77章

魔法生命体達と浮島防衛戦 1

 少し時間を遡り、浮島ではシキが大慌てで飛び回っていた。


「大変なのです大変なのです!何でジル様の留守を狙ってくるのです!?」


 現在浮島の周囲は大量の天使族によって囲まれていた。

ジルの展開している結界で外からは見えない様に偽装しているのだが、探知の聖痕持ちによってバレていた。


「シキ様、落ち着いて下さい。たかだか総数百を超える天使に囲まれているだけです。」


 慌てているシキにタイプCが落ち着く様に言う。

逆にこちらは全く慌てている様子が無い。


「とってもピンチって事なのです!冷静ではいられないのです!」


 現実を突きつけられてシキが頭を抱える。


「主様は戻ってこないの?」


 ホッコがジルの帰還に付いて尋ねる。

最強のご主人様が戻ってくれば天使との戦いだって何とでもなる。


「あっちも天使と交戦中らしいのです。ジル様の援軍は期待出来無いのです。」


 先程意思疎通によってジルから告げられた。

浮島は残存戦力で何とかするしかない。


「では狙っての事でしょう。マスターは天使族と因縁がありますから。」


「因縁?そんなものがあったんですか?」


 タイプDが一人首を傾げている。

浮島で暮らす様になってから今までの情報を共有しているのに覚えていない様だ。


「タイプD、貴方は本当に人の話しを聞きませんね。」


「タイプD、貴方は魔法にしか興味が無いのですか?」


 タイプBとタイプCが呆れた様な目でタイプDを見る。


「少し忘れてしまっていただけです!つまりマスターと因縁のある天使族が現在マスターに絡んでいると言う事ですね?」


「多分そうだと思うのです。」


 ジルは何度か天使達と交戦している。

それの報復でもされているのだろう。


「ならば主戦力はマスターの方に向かっている筈です!我々の中で最も警戒すべき強者はマスターなのですから!」


「当然なの!」


「それはそうですね。」


「タイプDにしてはまともな考察です。」


「えへへ!」


 皆に褒められてタイプDが照れている。

実際にライエルを含む聖痕持ちが五人もジルの為だけに向かっている。

普通に見れば過剰戦力と思われるが、ジルが呼び出したタイプAによって返り討ちにあっていたりする。


「それでも天使族の数が凄いのです。ピンチには変わりないのです。ジル様の結界もその内突破されちゃうのです。」


 現在も天使達によって攻撃されている。

結界が破壊されるのも時間の問題だ。


「シキ様、ならば打って出るべきです!私達の拠点を攻めてきた報いを受けさせてやりましょう!」


「それは名案ですね。マスターの大切な拠点を攻撃するのは万死に値します。」


「受け身でいれば浮島への侵入を許す事にも繋がってしまいますからね。私も賛成です。」


 タイプDの言葉にタイプBとタイプCも頷く。

マスターであるジルの本拠地を攻めてきた愚か者を許してはおけない。


「メイド達の血の気がやばいのです。」


 いつまでも抑えつけてはおけなそうなので早く作戦をまとめる必要がある。

時間が掛かれば勝手に飛び出していきそうだ。


「おーい、シキちゃーん。」


 こちらに向けて駆け足で近付いてくる美咲が呼んでいる。


「美咲!どうだったのです?」


「それが全然駄目なんです。天ちゃんったら全く起きてくれなくて。最高級の寝具をあげちゃったからかもしれません。」


「うがー、戦力が一人消えたのですー!」


 相手が天使族ではあるが、シキは天ちゃんの力も当てにしていた。

美咲に起こしにいってもらっていたのだが、気持ちよさそうに眠っていて夢の中から戻ってこないらしい。


「ぴ、ピンチなんだよね?わ、私も頑張って戦うよ?」


「美咲とシキは戦力外なのです。戦場に出たら味方の邪魔になるから大人しくしているのが役目なのです。」


「そ、そうだよね。皆ごめんなさい。」


 浮島がピンチなのに力になれず美咲が申し訳無さそうに頭を下げる。


「浮島の住民である美咲様が気になさる事ではありません。貴方はダンジョンマスターとしての役目を担ってマスターの助けとなっているのですから。」


「非戦闘員を守るのも留守を預かる我々の役目です。マスターの大切な帰る場所を誰にも壊させたりしません。」


 タイプBとタイプCは全く気にしていない。

美咲の役割りはダンジョンマスターとしてダンジョンを運営する事にある。

しっかりと役目を果たしているので、浮島を守るのは自分達の仕事だ。


「私も全力で天使達を蹴散らしますよ!だからシキ様、私に全力を出す許可を下さい!」


 タイプDはシキの目の前まで迫って力強い言葉と共に目力で訴えてくる。

今のタイプDは制限を掛けられた状態で浮島での生活を送っている。

しかし緊急事態時はジルやシキの一存で解除されるのだ。


「むむむむむ、分かったのです。タイプDの全力を許可するのです。皆にお願いするのです。浮島を守ってほしいのです。」


「「お任せ下さい。」」


「うおー、久しぶりに全力の魔法を使えますよー!」


 タイプBとタイプCが一礼してタイプDが雄叫びを上げている。

緊急事態の為に全力を許可されてテンションが最高潮に上がっている。


「ホッコも戦うの!」


「ホッコはお留守番です。」


「何でなの!?」


 メイドゴーレム達に引き続いて戦う気満々だったホッコだがシキから待ったが掛かる。


「浮島の中の戦力もある程度必要なのです。攻め入られた時に対処する最終防衛の要なのです。」


「最終防衛の要!仕方無いから引き受けてやるの!」


 格好良い言葉にホッコは納得してくれた。

正直に言うと聖痕持ちがいた場合ホッコでは危険なので浮島の中で待機してもらいたかった。

なので本当の最終防衛の要はライムだったりする。


「ではタイプB、タイプC、タイプDは結界の外で天使族達を殲滅してほしいのです。手に負えなかったらジル様が来るまでの時間稼ぎでも大丈夫なのです。ホッコ、ライム、ワーウルフ達は浮島の中で待機して、踏み込んできたら全力で対処してほしいのです。」


 シキの指示で浮島の者達が自分の役割りを遂行しようと動き出した。

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