元魔王様と精霊の依頼 6
ベリッシ湖から帰還したジル達は公爵家で過ごす最後の夜と言う事で盛大な夕食で持て成されていた。
「ジル、グラスが空いていますよ。」
「悪いな。」
リュシエルがジルのグラスに飲み物を注いでくれる。
本来はメイドの仕事だが世話になったジルの為にリュシエル自らが進んで行っている。
「お嬢が注ぐ機会なんて中々無いのではないか?」
「私だってこれくらいしますよ。」
「ならば私にも注いでもらおうかな。」
「貴方には私が注いであげますよ。」
娘に注いでもらおうかと公爵がグラスを見せると隣に座っているトアシエルが代わりに注いでいる。
「ん?どうかしましたか?」
飲み物を注ぎ終わるとジルがじっと自分を見ている事に気付いて首を傾げる。
「思ったよりも元気そうだな。」
「ジル達が明日帰ってしまうからと言う事ですか?」
「ああ、トレンフルの時はルルネットが明らかに落ち込んでいたからな。」
リュシエルの比では無い落ち込み方をしていた。
それに比べると随分とリュシエルはマシな方だ。
「この歳になってそこまで露骨な態度は取りませんよ。」
「帰ってからとても落ち込みそうですね。お嬢様の事は私が慰めて差し上げますから。」
「アンレローゼ、余計な事は言わなくていいです。」
背後に控えていたメイドの口を閉じさせて、恥ずかしさを誤魔化す様に自分の飲み物を一気に飲む。
態度に出さない様に気を付けているだけで寂しい気持ちはしっかりとあるのだ。
「この賑やかさが無くなるのは寂しくはあるな。ジル殿達が来てくれてから毎日が楽しかった。」
「娘の事もお任せしてしまいましたしね。」
「我も楽しみながら過ごせたから満足している。」
何不自由無く過ごせたのでシャルルメルトにいる間は快適だった。
この優雅な貴族生活を送れなくなるのは少し残念である。
「ジル殿、改めて礼を言わせてほしい。リュシエルにスキルと向き合う強さを与えてもらい感謝している。」
「本当にありがとうございました。」
二人が立ち上がってジルに深々と頭を下げる。
親として娘の未来を切り開いてくれたジルには感謝しかない。
「我はきっかけを与えたに過ぎない。生かすも殺すもお嬢次第だ。」
これからの頑張り次第では本当の自由を勝ち取る未来もあるだろう。
「毎日訓練を怠るつもりはありませんよ。一人でも私のスキルを狙う者達を返り討ちに出来るくらいの強さを手に入れる予定です。私の目標は遥か高み、ジルなんですから。」
「楽しみにしている。また会えた時に見せてくれ。」
「はい、驚かせられる様に頑張りますね。」
リュシエルは笑顔を浮かべて頷く。
また会える時が楽しみだ。
「それでは先に休むとしよう。明日は朝から魔力を使うだろうからな。」
「シキも久しぶりのシャルルメルトの情報更新で疲れたのです。」
「わしもセダンに帰ったら早速結晶石を使った武具作製を本格的に始められる。体力は温存しておこう。」
「美咲、私も眠い。」
「睡眠の聖痕持ちだからでしたよね?それなら私達もジルさん達と一緒に休ませてもらいましょうか。」
セダンに帰る組が揃って席を立つ。
少し早い時間だが明日に備えて休ませてもらう事にする。
「皆さん、ゆっくり休まれて下さい。」
リュシエルに見送られてジル達は自分の部屋へと戻った。
「はぁ。」
ジル達がいなくなってからリュシエルが大きな溜め息を吐く。
「リュシエル、いきなり溜め息か?」
「あらあら、頑張って取り繕っていたみたいですね。」
「お嬢様、早速慰めて差し上げましょうか?」
リュシエルの気持ちを知って公爵達が慰めてくれる。
ジル達と別れる前日となればやはり寂しさが込み上がってきてしまう。
そう感じさせてくれるくらい賑やかだった最近がリュシエルにとってはとても楽しい毎日だった。
「そうですね。アンレローゼ、今日は一緒に眠ってもらってもいいですか?」
「はい、お供しますよ。」
一人では寂しくて眠れないかもしれないので気心の知れたメイドであるアンレローゼにお願いすると二つ返事で引き受けてくれた。
「ところでリュシエル、ジル殿に気持ちは伝えられたのか?」
「なっ!?お父様、何を言っているのですか!?」
公爵の質問に寂しい気持ちが吹き飛ぶくらいリュシエルが動揺して大きな声を出す。
「貴方、そんな直球で聞かなくても。」
「娘の想い人なんだ、気になるではないか。それでどうだった?」
注意しているトアシエルだが公爵同様気になっている様子だ。
アンレローゼも興味津々と言った様子でリュシエルを見ている。
「わ、私は公爵令嬢ですよ?ジルとは身分の差が違います!今日一日共に領地を見て回れただけで私は充分です!それでは私も先に失礼しますね!明日はジル達の見送りもありますから!アンレローゼ、行きますよ!」
一方的に早口で話し終えたリュシエルはそのまま自分の部屋へと早足で去っていった。
「それではお先に失礼致します。」
アンレローゼは一礼してからリュシエルの後を追い掛けて部屋を退出する。
「ジル殿を射止めるのはまだまだ先となりそうだな。」
「ふふっ、そうですね。」
少し前までは考えられない事だったが、二人はリュシエルの将来を想像しながら楽しそうに語り合った。
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