクした様子で扉を指差して言う。

扉の先のジル達の拠点が気になるのだろう。


「よし、ならば向かうとするか。我の拠点である浮島へ。」


「「「浮島?」」」


 名前からどんな場所なのか想像出来無い様だが見てもらうのが一番だとジルが先導して扉を通る。

三人も後を続いてきて無事に浮島へ入れた。


「到着だ。」


「って言われても扉を通っただけだと分からないわね。」


「別の建物の中ですか。もう一つの扉も建物内に設置されていると言う事ですね。」


 ルルネットとブリジットが部屋内を見回して感想を言っている。

確かに建物から建物に移動しても浮島に来た実感するのは難しいだろう。


「マスター、お帰りなさいませ。」


 そんな時に掃除中だったタイプCが部屋に入ってくる。

箒やバケツを持って掃除モード全開だ。


「あっ!タイプCじゃない!久しぶりね!」


「おや?ルルネット様?それにブリジット様とサリー様も?マスター、お客様ですか?」


 タイプCを見て嬉しそうに声を掛けるルルネットと少し首を傾げているタイプC。

浮島への訪問者は初めての事なのでジルに確認してくる。


「ああ、セダンに遊びに来たのに宿を取ってないと言われてな。トレンフルとは逆で浮島に居候だ。」


「そうでしたか。マスターが招かれたのであれば私達に不満はございません。滞在中に何かありましたら遠慮無く仰って下さい。」


 全てはマスターであるジルの意見が優先される。

タイプCは丁寧にお辞儀して歓迎してくれている。


「おおお、メイド力が上がっているわね。」


「トレンフルで叩き込んだ甲斐がありました。」


 ルルネットが感心しておりサリーは満足そうに頷いている。

本職のメイドから見ても申し分無い立ち振る舞いの様だ。


「その節はお世話になりました。サリー様にはまたご教授いただきたいと思っています。」


「滞在中は時間を持て余していますから何でも聞いて下さい。」


「はい、それでは早速お聞きしたい事が。」


「え?今ですか?」


 タイプCはこの機会を待っていたかの様にサリーに詰め寄る。

その真剣さに少し引かれている様な気がしなくもないがタイプCにとっては重要な事らしく全く気にしていない。


「サリー、私達はいいからタイプCの頼み事を聞いてあげて。」


「お嬢様がそう仰るなら分かりました。」


「感謝します。」


 こうしてサリーはタイプCに連れられてどこかへ行ってしまった。


「ではお前達は我が浮島の案内をしてやろう。」


「それは助かります。」


「早速行くわよ!」


 貴族の令嬢を二人引き連れてジル達は浮島を見て回る事にした。

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