元魔王様と納品と勧誘 2
ギルドに向かったジルはお得意の納品依頼を大量に持って受付嬢のミラと一緒に倉庫で素材を出していた。
「これを見るとジルさんが帰ってきたと言う感じがしますね。」
ジルがいるのといないのとではギルドの忙しさが大きく変わってくる。
ギルドにとっては嬉しい事なのだがまた忙しい日々が続きそうだ。
「どこのギルドでも納品依頼をすると驚かれるな。」
「これだけの量ですからね。それにしても今回は魔物の素材ばかりなんですね。こちらとしては多くの依頼が達成されるので大助かりですけど。」
これはダンジョンポイント稼ぎの魔物の残りだ。
大量の魔物を狩るので依頼に出される様な素材はそのまま残していた。
「薬草や鉱石なんかはあまり溜まっていなくてな。魔物だけは常に戦うから依頼に出されそうなのは残してある。」
「そうでしたか。」
ギルドとしては納品依頼が沢山達成されるのであれば何でも構わない。
ミラやギルド職員が素材を黙々と確認していき、直ぐに報酬を用意してくれる。
「ではこちらが依頼の報酬になります。」
「これで冒険者カードを剥奪されなくてすむな。」
ジルが報酬を無限倉庫に収納しながら呟く。
暫く遊んでいたので期限はギリギリだった筈だ。
「もしかしてそれを気にして依頼を受けにきてたんですか?」
「帰ってきてから暫く受けにきていなかったからな。」
「成る程、そう言う理由でしたか。さすがに長期依頼から帰還したばかりなんですから多少は多めに見ますよ。私も鬼では無いんですから。」
ミラが笑いながらそう言ってくる。
ルールを設けなければ依頼を受けない冒険者が多くなるからそう言う事にしているのであって、期限を過ぎたら直ぐに冒険者カードを没収と言う訳では無い。
真面目にギルドに貢献している者には寛容なのだ。
「前に宿にまで押し掛けておいてよく言う。」
「あれは登録したばかりだったからですよ。ある程度冒険者歴が長くなってギルドから信用出来る人物だと判断されれば、そう簡単に冒険者カードを剥奪したりしません。優秀な冒険者の排除なんてギルドの損失なんですから。」
ランクに関係無く優秀な冒険者を排除するのは最終手段だ。
そんな事をしてもギルドにメリットは無いので犯罪や他者への迷惑行為の度が過ぎると言った場合に検討されるくらいだ。
「ほほう、それは良い事を聞いた。」
「だ、だからって何ヶ月も依頼を受けないのは駄目ですよ?駄目ですからね?」
ジルがニヤリと笑うのを見てミラが焦った様に言う。
確かにセダンのギルドはジルを冒険者から除名する動きを取る事はあり得ない。
それだけギルドへのジルの貢献度は凄まじい。
それこそSランクの者達と並ぶかそれ以上なのだ。
「だがもう我からカードを剥奪はしたくないだろう?」
「うぐっ、痛いところを。で、でもジルさんだけ特別扱いは出来無いんですよ。せめてSランク冒険者になってくれたら簡単な話しなんですけど。」
国家戦力であるSランク冒険者にはギルドから優遇措置がある。
その代わり国の危機や指名依頼には積極的な参加を義務付けられているので、ジルはなりたいとは思っていない。
「それは面倒だ。我は自由に過ごせるDランクのままでいい。」
「ですよね。はぁ~。」
ミラは提案が失敗に終わると分かっていたものの残念そうに溜め息を吐いている。
「安心しろ、定期的な依頼は受けてやる。少しだけ期間が空いても見逃してはくれるんだろ?」
「は、はい。それはお約束します。もうこの際はっきり言ってしまいますが、ジルさんの冒険者カード剥奪はあり得ないです。セダントップクラスの稼ぎ頭なんですから。」
現状のギルドの評価を素直にジルに教えてくれる。
印象を少しでも良くしようとして話してくれたのかもしれない。
「我はそんなに依頼を受けているのか?」
「頻度は少なくても一度に受ける依頼数が凄まじいですからね。それに大量の解体依頼もギルドに出してもらえるので、大変ですけど収入は相当なものになっています。」
ジルの依頼関連でセダンのギルドの金庫は過去最高に潤っている。
職員達も忙しい日々を送ってはいるが給料は随分と高くなっているのでジルに感謝している者ばかりだ。
「あっ、解体依頼と言えば頼みたい魔物が何体かいたのを忘れていた。丁度良いし預けていくか。」
「ちなみにどんな魔物ですか?」
「大きくて高ランクなのだとレイクサーペントとかだな。」
シャルルメルトのベリッシ湖で倒した魔物だ。
リュシエルやシャルルメルトのギルドで買い取ってもらう予定だったのだが、レイクサーペントは相当な大きさだ。
普段から魔物にそこまで苦労していない領地なので、ギルドにそんな巨大な魔物を保管しておく場所が無かったのである。
なのでシャルルメルトでは買い取れる分だけ買い取ってもらって残りはセダンに持ち帰ってきたと言う訳だ。
「そ、そんな魔物を一体どこで狩ってくるんですか?」
「我がこの前までどこにいたか知っているだろう?」
「それは当然知ってますけど…ってまさか!?あの誰も手出し出来無いベリッシ湖の悪魔を!?」
周りには少なからず人がいるのでミラが小さな声で驚くと言う器用な事をしている。
「まあ、そう言う事だな。」
「本当にジルさんは行く先々でとんでもない功績を残しますね。」
ジルの凄さに改めて感心するミラだった。
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