元魔王様と納品と勧誘 6
ユメノに教えられた甘味処は直ぐに見つかった。
かなりの行列が出来ている大人気の店であり、1時間近く待たされた。
なのでその時間を取り戻すくらい様々な甘味を味わった。
「待たされただけの事はあったな。」
全品制覇したジルは大満足で店を出てきた。
この辺りでは見掛けない様な甘味も多く、極上蜂蜜を使った美味しいお菓子の作り方まで教えてもらえた。
「ん?」
店を出て歩いていると脇道に倒れている男性が目に入る。
「おい、大丈夫か?」
「は、腹が減って…。」
「お前、ドメスではないか。」
ジルが近付いて声を掛けると男性は顔を上げる。
その者は以前王都に来た時にホッコの龍聖剣を作ってくれたドメスだった。
「お前は確か…うぐ。」
ドメスの腹が強烈な空腹を訴える音を鳴らして再び地面に倒れる。
「また腹を空かしているのか。」
ジルはどうせまた素材に注ぎ込んだのだろうと呆れながらも無限倉庫から串焼きを取り出してやる。
「肉!?」
「慌てて食べると喉に詰まるぞ。」
ドメスがジルから受け取った串焼きに齧り付いて肉を口一杯に頬張っている。
あっという間に串焼きを食べ終わったドメスは多少空腹が治ったのかその場に立ち上がる。
「ふう、生き返った。」
「それは良かったな。」
「確かジルだったな?食べ物を分けてくれて感謝する。」
前に大口の取り引きをしたからか一応ジルの事は覚えていた様だ。
「また素材に金でも使ったのか?お前その内本当に餓死するぞ?」
「使った事は使ったが食費だって残していた。だが底を付いてしまったのだ。」
前に出会った時と違って多少はお金の使い方に気を付けていたとドメスは言う。
前科と今の現状からは中々信じられないが取り敢えず話しを聞く事にする。
「何かあったのか?」
「単純な話しだ、仕事が殆ど来なくて金を稼げていない。」
「また仕事を選んでいるのか?」
「俺だって学習している。仕事を選び過ぎれば生活費が稼げなくて餓死一直線だってな。だから気乗りしない依頼も受けていたんだ。」
気に入らなければ王侯貴族の依頼であっても受けなかったドメスだが、今は自分のスキルを理解してくれる依頼人ならしっかりと依頼を受けているらしい。
「それならば多少は稼げるだろう?」
「仕事を受けられればな。俺に仕事を持ってくる者は多いが要求する素材を聞いて止める者も多過ぎるのだ。それが一番の原因だ。」
何でも作れるが謳い文句のドメスだが、それは作る為の素材があればの話しだ。
依頼の品物の価値が高い程にドメスの提示する素材の入手難易度も高まるので断念する者が多いらしい。
「成る程、その問題はお前のスキルの特性上仕方無い事だからな。」
「ああ、俺は素材が無いと何も作れない。」
「それで食費も稼げず行き倒れたと?」
「そう言う事だ。」
大口の取り引きも何個かはあったらしいが、ずっとそれで食い繋げるかと言えばそこまででは無い。
趣味の素材集めにも金は掛かるので依頼が無ければ生活出来無い。
「それでどうするんだ?今は我に救われたが、直ぐに帰るからずっと王都にいる訳では無いぞ?」
明日にでもまた行き倒れても助ける事は出来無い。
自分で生活の地盤を固めてもらう必要がある。
「実は俺はこのまま王都で店を開き続ける事に少し悩んでいるんだ。王都は人も物も大量に集まるので俺への仕事の依頼も俺が欲しい物も大量に溢れていると考えていた。だが現実は違った。」
「その様だな。」
ドメスが言う様に王都は国で一番栄えているので人も物も大量に集まる。
しかしその分他の店も人も多くなる。
ドメス以外のところへ依頼を出す事が出来るし、ドメスが欲しがる物を他の者も欲するのだ。
「俺はもっと俺のスキルが活かせる場所へと移住しようかと考えている。」
「ならばセダンに来るといい。住みやすくて良いところだぞ。」
「幾つか候補を考えていたがその中には当然セダンもある。」
ジルが提案するまでも無く、候補の一つに考えていたらしい。
「セダンの街の近くには魔の森と言う多種多様な魔物が大量に生息する広大な森があったな?」
「ああ、それがあるからセダンの冒険者は依頼に困る事が無い。」
魔の森はセダンの財源でもある。
危険な場所だが様々な魔物の素材が手に入る場所なので冒険者達が食い扶持に困る事は無い。
そんな場所なのでジルが広範囲を貰いたいとトゥーリに交渉した時も簡単には頷いてもらえなかったくらいだ。
「俺は特にそれに目を付けている。そこならばダンジョン並に様々な素材や希少で珍しい素材にも出会えるかもしれない。」
「ふむ、確かに魔物の素材と言う面ではかなり潤っている街だとは思うぞ。我もたまに大量の素材を納品したりするからな。」
ジルお得意の納品依頼は魔物の素材も多い。
ギルドに大量に納品した日から暫くは、領地全体が魔物の素材で潤っていたりする。
「そうか、本格的に計画してみるのもいいかもしれないな。」
「いいんじゃないか?我も気軽に頼み事が出来て便利だからな。」
ドメスのスキルは素材さえあれば何でも作れるのでジルとしては使い勝手が良い。
近くにいてもらえれば色々と頼みやすい。
「そうか?ならば。」
そう言ってドメスが右手を開きながらジルに手を差し出してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます