元魔王様と納品と勧誘 7
突然手を差し出されたのでまだ腹を空かしているのかと、ジルは無限倉庫から取り出した串焼きを渡してやる。
「違う、食べ物では無い。」
そう文句を言いつつ串焼きに齧り付くドメス。
空腹で倒れていたのでまだまだお腹には入りそうだ。
「ならば何だその手は?」
「金が無くては移住も出来無い。」
「つまり我に金を寄越せと言う事か。」
王都からセダンまではかなり距離がある。
普通の者はジルの様に一日で行き来したり大量の荷物を収納したり出来無い。
なので別の場所への引っ越しとなるとお金もそれなりに掛かってしまうのだ。
「何も無償で提供しろと言う訳では無いから当然その見返りはある。俺がセダンに住めば気軽に仕事を頼めるだろう?その際にジルやお仲間の依頼は安くしてもいい。」
「ふむ。」
ドメスのスキルはジルにとって使い勝手が良いので移住はしてもらいたい。
ここで恩と言う名のお金を渡しておけばセダンに来てから依頼する時に何かと役立ちそうだ。
それに今はお金に困っていないので渡す余裕もある。
「我の条件を呑むなら金をやろう。丁度先程大量に稼いできたところだからな。」
「本当か!聞かせてくれ!」
ドメスは今は何よりもお金が欲しい。
ジルが金払いが良いのは知っているので凄い食い付きだ。
「今後我と仲間の仕事の依頼を殆ど無償で引き受ける事、これを条件にする。代わりに引っ越しや当面の生活を保証する金を今くれてやろう。」
殆ど無償と言ったのは少なからずお金を払うつもりではいるからだ。
さすがにタダ働きさせるのは悪い。
「無償の仕事…、馬車馬の如く働かされると言う事か…。」
「そこまで頻繁に利用する予定は無いから安心するといい。」
「成る程、ちなみにどれくらい貰えるんだ?」
金額次第ではその提案にも頷くと言った様子だ。
「手を出してみろ。そうだな、これくらいあれば足りるか?」
ドメスが両手を出してきたのでその上に無限倉庫から出した大金貨を積み上げる。
「だ、大金貨が10枚!?1000万G!?」
手の上に乗せられた大金貨を見てドメスが驚いている。
金貨にすれば両手から零れ落ちる程の大金だ。
「その反応だと足りそうだな。」
「か、返せと言われてももう返さないぞ?」
ドメスは急いでジルから受け取った大金を懐に仕舞う。
悪人に目を付けられてはたまらない。
「それは構わないが、我の渡した金を持ち逃げして移住しないなんてのは無しだぞ?」
「そんな事はしない。これなら早速移住の準備が出来そうだな。」
「ならば準備出来次第セダンに来るといい。我は先に帰っている。」
「おう、助かったぞジル。またセダンに到着したら宜しくな。」
ドメスは礼を言って走り去っていった。
これで優秀な人材をセダンに引き入れる事が出来た。
物作りに関してはかなり重宝するだろう。
「さて、我も帰るとするか。」
王都での目的を遂げたジルは街から出て人気の無い場所で空に浮かぶと、セダンの街を目指して魔法で移動する。
休憩を挟みつつセダン領を目指す。
「っ!?」
暫く飛び続けてそろそろセダンの領地に入りそうだと言うところで突然凄まじい殺気を感じた。
自分を中心に断絶結界を何重にも展開すると真上から光りの剣が大量に降り注いできて結界に直撃する。
ジルの断絶結界を何枚か破壊する程の高火力だ。
「ふははっ!やっぱりこれくらいは簡単に防ぐよね!こうでなくちゃ面白くない!」
ジルに攻撃が防がれたと言うのに、その攻撃を放った天使は上機嫌な笑顔を浮かべつつ上から降りてくる。
「お前は、ライエルか。」
「覚えていてくれて嬉しいよジル!僕もあの日から君の事を忘れた日は一日も無いさ!一日でも早く君を殺したいとずっと想って過ごしていたんだからね!」
笑顔を浮かべているライエルだが凄まじい殺気だけはずっと向けられている。
人族よりも圧倒的に上位種族である自分が受けたあの日の屈辱を忘れた日は無い。
「やれやれ、自分から挑んでおいて負けて逆恨みか?」
「相変わらず自信のある余裕な態度だね。でも今回は簡単にはいかないよ?君を殺す為に僕は恥を捨てたからね。」
そう言ってライエルが光る玉を取り出す。
それを真上に放り投げると玉が弾けて二人を包む光りのドームを形成する。
「結界か?」
「本国の物作りが好きな天使特製、特殊結界を生み出す魔法道具さ。本来は魔族を確実に殺す為に逃げ道を塞ぐ目的で使う物なんだけどね。」
「お前が逃げられないがいいのか?」
「これは天使族しか通り抜けられない神聖な結界だから僕には効果無いよ。それに言ったろ?恥は捨てたんだから今回敗北するのは僕では無く君だ。」
ライエルが話し終わってニヤリとした笑みを浮かべると同時に、その周囲の空間に複数の亀裂が入った。
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