76章
元魔王様と天使達への切り札 1
亀裂が広がって空間に穴が開いていく。
その中から次々と天使族が出てくる。
「どうだいジル!ナンバーズがこれだけ揃うなんて、この前の魔族との戦争並みの戦力だよ!」
ライエルの左右に二人ずついるが全員ナンバーズらしい。
ライエルと同格の存在が他にも四人いるとはかなりの戦力である。
「そこまで我を脅威と見ているのか?」
「確かに君は強いけどこれは過剰戦力だよ。だけどこれで確実に君を殺せる。」
今回のライエルは本気でジルを殺す気だ。
自分の力だけではジルを殺せないと判断して魔法道具に加えて仲間の力まで投入してきた。
「これがライエルの言っていた人族ですか。」
錫杖を持った眼鏡を掛けている天使が呟く。
「がははは!中々骨のありそうな奴だな!」
盛り上がる筋肉を見せつける様にポーズを決めながら大柄な天使が言う。
「でも全員で相手する程かしら?」
唯一の女性の天使がジルを侮る様な目で見ながら言う。
「わしはサシで戦いたいのう。」
腰に剣を提げている老人の天使が言う。
「さあジル、一方的な虐殺の始まりだよ!」
「そう簡単にやられてやる訳にはいかないな。」
全員の手に聖痕があるのを確認した。
さすがに五人のナンバーズを相手に離脱する余裕は無さそうだと判断してジルは応戦する事にした。
もし逃げれたとしても浮島まで追ってこられては非常に面倒だ。
「ジル様!大変なのです!」
これから戦いが始まると言う時にシキからの意思疎通が入る。
声色から相当慌てているのが伝わってくる。
「どうしたシキ?こちらも取り込み中なんだが。」
「天使が浮島を取り囲んで攻撃を仕掛けてきそうなのです!」
「何?」
まさかの同じタイミングで浮島の方も天使族と交戦しそうだとシキが言う。
偶然とは思えず驚きながらライエルに視線をやるとニヤリと笑っている。
「あれ?もしかして気付いたのかい?やっぱりジルが関係していたんだね。」
「と言う事は我がいない間を狙っての事か。」
確証があった訳では無いらしいが、ジル関連だろうと分断している最中を狙ったのは事実らしい。
「あんな隠されてる物があったら気になるだろう?前に見た魔族の仲間がいるかもしれないんだしさ。」
前に魔の森で戦った時に同行者のレイアとテスラが魔族なのは知られている。
天使族の本命でもあるので怪しげな物を見逃す訳も無い。
「よく見つけられたな。」
「それは私の探知の聖痕の力よ。私の聖痕の前にはどこへ隠そうと無駄なの。」
「成る程、優秀な聖痕だ。」
結界魔法によって厳重に隠していたのだが、それすらも見破られてしまったらしい。
やはり聖痕の力は優秀である。
「シキ、悪いが我は直ぐにそちらへ帰れん。天使共に囲まれているからな。」
「ジル様もなのです!?」
「ああ、だからそっちはそっちで対処してくれ。結界は総攻撃を受ければその内砕けるだろうから、その前に迎撃だ。」
野晒しとなってしまえば浮島にはかなりの被害が出てしまう。
それに美咲の安全にも関わってくるので結界は維持してもらいたい。
「全力でいいのです?」
「お前に指揮権は預ける。タイプDの制限も解除していい。」
「了解なのです!ジル様もお気を付けてなのです!」
仲間や拠点を守る為なので全力で相手をするしかない。
浮島の方は残っている面子で何とかしてもらい、自分の戦いに集中する。
「会話は終わったかい?それじゃあ始めようか!光剣射出!」
「フレイムエンチャント!」
ライエルが放ってきた無数の光剣を火魔法で強化した銀月で弾き飛ばす。
「おらおら!こっちにもいるぜ!」
「そんな事は分かっている。」
「うおっ!?」
後ろから聞こえた声に振り向く事も無く剣を振るって対処する。
残念ながら回避されたが遠ざける事は出来た。
「気を付けるんだよ。ジルは普通の人族じゃない。」
「その様ね。それなら遠距離攻撃が有効かしら?」
「火力は必要だけどね。光剣よ蹂躙しろ!」
ライエルが視界一杯に広がる程の大量の光剣を生み出す。
広範囲高火力のライエルの大技だ。
「超級水魔法、メイルシュトローム!」
女性の天使が詠唱破棄した水魔法を使用して、ジルを中心に巨大な渦潮が広がっていく。
渦潮で思った様に身動きが取れないジルに光剣の雨が降り注ぐ。
更にそれだけでは終わらず大柄な天使も突っ込んできた。
「おらおらおら!」
「ちっ、お前も仲間の攻撃で死ぬぞ?」
攻撃の中心でジルに拳を放ってくる大柄な天使。
結界魔法や剣で光剣と拳を何とか相殺出来ているが、激しい渦潮に動きが阻害されてかなり厳しい状態だ。
「俺様は強靭の聖痕持ちだ!これくらいで死ぬ程柔な身体の構造はしていないのさ!」
光剣を身体に幾つか受けている筈なのだが殆ど傷すら無い。
耐久力を大幅に高まる聖痕の様である。
「成る程、まともに受ければ我だけが死ぬと。」
「そう言う事だ!おら!」
ジルは銀月で拳を受けたが、その威力に負けて渦潮に叩き込まれる。
揉みくちゃにされているところに大量の光剣が降り注ぐ。
「ぺっ。口に潮が入りやがった。」
渦潮から脱出した大柄な天使が唾を吐きながら言う。
あれだけの攻撃をジルと一緒に受けていたのに疲れている様子が無い。
「相変わらず私の水魔法を受けてもピンピンしているのね。」
「僕の光剣もね。刺さらないのはさすがに自信を無くすよ。」
「お前らの攻撃でやられてたら前衛は務まらないだろ?」
「それもそうだね。それでジルはどうだい?あれくらいで倒せたら苦労はしないから普通に生きていると思うけど。」
簡単に倒せる相手なら苦労はしない。
自分を追い詰めたジルと言う人族は、このくらい平然と生き残ると確信している。
「渦潮の中で耐えているみたいよ。結界魔法かしら?」
探知の聖痕を使ってジルが健在なのを確認する。
ライエルの読み通り耐え切っていた。
「前に戦った時も使ってたけどかなりの強度だったね。」
「ならばわしが砕こうかのう。ほい!」
静観していた老人の天使が剣を振るうと、激しく回る渦潮が真っ二つに分断された。
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