元魔王様とダンジョンマスター美咲 2

 翌日、朝からジルは浮島に作られた温泉に浸かっていた。


「はぁ~、旅の疲労が癒える。」


 身体を伸ばして溜まった疲労を湯に溶かす。

昨日は浮島の住人達に美咲と天ちゃんの紹介回りをした。

そしてジル達の帰還や新たな住人の歓迎を祝ってちょっとしたパーティーも開かれたので夜遅くまで騒いだ。


「レイアとテスラはまだ戻っていなかったな。天使を連れてきてしまったし、鉢合わせていきなり戦闘にでもなっても困るから事前に説明しておきたかったのだが。」


 パンデモニウム島でレギオンハートに渡された邪神教の拠点の情報を元に二人は拠点潰しをしているが、まだ終わっていない様だ。


「まあ、誰かしらが説明するだろう。美咲も側にいるらしいしな。」


 天ちゃんの事は美咲に任せる事にした。

常識人の美咲であれば天ちゃんの手綱を上手く握ってくれるだろう。

それに戦闘能力の無い美咲にとっては最高のボディーガードにもなるので、この組み合わせは崩したくない。


 そんな事を考えながら久しぶりの浮島の温泉を堪能した。

前に温泉石を手に入れた町で買ってきた温泉のお供を出して楽しんでいたらかなり長湯してしまった。

通路に出ると丁度女湯の方からも美咲が出てきた。


「あ、ジルさん。」


「美咲も温泉に入っていたのか?」


「はい、シキさんに勧められたので。元の世界の温泉を知っている私に感想を求められまして。」


 温泉石を使ったこの温泉宿はシキが設計を考えて完成させた。

なので現地人である美咲の感想を聞きたかったのだろう。


「それでどうだった?」


「さいっこうに気持ち良かったです!身体の調子がとてもいいですよ!」


 そう言って美咲がぴょんぴょん飛び跳ねる。

浴衣で下着を着けていないのか胸元が暴れているが本人は気付いていない様だ。


「それは良かったな。美咲も浮島の住人になったのだから好きな時に利用するといい。」


「はい、嬉しいです!」


 いつでもこの温泉宿を利用出来ると聞いて美咲は喜んでいる。

ジルに買われて良かったと改めて思った。


「今日は何をする予定なんだ?」


「昨日は案内してもらいつつ浮島を見て回ったんですけど、今日はやはりダンジョンですね。私にダンジョンマスターの素質があるからでしょうか、気になって気になって仕方無いんです。」


 そう言って美咲がとある方向を見る。

一見すると壁を見ているだけにしか見えないが、その方向には浮島のダンジョンがある。

ダンジョンマスターになれる美咲はダンジョンを感じ取れるのかもしれない。


「ほう、そう言うものなのか。だが改めて確認しておく。ダンジョンマスターは危険なものだ。自らの命を危険に晒す事になるが本当にいいのか?今ならばまだ引き返せるぞ?」


 ジルは特に強制するつもりは無い。

もし美咲がここで心変わりしても気長に探していくつもりだ。


「ここまでやってきてそんな事しませんよ。私はジルさんが保有するこの秘密の浮島のダンジョンマスターになるんです。少しでもお役に立って恩返しをさせて下さい。」


 美咲の決心は揺るがない。

もう自分の中ではダンジョンマスターになると決めているのだ。


「分かった。浮島の者達にもお前の安全を優先するように我から言っておく。」


 この決断をしてくれた美咲は絶対に守ると誓う。

ダンジョンコアの破壊なんて誰にもさせない。


「ありがとうございます。それでは天ちゃんを迎えにいってからダンジョンに行ってきますね。」


「我も見学していいか?」


 誰かがダンジョンマスターになる瞬間なんてジルも立ち会った事は無いので気になる。


「え?それは勿論構いませんけど、ジルさんはお疲れではないんですか?」


「睡眠は取ったし温泉にも入ったからな。ダンジョン作りの見学でもしながらのんびり過ごすとしよう。」


「そうですか、ではダンジョン前で待ち合わせにしましょう。私は天ちゃんを起こしてきますね。」


「分かった。」


 ジル達と違って天ちゃんはまだ眠っている様だ。

睡眠の聖痕持ちだからか、天ちゃんはよく寝ている。


「そう言えばミラに渡された手紙をまだ見ていなかったな。」


 ジルは無限倉庫から昨日渡された手紙を取り出して開封する。


「差出人はユメノか。」


 内容を見ると名前が書いてあって直ぐに誰から届いたのかが分かった。

王都のギルドで受付嬢をしているユメノである。


「成る程、提供者に付いては秘匿するからミスリル鉱石を買い取らせてほしいと。」


 名前が書かれていなかったのは、王都のギルドからの手紙と言う事でセダンのギルド員達が騒がない様に配慮したのだろう。

引き抜きだろうと疑われて問い詰められても面倒なので助かる。


「相変わらずミスリル鉱石の需要が凄まじい様だな。ダナンもオークションでどんどん値段が上がると言っていたし。」


 高純度と言うだけで普通のミスリルよりも市場価値がかなり高いのに需要はかなり多い。

オークションだけの供給では全く足りていない。


「まあ急ぎでないならダンジョン作りを見てからでもいいか。オークションと違って大量に売り払えそうだな。」


 ジルは無限倉庫に仕舞われている山の様なミスリル鉱石を思いながら、得られるであろう莫大な金銭に思わず笑みが溢れた。

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