元魔王様とダンジョンマスター美咲 3

 ダンジョンの前で少し待っていると天ちゃんを引き連れて美咲が戻ってきた。


「ジルさんお待たせしました。」


「おはよう。」


 目元を擦って小さく欠伸をしながら天ちゃんが挨拶してくる。


「相変わらず眠そうだな。」


「私は睡眠の聖痕持ちだから。」


 真実かは分からないが睡眠の聖痕の力は相手だけで無く自分にも作用しているのだと言う。

だから常に天ちゃんは眠そうにしているらしい。


「では早速入るか。」


「はい。」


 美咲を連れてダンジョンの中に入る。

階段を降りるだけでダンジョンの心臓部であるダンジョンコアがある。

さすがに剥き出しで放置しておくのは危険なので、ジルの結界魔法で包んではいる。


「これがダンジョンコア、ダンジョンの心臓部だ。」


「私の命を共有する存在、綺麗ですね。」


 置き物となっているダンジョンコアだがキラキラとした輝きを放っていて、まるで巨大な宝石の様だ。


「今更だが我はダンジョンの作り方を知らん。美咲は何かシキに聞いてきたか?」


 異世界通販を使ってダンジョンが発展した異世界の情報を仕入れているのはシキだけだ。

なのでジルはここからどうすればいいのか何も知らない。


「はい、ざっくりと説明は受けていますから大丈夫ですよ。一先ずダンジョンコアに触れると色々分かるらしいです。」


「ならば後は好きにやってみるといい。」


「分かりました。」


 美咲は迷う事無くダンジョンコアに手を触れる。

するとダンジョンコアが美咲に反応する様に輝きを増す。

数分程美咲がダンジョンコアに触れたまま目を閉じているのを見守る。


「ダンジョンマスターとして認めてもらえた様です。」


 目を開いてダンジョンコアから手を離した美咲が言う。

ジル達には分からなかったが何かダンジョンコアとやり取りをしていた様だ。

万能鑑定で視ると確かに美咲はダンジョンマスターになっていた。


「うむ、しっかりとダンジョンマスターになれている様だな。」


「おめでとう。」


「ありがとうございます。」


 無事に浮島のダンジョンにダンジョンマスターが誕生した。

これで高い金額を出してオークションで落札した行いも報われる。


「ふむふむ、ほうほう。」


 美咲はダンジョンコアに触れて呟きながら頷いている。

色々と情報を共有しているのだろう。


「コアに触れた事で私がダンジョンで出来る事が大まかに分かりました。」


 ダンジョンマスターの仕事はダンジョンコアを守る事だ。

その為にダンジョンの階層を拡張したり階層を増やしたり出来るらしい。

他にもトラップや魔物を設置する事も出来るが、それらを行うにはダンジョンポイントが必要となる。


「ダンジョンポイントはダンジョン外の生命体から得られる様ですね。」


 ダンジョン外の生命体をダンジョンに一定時間留まらせたりダンジョン外の生命体の死体をダンジョンに吸収させる。

これらを行う事でダンジョンポイントが手に入るらしい。

効率で言えば後者の方が圧倒的に良い。


「つまり我らがこうして滞在しているだけでもポイントは得られるのか。」


「はい、少量みたいですけどポイントは増加しています。」


 ダンジョンポイントを稼がなければダンジョンマスターは何も出来無い。

いかにしてダンジョンポイントを稼ぐかが重要となる。


「ならば早速階層を増やしてみたらどうだ?ダンジョンコアがこんな入り口にあったら簡単に破壊されてしまう。」


「確かにそうですね。もっと深い場所に設置するものですよね。」


 美咲は早速階層を増やしてみる事にした。

ダンジョンコアに触れると二人の身体が光り、地面に穴が空いて階段が出来ていく。

そこを除くと下にも空間が出来ていた。


「これで階層が一つ増えましたね。ポイントは殆ど使い切りましたけど。」


「ただの地下倉庫の様なダンジョンが拡張されただけでも少し感動ものだな。」


 今までは本当にただの地下倉庫だった。

美咲がダンジョンマスターになった事でようやく本来の役割りを取り戻した。


「後は拡張した階層に魔物やトラップを仕掛けてダンジョンを作っていくんですよね。何だか家作りみたいでワクワクします。」


 これからの事を想像して美咲が楽しそうにしている。


「あまり客はこないと思うけどな。」


 浮島にホイホイ人を呼び込むつもりは無い。

なのでダンジョンに入る者も限られるだろう。


「私も早速死にたくないですから構いませんよ。へぇ、ダンジョンポイントってんですね。」


「何だと!?」


「うわっ!?突然どうしたんですか?」


 美咲が聞き逃せない台詞を言ったので思わず大きな声が出てしまった。

普段のジルと様子が違って美咲だけで無く天ちゃんも注目している。


「それはつまり美咲の元いた世界、地球の物質と交換出来ると言う事か?」


「そ、そうですけど。」


「これはダンジョンマスターが流れ人だからだろうな。予想外の儲けものだ。」


 異世界通販のスキルに頼らなくても美咲の元の世界の物だけは手に入りそうだ。

ダンジョンを作りたかっただけなのだが思わぬ副次効果であった。

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