元魔王様と愛弟子の訪問 3

 商隊と分かれたのでここからの案内役はジルとなった。


「それではジルさん、案内をお願い出来ますか?」


「ああ、だがその前に馬だな。」


 ブリジットの乗っていた馬とルルネット達が乗っていた馬の二頭がいる。

一先ずは預ける場所を探さなくてはいけない。


「一緒じゃ駄目なの?」


「少し特殊な場所へ案内するからな。」


「ふーん、そうなんだ。」


 トレンフル一家にはジルの秘密もある程度話している事もあり、せっかく訪ねてきてくれたのだから浮島へ招待しようと考えていた。

こちらも魔法同様秘密にしていてくれれば問題無い。

その際に建物の中から移動するので馬は連れて行けない。


「まあ、久しぶりだからって今更ジルのする事に驚いたりはしないと思うけど楽しみね。」


 その言葉を聞いて後の反応が楽しみになった。

浮島を見て驚かない者はいないだろう。

封印指定された無限倉庫の物もシキの異世界の知識も思う存分使われているので、浮島の中もかなり色々と発展しているのだ。


「それでは馬はどこかの宿にでも預けますか?」


「当てはある。我が昔世話になっていた宿屋だ。」


 ジル達がセダンの街で最初の頃から世話になっていた宿屋。

今ではジル達が教えた異世界の料理によって大繁盛しており、妻子だけだった従業員も大幅に増えている。


「リュカ。」


「ジルさん、こんにちは。食事していくの?」


 宿屋の前を掃き掃除していた看板娘のリュカに声を掛けると駆け寄って尋ねてくる。

まだ朝方なので本格的に忙しくなるのはこれからなのだが、人気宿屋は人の出入りも多い。


 忙しくさせ過ぎたかと前に心配したのだが女将にもリュカにも嬉しい忙しさだと感謝されるばかりだった。

今でも教えた料理で得た利益の一部を集めて定期的に渡してくれているのでこちらも助かっている。


「それはまた別の機会に寄らせてもらう。今回は知り合いの滞在中の馬を預かってほしくてな。」


「馬のお世話だね。宿代と同じ額を貰う事になるけど大丈夫?」


「それで頼む。」


 自分達が泊まる訳では無いが馬の世話をしてもらうとなれば宿代が掛かってしまう。

と言っても元々良心的な値段の宿屋なのでそこまでお金も掛からない。


「私の馬は明日まで預かってもらえれば大丈夫です。妹のは一先ず2週間程の代金を渡しておきます。」


「分かりました。それでは馬はこちらで預かりますね。」


 ブリジットからお金を受け取ったリュカは馬を引いて厩舎の方へと連れて行く。

前は馬の世話も女将やリュカがしていたのだが、そちらも従業員を増やしたらしくベテランが管理してくれるので安心である。


「お姉様、2週間なんて一瞬だよ?短くない?」


 今の馬を預ける期間を聞いてルルネットが不満気に言う。


「もし滞在時間を伸ばしたいと感じたらその時にまたお願いすればいいでしょう?ですが事前にお母様から言われている通りに、セダンでの滞在時間は長くても1ヶ月までです。滞在時間が過ぎたら速やかに帰還する事。」


「もう、何度も聞いてるから分かってるわよ。」


 ルルネットが聞き飽きたとでも言う様に両耳を塞いで首を振っている。

おそらくトレンフルや道中で何度も何度も言われていたのだろう。


「サリー、ルルネットが何を言い出しても聞いてはいけませんよ?」


「分かっています。ミュリット様にも頼まれていますから。」


「私の信用が無さすぎない!?」


 二人のやり取りにルルネットが驚いている。

専属メイドであるサリーはルルネットから頼まれても頷かない様に、二人の母にしてトレンフルの領主であるミュリットからもお願いされている様だ。


「今回を楽しみにしていたのは知っていますからね。少しでも長く滞在しようと画策しそうですから。」


「うぐっ!?」


 それを言われてルルネットが言葉に詰まる。

少しでも長くセダンに滞在したいとは思っていたので図星であった。


「ルルネットやサリーと違ってブリジットは直ぐに帰るのか?」


「はい、今回の私は以前同様商隊の護衛ですからね。明日商隊がトレンフルに帰還するのと同時に護衛の私も帰らねばなりません。」


「成る程。」


 前回同様即刻トレンフルに帰還する予定らしい。

少しはゆっくりしていけばいいのにとも思うが、護衛であるブリジットは商隊と足並みを揃える必要がある。

今度はゆっくり遊びにきてほしいものだ。


「私は護衛じゃなくて遊びにきたのよ!だから暫くセダンに滞在するから宜しくね!」


 ブリジットと違ってルルネットは遊びにきている。

サリーはその護衛兼お世話係だろう。

直ぐにトレンフルに引き返す訳では無いので今後の予定を考えて楽しそうだ。


「お嬢様、一応他領の領地経営を学ぶと言う建前があるのをお忘れ無く。」


「分かっているわよ。」


 本当に分かっているのか疑わしい程にルルネットはご機嫌であった。

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