元魔王様と納品と勧誘 3
ギルドを後にしたジルはセダンの街の外にやってきた。
「時間もあるしユメノの依頼を片付けるか。」
ジルはいつもの魔法の移動をしてセダンから王都を目指す。
普通に馬車を使うと数ヶ月も掛かってしまうので、時間の掛からない方法を選択した。
「王都は久しぶりだな。前は行くのにかなりの時間が掛かったが、今回は直ぐに到着出来るだろう。」
数分飛んだだけでセダン領から出る程の移動距離だ。
「ん?あれは天使族か?まだ魔族探しでもしているのか?ご苦労な事だ。」
別の領地に入ると言うところで、進行方向とは違うが遠くに天使族の姿を見つける。
ジルはかなりの速度で移動しているので直ぐに見えなくなった為、天使達がジルに気付いた事に気付かなかった。
「かなり飛ばしたから早く到着出来たな。その分魔力を使わされたし先ずは飯だな。」
空を飛び続けたジルはあっという間に王都に到着してギルドに向かう。
長距離の魔法移動はかなりの魔力を消費するので、受付では無く酒場に座った。
「ご注文はお決まりですか?」
「ここからここまで全部頼む。果実水も十杯程貰おうか。」
「か、畏まりました。」
酒場で大量の料理を注文すると店員が驚きつつも頷いていた。
こんな細い身体のどこに入るのかと思っていそうだ。
「依頼の報酬で金も入ったし久しぶりに沢山食べるとするか。」
ジルは運ばれてくる料理をバクバクと食べ始める。
全く食べる勢いが衰えず、食べ終わった皿が積み重なり、店員がジルの座るテーブルと厨房を行き来するので他の客達も遠巻きに見て驚いていた。
「じ、ジルさん!?」
驚いた声で名前を呼ばれたのでチラッと見るとそこにはユメノが立っていた。
だがまだまだ空腹は治らないので視線を料理に戻す。
「む、無視しないで下さいよ。私ですよ、ユメノです。忘れてしまったんですか?」
不安そうに尋ねてくるユメノだが、呼び出した本人を忘れている筈が無い。
「覚えている。だが我は今食事中だから用があるなら後にしろ。」
食事は転生してからの楽しみの一つだ。
美味しい物を食べている時間は邪魔されたくない。
「おいお前!ユメノさんがお前みたいな弱そうな冒険者に話し掛けてくれているんだぞ!食事の手を止めて対応するのが礼儀と言うものだろう!」
ジルとユメノのやり取りを見ていた男の冒険者が怒鳴ってくる。
ユメノに好意があるのかチラチラと見ていて格好良いところをアピールしたい様だ。
しかし興味の無いジルは料理から視線を移す事は無い。
「こ、この僕を無視するとは良い度胸だな!」
無反応のジルにプルプルと震えている。
「ぎ、ギルド内での戦闘行為は冒険者資格の剥奪もあり得ますよ!私なら大丈夫ですからそれ以上は止めて下さい!」
「ユメノさん、これは戦闘では無く教育ですよ。流れの田舎冒険者に常識を教えてあげるんです!」
ユメノの静止の言葉にも従わずに冒険者はテーブルに近付くとその上で腕を振り払って全ての料理を床に落とす。
「食べる物が無くなればお前も話しが出来るだろう?」
冒険者がジルを見下しながらそう言ってくる。
対するジルはナイフとフォークを握ったまま俯いていた。
当然冒険者に畏怖しているなんて事は無く、料理を台無しにされた怒りに肩を振るわせていたのだ。
その怒りを感じ取った一部の高ランク冒険者達は急いでギルドを出ていった。
ユメノもジルが普通のDランク冒険者では無いと知っているので血の気が引いていく。
「貴様、死にたいらしいな。」
「はっ?田舎冒険者が僕ごはっ!?」
最後まで言葉を発する事が出来ずにジルの目にも止まらぬ掌底でその場から吹き飛ばされる。
冒険者は何をされたのかも分からずに壁に激突する。
「あ、が。」
一瞬にして実力の違いを見せ付けられた冒険者は全身に走る痛みに悶えている。
「今度は切り刻んでやろう。」
「お、お待ち下さい!お怒りは最もですけど殺すのはやり過ぎです!」
銀月の柄に手を掛けたジルの腕にユメノがしがみ付いて言う。
ジルの怒りも最もだがギルドが壊れない様に必死の説得を試みる。
「ユメノ、あんな奴を庇うのか?」
「え、衛兵を呼んで突き出します!冒険者の資格は剥奪、厳しい罰も与えますから!」
ジルの怒りを含んだ声に怯みながらもユメノは言葉を続ける。
その甲斐あってジルは銀月の柄から手を離してくれた。
「ちっ、仕方無い。お前の顔を立ててやろう。」
「あ、ありがとうございます。」
ユメノは大きく息を吐き出して安心している。
「だが我の食事の弁償と作った料理人への謝罪金は貰う。少し多いが迷惑料としておくか。」
冒険者が持っていたお金の入った袋を丸ごと貰っておいた。
それを酒場の店員にそのまま渡して料理の続きを楽しむ。
その間にユメノが事後処理をしてくれた。
「ふう、満足した。いきなり嫌な思いはさせられたが。」
「その件は本当にすみませんでした。王都ギルドを代表して謝罪します。」
隣りに座ってジルが満足するのを待っていたユメノが頭を下げる。
「まあ、ユメノが悪い訳では無いからな。」
「いえ、私も少しは関わっているんです。前々から好意を寄せられていたのは知っていたので。そんな私がジルさんに熱心に話し掛けているのが気に食わなかったのでしょう。」
受付嬢は美人どころが多い。
冒険者で好意を寄せている者も多いのでライバルが現れたら自分の良いところを見せたいと思うだろう。
「私としては問題を起こす冒険者が減ると治安が良くなりますから助かります。」
「自分に好意を寄せていた人物なのに良いのか?」
「問題行動は今回だけでは無かったですから。私と関わりの深い男性方が迷惑していたので資格剥奪の話しはあったんです。」
ジルだけで無く被害を受けていた者はそれなりにいたらしい。
そこそこ優秀なので中々手を出せなかったと言う。
「さて、嫌な話しはここまでにして本題に移りましょう。応接室へご案内しますね。」
取り引きをする為にユメノに連れられて応接室へと移動した。
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