元魔王様と精霊の依頼 2

 最初の場所に戻って水の精霊にゴブリンや呪花の事を報告する。


「即刻駆除を要請します!」


「やはりそうですよね。」


 水の精霊がそんな危険な花を欲しがったりせずリュシエルは安心した。

領民が安全に利用出来るベリッシ湖は保たれそうだ。


「たまにゴブリンがやってくる事はあったんです。でもやる事が多くて放置していたんですけど、まさか私の住処の周りでそんな物を育てていたとは。」


 危険な花の栽培と聞いて水の精霊が怒りを抱いている。

このまま放置すればシャルルメルトの領民に信仰されている自分の立場を悪くさせられてしまう。


「呪花もゴブリンと一緒にこちらで排除していいのか?」


「当然そうしてもらえると助かります!呪花は周囲にある他の草木から栄養を奪って成長するので、私が育てるつもりの薬草等に被害を及ぼしますから。」


 確かにゴブリンシャーマンが呪花を育てていた周りの草木は枯れている物が多かった様に感じた。

既に影響を受けて栄養を吸い取られているのだろう。


「私達が水を撒いて育てた植物も成長が妨げられてしまいますね。」


「やはりゴブリンは害悪な事しかしないな。」


「今直ぐに駆除しないといけませんね。」


 どこででもゴブリンは嫌われる魔物だ。

見つけたら直ぐに殲滅するべきである。


「ちなみにベリッシ湖の近くではないので私はそこまで気にしていなかったのですが、多分ゴブリンの集落が出来ていると思いますよ。」


「え!?集落ですか!?」


 これは聞き逃せない情報だ。

領地にゴブリンの集落が出来ているなら早めに対処したい。

対処が遅れればとんでもない数に繁殖して領民が被害を受けてしまう。


「そうだ、水を飲みにゴブリンがやってくるが数が多い。あれは野良ゴブリンでは無く集落の規模だと思う。」


「どの方角かは分かるか?」


「ジル、今日は観光なんですからそこまでしてもらわなくても。戻り次第ギルドへ依頼を出しますよ?」


 せっかくベリッシ湖に観光に来たのにゴブリン討伐をする事になってしまう。

そんなつもりでやってきた訳では無い。


「近くにいるんだからついでだ。お嬢だって早く解決させた方が安心出来るだろう?」


「ありがとうございます。」


 リュシエルは申し訳無さそうに頭を下げる。

確かに領主の娘としては危険な集落を早く対処しておきたい。


「それで分かるか?」


「方角はあちらですね。いつもゴブリン達が来るのはあちらからですから。」


 水の精霊が指差したのは呪花の栽培地の奥にある森の中だ。

木々に覆われた森の中だと魔物の集落は見つかりにくい。

発見が遅れて巨大な集落が形成されている事も多い。


「よし、ならば早速向かうか。」


「はい、参りましょう。」


「お気を付けて。」


 二人は水の精霊に見送られて再びゴブリンシャーマンを発見した位置まで戻ってきた。


「呑気に水を撒いているな。」


「本人は気付いていないんですよね?」


「ああ、護衛がいるから安心し切っているんだろう。」


 呪花を育てているゴブリンシャーマンだけはジル達に気付いている様子が無い。

一番厄介なゴブリンシャーマンに警戒されていないのは都合が良い。


「それでは私が斬ってきます。」


「分かった、守りは任せておけ。」


 ジルの言葉に頷いたリュシエルがゴブリンシャーマン目掛けて一直線に突き進む。


「ギャギャ!」


 護衛のゴブリン達が反応して矢や魔法をリュシエルへと飛ばしてくる。

しかしリュシエルはジルを信じて足を止めない。

先ずは確実にゴブリンシャーマンを討つ。


「ジル、頼みます!」


「任された。ファイアウォール!」


 ジルはリュシエルを守る様に護衛のゴブリン達との間に長く高い火の壁を生み出して完全に分断する。

ジルの火の壁に阻まれてリュシエルに攻撃は一切届かない。


「はっ!」


「ギャッ…。」


 リュシエルはそのままゴブリンシャーマンまで到達して剣を振るって身体を真っ二つにする。

陣形魔法を使われなければ呆気ないものだ。


「ゴブリンシャーマン討伐完了です!」


「ならば他のゴブリンとの戦闘に移るぞ。魔法を解除する。」


 ジルが火魔法を解除して火の壁を消すと潜んでいたゴブリン達が次々に姿を表す。

先程空間把握で確かめた時よりも数が増えている。


「こんなに潜んでいたか。」


「アーチャーにメイジ、統率個体のジェネラルまでいますね。」


 様々なゴブリン達がゴブリンシャーマンが倒された事で怒っている。


「アーチャーとメイジは我がやろう。ジェネラルは任せるぞ。」


「はい、速攻で終わらせます!」


 単体のゴブリンジェネラルをリュシエルに任せて、遠距離攻撃が得意なゴブリン達を引き受ける。

統率個体によってゴブリン達は強化されているのだが、ジルの火魔法に次々に蹂躙されていき直ぐに戦闘が終わる。


「ジルとの一対一の訓練が多かったので楽な相手でしたね。」


「集落なら対多数の戦闘も経験出来そうだな。魔石を取り出してやろう。」


 リュシエルが斬ったゴブリンジェネラルを火魔法で燃やして魔石を取り出す。

そして水の精霊が育てる薬草類の成長の妨げとなる呪花も全て燃やし尽くしておく。


「ジルの方は魔石の回収まで終わってるんですね。数が多かったのに殲滅が早過ぎます。」


「我の弟子ならこれくらいの殲滅速度は身に付けられる様にな。丁度今回は敵が多いから良い訓練になる筈だ。」


「ゴブリンに同情はしないですけど、ジルに狙われた魔物はひとたまりもありませんね。」


 魔石を収納してからジル達は更に森の奥へと進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る