元魔王様と精霊の依頼 4

 向かってくるゴブリンを殲滅し終えたのでリュシエルの下へと向かう。


「お嬢、大丈夫か?」


「ジル、魔法が使えないのですがどう言う事でしょうか?」


 ジルだけで無くリュシエルも魔法が使えない様子だ。

それでも周囲のゴブリン達は殲滅し終わっている。


「分からん。ゴブリンシャーマンがどこかで起動させた陣形魔法ではないかと思っているが、まだ見つけられていないのでな。」


 呪花の部屋にあった陣形魔法の魔法陣は破壊してきた。

なのでデバフは解除出来たが、あの魔法陣が魔法不発の原因では無かった。


「そうですか、魔法が使えないのは厄介ですね。」


「その割には余裕そうに見えるな。」


「魔装を使用しての戦闘なのでそう見えるだけです。まだまだ未熟なので継続して使用出来無い為、これでも少し焦っているんですよ?」


 剣と同じくリュシエルの主力武器である魔法が使えないのは中々厄介だった。

それでもジルや騎士達に鍛えられたおかげもあり、自力が高まったので戦う事は可能だ。


「殲滅の手伝いと魔法が使えない原因を調べる、どちらをしてほしい?」


「魔法でお願いします。まだ余力はありますから。」


「分かった、無理はするなよ。」


「はい。」


 残りのゴブリンの殲滅を任せてジルは魔法が発動しない原因を探す。

何かあればリュシエルが知らせにくるだろう。


「さて、陣形魔法ならばどこかに起動している魔法陣でもある筈だが。」


 空間把握よりも範囲は狭いが心眼のスキルで壁、天井、床の先を視ながら魔法陣を探す。


「見当たらないな。魔法道具の類いか?」


 もう少し探し回ってみるが魔法陣は見つからない。

その代わりに少し気になる部屋を見つけた。


「この先の部屋、高ランクのゴブリンが密集しているな。何かあると見てよさそうだ。」


 何故か一つの部屋に強いゴブリン種が集まっている。

魔法が発動しない原因があるかは分からないが何かを守っているかの様だ。


「抜刀術・断界!」


 壁の向こうから魔装した銀月による居合いを放つ。

魔力による斬撃が壁と部屋の中にいたゴブリン達を丸ごと両断して、一瞬で部屋の中を血で染める。


「さて、魔法が発動しない原因があるかどうか。」


 部屋の中の殲滅を一瞬で終えたジルは万能鑑定で調べる。

色々な魔法道具やお金があるので、人族から奪った物を貯めている宝物庫と言ったところだろう。

その中にジルのお目当ての物もあった。


「これか。まさか陣形魔法が組み込まれた魔法道具とはな。ゴブリンがこんな物を持っているとは驚きだ。」


 少し高そうに見えるランプの様な物が魔法を封じていた魔法道具だ。

中々に価値のある魔法道具であり、どこぞの商人からでも奪ったのかもしれない。


「発動の代価を呪花で補っているのか。随分と高い維持費だが、相手の魔法を完全に封じるとなると中々強力だな。」


「ギャギャ!」


「おっと、こいつを取り返しにきたか。だが少し遅かったな。」


 部屋に押し寄せてきたゴブリン達だが魔法道具は既にジルの手にある。

それを無限倉庫に仕舞ってしまえば陣形魔法の効果も無くなる。


「ギャギャ!?」


「これで魔法が使えるな。ファイアアロー!」


 突然消えた魔法道具に驚いているゴブリン達にジルが火魔法を浴びせる。

今度はしっかりと魔法が発動して火の矢がゴブリン達を蹂躙する。


「やはり魔法が使えると殲滅が楽だな。」


 魔法で押し寄せてくるゴブリン達は直ぐに全滅させる事が出来た。

そのまま部屋の中の物を回収して外に出るとリュシエルもゴブリン達を丁度倒し終えた様であった。


「ジル、殲滅完了です。」


「早かったな。」


「途中から魔法が使える様になりましたからね。結局原因は何でしたか?」


「陣形魔法が付加された魔法道具だ。」


 無限倉庫の中から再び取り出してリュシエルにも見せる。


「それは高価な魔法道具ですね。盗品であってもゴブリンを倒したジルに所有権が移りますがどうするんですか?」


 盗賊や魔物の溜め込んだお宝は討伐した者に所有権がある。

今回の魔法道具もジル達の物となる。


「これは水の精霊への土産にするとしよう。」


「水の精霊にですか?欲しがりますかね?」


「ベリッシ湖には多くの領民が訪れる様になるのだろう?ならば安全性に配慮して魔法道具を設置しておくのもいいんじゃないか?」


 対象を指定出来るみたいなので魔物の魔法を封じる事が出来る。

厄介な魔物を少しでも近付けさせない為に役立つかもしれない。


「ですが魔法道具を発動させる代価は呪花なんですよね?育てたら他の植物に影響が出ますし、ベリッシ湖周辺に咲かせておくなんて危険です。」


 領民の手の届く範囲に呪花は植えたくない。

水の精霊もベリッシ湖周辺では育てたくないだろう。


「必ずしも呪花を使わなければいけない訳では無いぞ。大半の魔法道具と同じく魔石でも動かせる筈だ。丁度大量に手に入ったしな。」


「ゴブリンの魔石ですか。確かにそれなら有効活用出来ますが宜しいのですか?」


 相当な数の魔石が手に入ったがこれを譲ると今回の収入は殆ど無くなる。

それくらいゴブリンを倒した後に得られる素材と言う物は無いのだ。


「そんなに高く売れる訳でも無いからな。ベリッシ湖の安全の為にでも使うといい。」


「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせてもらいますね。」


 ジル達は砦とゴブリンを火魔法で完全に燃やし尽くしてから、手分けして魔石を回収してベリッシ湖に戻った。

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