74章

元魔王様とダンジョンマスター美咲 1

 朝起きて朝食を食べ終えたジル達は、セダンに帰還する為に荷物をまとめて公爵家の前に集まっていた。

公爵家総出で見送りをしてくれている。


「世話になったな。」


「それはこちらの方だ。重ね重ね礼を言う。」


「娘の件は本当に感謝しています。」


「何かあれば是非シャルルメルト公爵家を頼ってくれ。微力ながら力になろう。」


「ああ、その時は宜しく頼む。」


 貴族の後ろ盾を得られたのは大きい。

面倒事は御免だが公爵家の名前を使って面倒事を避けられる機会は多いだろう。


「アンレローゼ、お前にも滞在中は世話になったな。」


「ジル様のお世話は楽しかったですよ。また公爵家を訪れた際は私をご指名下さい。」


「その時は頼むとしよう。」


 滞在中身の回りの世話をしてくれた優秀なメイドだ。

このままセダンに連れて帰りたいくらいである。


「お嬢。」


「な、何ですか?」


「表情に出過ぎているぞ。」


「っ!?」


 ジルの指摘でリュシエルが両手で顔を触っている。

笑顔で送り出したかったのに気持ちの方が表情にでてしまった。


「一生会えなくなる訳でも無い。またいつか会えるのを楽しみにしている。」


「…そうですね。」


 リュシエルは一度頷いてから自分の頰を両手で叩く。


「お嬢?」


「辛気臭いお別れは止めです。ジル、必ずまた会いましょう。私は貴方に沢山のものをもらいました。これらを大切にしてこれからを歩んでいきます。」


 今度は笑顔を浮かべてリュシエルが言う。

まだまだ言いたい事は沢山あるが、ジルに一番伝えたい事はこれだった。


「ああ、また会おう。」


「はい、お元気で。」


 最後に握手を交わしてジルとリュシエルは笑った。

ジルはセダン帰る仲間達の下へと戻って結界魔法を使用する。

展開した結界で全員を包んで重力魔法で空に上がっていく。


「ではな。」


「ばいばいなのです!」


「結晶石は有り難く使わせてもらう。」


「お世話になりました!」


「さよなら。」


 それぞれ公爵家の者達へと言葉を投げ掛ける。

空に上がっていくジル達にリュシエル達は見えなくなるまで手を振っていた。

上空に上がったところで風魔法で結界を移動させる。


「話しには聞いていたがスカイよりも断然早いな。」


「そうだろう?ダナンには魔法の事を話したし、これからは遠出でも使えるぞ。」


「便利だな。」


 普段使いし過ぎると遅い移動に耐えられなくなるので多用はしないつもりだが、今回の様な遠出であれば使った方が楽だ。


「これから向かうのはジルさん達が普段暮らしている街なんですよね?」


 美咲がワクワクした表情で尋ねてくる。

この間までは誰とも会話が出来無い状況であり、この世界を楽しむ余裕は無かった。

今はジルのおかげで生活を楽しむ余裕も出てきたのだ。


「セダンと言う街なのです。」


「楽しみですね。」


「楽しみ。」


「言っておくが我の許可無く暴れるなよ?聖痕の力も使用禁止だ。」


 見た目は少女でもナンバーズの天使なのでその戦闘能力は凄まじく高い。


「正当防衛は?」


「その時だけは許可するがやり過ぎるなよ?」


 浮島で過ごしてもらうつもりだが、セダンの街にも行く機会はあるかもしれない。

その時に問題を起こせば、連れてきたジルに責任があるのだ。


「迷惑は掛けないつもり。」


「天ちゃんは私が見ていますから大丈夫ですよ。」


「美咲優しい。ジルとは大違い。」


 そう言って天ちゃんが美咲に抱き付いている。

見た目も相まって羽が無ければ姉妹の様だ。


「ジルさんは優しい方ですよ。私を救ってくれたのもジルさんなんですから。」


「そう言われると私も救われた。」


 ジルがレイクサーペントを倒さなければ天ちゃんはずっと食べられたままだった。

それで本人に支障があったかは分からないが助け出してくれたジルには感謝している様だ。


「そうでしょう?天ちゃん、これからお世話になるんですから印象は良くしておいた方がいいですよ?」


「ジルは優しい。これからも宜しく。」


「やれやれ。」


 調子の良い奴だと思いつつも扱いやすいのは助かる。

記憶が戻った時もこのままでいてほしいものだ。

そんな雑談を皆でしながら飛んでいるとセダンの街が見えてきた。


「よし、到着だな。」


 街の近くに降りて歩いて向かう。

あまり近くに降りて火魔法以外が使えると思われるのは面倒だ。


「途中休憩したとは言え1時間もせずに到着するとは。」


 あまりにも早い到着にダナンが驚いていた。

スカイでの空の移動も速いのだがジルの魔法と比べるとどうしても劣ってしまう。


「ではギルドに指名依頼の完了報告に向かうか。」


「そうだな。」


 シキ達には先に浮島に向かってもらってジルとダナンはギルドに向かう。

そしていつもの受付に座っている受付嬢に話し掛ける。


「ミラ、久しぶりだな。」


「ジルさん、いつの間に帰ってきてたんですか?」


「つい先程な。」


「指名依頼が無事に終わったので報告にやってきた。」


「そうでしたか、お帰りなさい。直ぐに手続きさせてもらいますね。」


 ミラはダナンの指名依頼の依頼書を取り出してサラサラと書いていく。


「これで完了です。報酬をどうぞ。」


「確かに。」


 ダナンが依頼の報酬として預けていたお金を受け取る。

相当な金額なので一気に小金持ちだ。


「ジル、今回は本当に世話になった。」


「気にするな。我も楽しかったぞ。」


 色々とあったがシャルルメルトの旅は面白かった。

また弟子も増えたので成長が楽しみである。


「それならば良かった。ではわしは失礼する。」


「我も帰るとするか。」


「あ、ジルさん。」


 浮島に帰ろうとするとジルだけミラに呼び止められる。


「お手紙が届いてますのでこちらだけお持ち帰り下さい。」


「手紙?誰からだ?」


「差出人の名前が無いから分かりませんね。」


 ミラから渡された手紙にはセダンの冒険者ギルド所属の冒険者ジルさんへと書かれているだけで誰からの手紙か分からない。


「後で見させてもらう。」


「はい、先ずは旅の疲れを癒して下さい。」


 ミラの言う通り久しぶりに帰ってきたセダンで暫くはゆっくりする予定だ。

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