元魔王様と納品と勧誘 3.5
とある街近くの街道上空を二人の上級天使が飛んでいた。
「そろそろここら辺を探してどんくらい経つか覚えてるか?」
「知らないわよ。でも戦争に参加しなくて済んだんだし良かったじゃない。と言うかちゃんと探しなさい。」
男の天使が気怠そうに話し掛けると女の天使が真面目に辺りを見回しながら答える。
「魔族側も頑張ったらしいな。うちと引き分けたんだろ?」
ついこの間起こった魔族と天使族との戦争の話しだ。
レギオンハートが天使族の圧勝だろうと予想していたが結果は引き分けだった。
「戦争自体はそうらしいわね。魔法道具を大量に使ってきたらしいわよ。」
「それで互角か。まあ、うちは他に戦力を分散させてたからな。本来なら圧勝だったろ。」
「ライエル様の仲間や配下の殆どはこの国にいたものね。」
戦争が引き分けになったのは魔族側が結晶石を使った魔法道具を大量に投入してきたのもあるが、そもそも戦争に参加した実力者の天使族が少なかった。
聖痕持ちのナンバーズが数人参加しただけでも戦況は大きく変わっていただろう。
「ん?」
「どうかした?」
「何か凄い勢いで飛んでいく人族がいるぞ。」
男の天使が遠くを見ながら指を差す。
偶然見つけたのは魔法での爆速移動をしていくジルだった。
「え?それって目的の人族なんじゃないの?黙って見逃したなんて知られればどうなるか分からないわよ?」
「でもあんなに速いの追い付けないぜ?」
既に豆粒くらいの小ささになっている。
自分達が全力で飛んで追い掛けても直ぐに見えなくなるだろう。
「せめて情報くらいは持っていかないと。姿写しの魔法道具を使うわ。貴方はこれに陣形魔法で遠見のスキルを付加して。」
「あいよ。どうだ?見えるか?」
予め用意してあった陣形魔法の魔法陣が書かれた紙を取り出して魔法道具に貼り付ける。
そして代価を捧げる事で陣形魔法を起動させる。
すると遠ざかるジルの姿がしっかり見えたので、そのまま魔法道具のボタンを押すとジルの後ろ姿が空中に投影される。
「凄い速度で遠ざかっていくけどばっちり写せたわね。一先ずライエル様に見せて目的の人族か聞きましょう。」
二人は自分達の上司であるライエルに連絡する。
同じくこの国にいたので直ぐに会う事が出来た。
「君達か。僕に連絡をしたと言う事は何か見つけたのかな?」
見た目は少年だが圧倒的な力と光剣の聖痕を持つナンバーズの一人だ。
聖痕を持たない上級天使とは格が違う存在である。
「はっ!空を爆速で移動する人族を見つけたのでライエル様がお探しの人族ではないかと確認をお願いしたく参上しました!」
「へぇ、そんな人族がいたんだ。早速見せてもらおうかな。」
ライエルに言われて魔法道具を使って再び先程の映像を投影する。
「如何でしょうか?」
「ふははっ!君達、お手柄だよ!ついに、ついに見つけた!少し前に魔の森にいる上級天使の一人と連絡が付かなくなったのもやっぱり君だったんだね!」
ライエルはその姿を見ながら嬉しそうな声を上げる。
滅多に見ない上司の上機嫌な笑顔の中に狂気染みた殺意を感じて二人は冷や汗を流している。
ちなみにライエルは上級天使の消失を魔の森で戦ったジルが原因だと思っているがそれは間違いだ。
ジルの情報を聞き出そうとしてエルミネルによって返り討ちにあっただけでジルはとばっちりなのだが、そんな事をライエルは知らない。
「お探しの人族でしたか。しかし申し訳ありません。見つけた時には既にかなり距離がありまして。」
「魔法道具にて姿を写すのが精一杯でした。」
お目当ての人族を逃したので何か罰を受けるかもしれないと怯えながらも二人が言う。
「うんうん、気にする事は無いさ。どのみち君達程度では足止めも出来無い様な相手だからね。見つけてくれただけでも最高の働きさ。」
「お褒めに預かり光栄です。」
上機嫌なライエルからは罰どころか労いの言葉を掛けられた。
二人は内心で安心して溜め息を吐く。
「それじゃあ現場に戻って更に詳しい情報を聞こうかな。どの方角から飛んでいったか分かるだけでも有り難いからさ。」
「「畏まりました。」」
「やっと君にまた会えるんだね。今度こそ確実に殺してあげるよジル!」
ライエルは魔法道具によって映し出されたジルを見て再び残虐な笑みを浮かべた。
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