79章
元魔王様と愛弟子の訪問 1
美咲のダンジョン攻略を終えて暫く経ったある日、ジルはギルドに納品依頼を受けにやってきていた。
「はい、これで納品依頼は達成されました。相変わらずとんでもない量ですね。」
ジルの納品物の確認が終わって受付嬢のミラが一息吐く。
普通ならカウンターでささっと終わらせてしまえるのだが、ジルの場合は一度に複数の依頼を受けて大量に持ち込んでくる。
なので複数人での作業が当たり前となっていて他のギルド職員を呼び寄せて皆で取り掛かるのが日常だ。
数十分も掛けてやっと終わらせたところである。
「だが査定だけで楽にはなっただろう?」
前は同時に魔物の解体依頼も出していた。
今ではレイアやテスラに教え込まれた浮島のワーウルフ達が勝手にやってくれるので助かっている。
「それはそうですが大量の解体依頼が無くなったのは寂しくもありますよ。誰か専属で雇ったんですか?」
「まあ、そんなところだな。」
浮島の存在は明かせないので濁しておく。
最近更に腕を磨いてきた様で解体職人のワーウルフが多くなってきた。
どこに出しても恥ずかしくない腕前なので他に依頼する必要も無い。
「そう言えばジルさん、この後ってお暇ですか?」
「特に予定は無いがミラの言葉次第では急用が出来るかもしれないな。」
面倒事を受ける気は無いので内容次第である。
「そんな面倒な事は頼みませんよ。前にジルさんも受けてくれた事がありますから。」
ミラは笑いながらそう言ってくる。
もうジルの担当受付嬢になって長いので性格は理解しているのだ。
「何かの依頼か?」
「はい、大量の荷運びの依頼です。」
ジルは容量無制限の収納スキルである無限倉庫を持っている。
それを当てにしての依頼だろう。
「前に受けたと言うとトレンフルの商人団体の話しか?」
シキの前契約者であるブリジットと出会うきっかけになった依頼だ。
「正解です。今日中には到着すると早馬で連絡を受けているんです。ジルさんが手伝ってくれたら直ぐに終わらせられますからね。ギルドとしても大量の人件費が削減出来るので助かります。」
「そう言う事なら引き受けてやろう。早速大量の荷物の収納に向かうぞ。」
「話しが早くて助かります。」
ジルとしてもそこまで苦労する事無く大金が得られるのでこの依頼は有り難い。
本来であれば貴重な収納スキル持ちを低ランク御用達の荷運びの依頼に雇うなんて冒険者からすると屈辱的に感じる者もいるのだが、報酬を考えるとジルは全く気にならない。
ミラに案内されて倉庫に向かうと取り引きされる荷物が大量に用意されていた。
前もかなりの量の馬車でやってきていたので、それを埋めるとなるとこれくらい必要になるのだろう。
運び出すには苦労する量だが無限倉庫があれば簡単だ。
「これで全部か。毎回相当な量だな。」
数分程度で全てを収納したジル。
この光景を初めて見るギルド職員達が驚愕していたのが新鮮だ。
「往復の時間が一月ですからね。トレンフル側も仕入れるだけ仕入れたいのでしょう。」
持ってきた商品を全て売却してこちらからも大量の商品を購入する。
途中で魔物や盗賊に襲われるリスクもあるが成功すれば商会にとって莫大な利益になる。
「ミラさん、トレンフルの方々が到着されました。」
「分かりました、直ぐに向かいます。」
「良いタイミングだったな。」
「そうですね。それでは早速荷運びしてしまいましょうか。」
ギルド職員の一人が報せにきてくれたので二人はギルドの前の大通りへ向かう。
そこには前に見た様に大量の馬車が綺麗に一列に並んでいた。
「お久しぶりですミラさん。」
「商隊長さん、お元気そうで何よりです。こちらはいつもの宿の招待状となっています。」
「毎度すみません。おや?そちらの方は確か前に会った。」
ミラから招待状を嬉しそうに受け取った商隊長がジルに気付く。
「覚えていられましたか。今回も荷運びを手伝ってくれるジルさんです。」
「そうでしたな。冒険者を引退なされたら是非うちの商会で働いてもらいたいと思っていますよ。」
ジルの持つ無限倉庫は商人からすれば喉から手が出る程欲しいものだ。
雇えれば商会の成功は約束された様なものなのだ。
「引き抜きは駄目ですよ。ジルさんはセダンの優秀な冒険者なんですから。」
「はっはっは、残念ですが仕方ありませんな。」
ジルの前で手を広げながらミラが商隊長にジト目を向けている。
セダンのギルドの稼ぎ頭を引き抜かれてはたまらない。
商隊長も本気では無さそうだが残念そうに笑っている。
「それでは荷物の積み込みを始めますね。」
「はい、宜しくお願いします。」
ミラに支持されながらジルが無限倉庫から荷物を取り出して乗せていく。
商隊の人達がこれまたその収納量に驚愕していて反応が面白かった。
「ジルさん、お疲れ様でした。こちら報酬となります。」
「確かに受け取った。そう言えば商隊長、今回もブリジットが護衛で来ているのか?」
報酬を受け取ってから周りを見回す。
これだけの商隊なので優秀な護衛を付ける必要がある。
風の姫騎士として有名なブリジットがいれば安心だ。
「はい、現在セダンの領主であるトゥーリ様へのご挨拶に向かっておられます。」
「そうか、せっかくだから会っていくか。」
「もう直戻ってくると思いますが。」
「来た様ですよ。」
ミラが領主の屋敷がある方角を見ながら言う。
こちらに数匹の馬が近付いてきており、先頭を歩いている馬に乗っているのがブリジットだ。
向こうもこちらに気付いた様で笑顔を浮かべていた。
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