元魔王様と愛弟子の訪問 2
前にシキのドライフルーツを売りに突然トレンフルに行った以来なのでかなり久しぶりに会う。
エトワールの生誕祭にも招かれていたのだが領地の事が忙しくて時間が取れないと言う旨を伝えていた様で会えなかったが、こうして護衛を受けていると言う事は大分落ち着いたのだろう。
「ブリジット、久しぶりだな。」
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」
こちらにやってきて馬から降りたブリジットが一礼する。
所作の一つ一つが相変わらず丁寧で気品のある騎士だと感じる。
異性だけで無く同性でも見惚れている者が多いのも納得だ。
「セダンに来られたらまた会えると思っていましたよ。」
「依頼を受けたのは偶然だったがな。」
今日は定期的な依頼の為にたまたま納品依頼を受けにやってきていただけだ。
普段通り浮島で過ごしていたら気付かずにすれ違っていたかもしれない。
「それは運が良かったです。行商の護衛以外にも今回は目的がありましたので。」
「それは我に何か用があったと言う事か?」
「概ねそうなりますね。今回は私だけが来た訳ではありませんから。」
そう言ってブリジットがチラリと後方を見ると一頭の馬がこちらに早足で近付いてきていた。
覚えのあるメイド姿をした者が馬を操っており、その背後から小さな誰かが飛び降りた。
「ジルー!」
「お嬢様!?」
そう声を上げながらジルの方に飛び込んでくる。
突然の行動にメイドの方が驚愕しているがこれくらいで怪我をする様な鍛え方はしていない。
それを見たジルは飛び込んできた者を優しく受け止めてやる。
「おっと。」
「久しぶりね!遊びに来たわよ!」
ジルに無事に受け止められて胸から顔を上げ、花が咲いた様な満面の笑みを浮かべているのはブリジットの妹であるルルネットだった。
トレンフルに滞在している最中にジル自らが訓練を付けた弟子の一人である。
元々この若さでは考えられない戦闘の才を持っていて、出会った頃から一部の魔装や上級魔法の詠唱破棄まで会得していたとんでもない少女なのだ。
「久しぶりだなルルネット。」
弟子の訪問にジルも歓迎の言葉を送る。
今回は商隊の護衛としてブリジットだけでは無くルルネットも付いてきたらしい。
前にトレンフルから帰る時に遊びに行くと言っていたので有言実行である。
「うん!やっと会えたわね!」
ジルの言葉に嬉しそうな声を上げている。
久しぶりに会えて嬉しいと言うのが良く伝わってくる。
「少し大きくなったか?」
ルルネットを地面に降ろすと前よりも首を下に傾けていない気がする。
子供の成長は早い。
「当たり前じゃない!ジルったらこっちから顔を見せに来ないと全然来てくれないんだし!」
「悪い悪い、我も色々と忙しくてな。」
頬っぺたを膨らませて不満そうな表情になるルルネットを宥める。
最近は色々と重なり過ぎてジルにもゆっくりしている時間が無かった。
またトレンフルを訪れて新鮮な海鮮を調達したいものだ。
「ジル様、お嬢様を受け止めて下さりありがとうございます。」
「サリーも久しぶりだな。」
「はい、お久しぶりです。」
馬から降りて安心して一息吐いているのはルルネットの専属メイドであるサリーだ。
トレンフルにいた時はジルも色々と世話になった。
「各々積もる話しもあるでしょうし、どこか落ち着いて話せる場所にでもいきませんか?」
ここはギルドの前で人通りも多い。
仲の良いジル達に気を遣ってミラも引き上げているし、商隊も宿への移動を開始していた。
「そう言えば私とお姉様とサリーは、まだ宿を決めてないのよね~。それなりに長く気兼ね無く泊まれるところがいいんだけどな〜。」
「つまり我に寝床を用意しろと?」
意味あり気な台詞と共にルルネットが見上げてくる。
ブリジットなら以前と同じく商隊の宿屋ではないかと思ったのだが、今回は別々で泊まる事にしたらしく後ろで困った様な表情をしている。
おそらくルルネットが一緒がいいと我儘を言ったのだろう。
「いいじゃないの!遠路はるばるやってきた可愛い弟子の頼み事なのよ!」
自分で言うかとも思ったがルルネットが可愛いのは知っている。
その姉が直ぐ近くにいるのだ、将来美人になるのは約束されたも同然だろう。
「やれやれ、仕方無いな。我儘な弟子を持つと苦労する。」
「やった!」
「ジルさん、ありがとうございます。」
「ジル様、突然申し訳ありません。」
ジルの言葉に一人喜ぶルルネット。
それとは逆にブリジットとサリーは申し訳無さそうに頭を下げている。
こう言った対応の差がまだまだ子供なのだと感じさせてくれるが微笑ましい事だ。
「それではブリジット様、明日の出発の時にギルドの前で待ち合わせとしましょう。」
「分かりました。今日はゆっくりと休んで下さい。」
機会を窺っていた商隊長と短くやり取りをしてその場で解散となった。
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