元魔王様と納品と勧誘 4

 ユメノに応接室に案内されたジルは早速ミスリル鉱石の話しを始める。


「先ず確認だが提供者が誰なのかは分からない様にするんだな?」


「勿論です。絶対にその情報は流さないと誓います。」


 ユメノが大きく頷いて言う。

高純度のミスリル鉱石の価値はとても高い。

出所が不明でオークションでしか入手出来無かった物なので、提供者がジルだと分かると非常に面倒な事になるのだ。


「信じてやろう。どのくらい欲しいんだ?」


「どのくらいって、そんなに提供出来るくらい持っているのですか!?」


「情報を漏らさないと誓ったユメノには教えておいてやろう。オークションに毎回流しているが全く在庫が減らないくらいには持っているぞ。」


 魔王時代に石ころ感覚で邪魔なミスリル鉱石を収納していたらとんでもない量になっていた。

これがお金に変わるのであればジルとしても有り難いが、それで面倒事に巻き込まれるのは嫌なのだ。


「やっぱりオークションの出品者はジルさんだったんですね。ですがそんなに持っているのは嬉しい誤算です。」


「そんなに数が欲しいのか?」


「当然ですよ。毎回オークションに出品される数では需要に供給が追い付いていません。」


 それはダナンからも聞かされているので知っている。

毎回オークションでの落札額が高まっているところを見ると高純度のミスリル鉱石を欲している者は多い。

比較的入手しやすい鉱石の中でも非常に使い勝手が良いのがミスリル鉱石なのだ。


「純度が高いと言ってもミスリル鉱石がここまでの価値になるとはな。」


「ジルさんが出品されているミスリル鉱石は既存のミスリル鉱石とはもはや別物です。それくらい高純度で素晴らしい鉱石なんですよ。前に頂いた分は直ぐに買い手が見つかりましたし、また仕入れてほしいとの要望も多いのです。」


 名前は同じだがもはや別物と言う認識らしい。

魔王の魔力によって変化した結果出来たミスリル鉱石なので納得ではある。


「その者達はオークションに出品されている事は知っているのか?」


「私から情報は渡していますよ。なので伝手を利用してオークションでの落札も試みていると思います。ですがやはり数が足りないですからね。王都のギルドからも提供出来るならばと連絡が多数来ているんです。」


 前回ユメノに渡した分がかなりの人を惹き付けたらしい。

オークション以外でも入手出来る経路があるなら確保しておきたいだろう。


「それだけ人気とはな。だが我も換金したいと思っているから助かるぞ。」


「こちらも大助かりです。王家からも手に入ったら譲ってほしいと言われてますから。」


「王族なら簡単に手に入るのではないか?」


 王族と言えばこの国のトップだ。

欲しい物があれば何でも簡単に入手出来るのではないかと思える。


「当然オークションでも持っている者からでも簡単に入手は出来るでしょう。ですが権力や金に物を言わせて手に入れる様な強引なやり方を好まれない方々なんです。私達平民からするととても好感の持てるこの国のトップですよ。」


 確かに実際に会話した王族達の印象は良いものだった。

自分勝手な貴族達とは違って話しの分かる者ばかりである。

他者を悲しませる様な事をしてまで手に入れたいとは思わないだろう。


「傲慢な貴族連中にも見習ってほしいものだな。」


「防音の魔法道具を設置しているので問題無いですけど、ジルさんでもあまり貴族に喧嘩を売る様な発言は控えた方がいいですよ?」


「我だって場所は考えている。面倒事に巻き込まれたくないからな。」


「本当ですかね?」


 王都にいる間の付き合いしかなかったがジルは我慢なんてしない印象だ。

相手が貴族でも気に入らなければ容赦しないのではないかとユメノは思った。


「まあ、そんな事よりもミスリル鉱石です!どのくらい融通して頂けるのでしょう?」


 話題が逸れてしまったので話しを戻す。

大量のミスリル鉱石を譲ってもらえそうで、そちらの方が気になる。


「そうだな、オークションでの落札額に影響が出ない程度がいいんだが。」


「それはご安心下さい。買い取ったミスリル鉱石は小出しにしていく予定なのでオークションの方もこれまで通りとなる予定です。」


 ユメノとしても値崩れしてしまっては儲けられないので大量に仕入れても大量放出と言った事はしない。


「ならば王都のギルドの金庫の中身を有り難く貰っていくとするか。」


 そう言ってテーブルの上に無限倉庫から取り出したミスリル鉱石を山積みにする。

大金貨が大量に吹き飛ぶくらいの量である。


「こ、こんなに頂けるとは!ですがお金が足りるか不安ですね。本当に金庫が空っぽになってしまうかもしれません。」


 大量のミスリル鉱石が手に入るのは嬉しいが、ギルドの資金が底を付いてしまうと営業に支障が出るので、ユメノは急いで金庫の中身を確認に向かった。

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