73章
元魔王様と精霊の依頼 1
ジルが話題を変えた事によって水の精霊の危機は去った。
「確かベリッシ湖の周りには水の精霊の恩恵で多種多様な植物が豊富に群生していると聞いた事があります。」
「そうなのか?」
「はい、湖を良くしたら周りも気になりまして以前は手入れをしていました。薬草や木の実は人族にも喜ばれましたから。」
ベリッシ湖に足を運ぶ者達は豊富な資源にとても感謝していたと言う。
「その割には今は少なく見えるな。」
「もう何十年も前の話しですからね。取り尽くされたか枯れたか。レイクサーペントとの戦いの余波で駄目になったか。今は湖の手入れで忙しくてそちらは手付かずなんです。」
ベリッシ湖周辺の木々は枯れかけていたり倒れていたりと荒れている部分もある。
水の精霊がいない間にレイクサーペントが随分と好き勝手に暴れていたのだろう。
「もし宜しければ何か手伝わせて下さい。お力になれるかは分かりませんが。」
「え、でも。」
水の精霊はチラリとジルに視線を向ける。
そんな雑用を元魔王様にやらせるのはどうなのだろうかと躊躇している。
「お嬢がこう言っているんだ、気にするな。」
「そ、そうですか?ではこちらの水をお渡しするので少量ずつ広範囲に振り撒いてもらえますか?植物の成長促進効果や品種改良効果のある水なので。」
水の精霊が取り出した樽一杯にキラキラと光る水を満たしてそう言ってきた。
「任せて下さい。それではジル、行きましょうか。」
「ああ。」
「何かあればまたここで呼んで下さい。」
そう言って水の精霊は湖の中に潜っていった。
早速ジル達は頼まれた水撒きをベリッシ湖の周りを見学しながら行なっていく。
「これは中々面白いな。」
「そうですね。自分が神様にでもなった気分です。」
ジル達は頼まれた水撒きを案外楽しんでいた。
柄杓を使って一定間隔に水を撒いていくのだが、雑草が薬草に変わったり、一束しかない貴重な植物が一気に増えたり、倒れていた木々が土に還って新たな木が生えてきたりと劇的な変化を齎すのだ。
万能鑑定で受け取った水を視てみると精霊水と言う名前であり、水の精霊だけが作り出せる特別な水らしい。
植物を育てる事に非常に長けているらしく、市場に流せば相当な額となるだろう。
「思ったよりも価値のある薬草や植物は残っていたな。」
「水の精霊が頑張って育てた物ですからね。完全に枯れない様に皆も採取には気を遣ったのでしょう。」
水撒きをしつつ湖を半周し終わった。
所々には以前の水の精霊の頑張った結果が残っていた。
精霊水のおかげでそれなりに増えたので、またベリッシ湖の採取物として人気が出るだろう。
「それにしてもここまで精霊と良い関係を築けている人族達も珍しいな。」
「それはジルもでしょう?」
「シキは少し例外ではあるけどな。」
シキは前世からの知り合いだからこそ親しい関係を築けている。
だが水の精霊は誰とも契約していないので簡単にこの場所を離れて人族を見捨てる事も出来る。
そうしないのはシャルルメルトの人族達が自分をしっかり信仰してくれていると感じているからだ。
精霊の中でも水の精霊は情に厚い方なのかもしれない。
「ジル、ゴブリンです。」
リュシエルが水撒きする方向に魔物を発見する。
水辺でゴブリンが何かの作業をしている。
「あれは上位種のゴブリンシャーマンだな。」
「珍しいゴブリンなのですか?」
「ああ、準備されると面倒な陣形魔法を使用する。先手を取っての勝負なら比較的楽に倒せる魔物だな。」
陣形魔法は本当に面倒だ。
邪神教の者に使われた事があるが、準備や供物が必要で事前の準備が面倒な魔法だが発動してしまえば厄介な魔法なのだ。
ジルであっても効果次第では簡単に抗えない。
「では早速倒しましょう。ベリッシ湖の周りにゴブリンの集落なんて作られては困ります。」
先程の親子の様にベリッシ湖にはこれから多くの領民が訪れる様になる。
危険は少しでも排除しておきたい。
「まあ、待て。」
「なぜ止めるのです?」
「あいつは単独だと比較的楽に倒せる。そんな事は自分が一番良く分かっている。」
「つまり他にもゴブリンがいると?」
「そう言う事だ。」
ゴブリンシャーマンはゴブリン種にしては頭が回る魔物だ。
自分の身を守る為に護衛を連れている事が多い。
ジルは空間把握の魔法を使ってゴブリンシャーマンの周囲を確かめる。
「見つけた。あの草むらと近くの木の上にいるな。既に我らも捕捉されている。」
これ以上近付けばいつでも攻撃してくるだろう。
肉眼では確認出来無いが弓矢や魔法を準備されて待ち構えられていた。
「中々優秀な護衛ですね。」
「それだけゴブリンシャーマンを守る為に警戒しているのだろう。」
「そもそも何をしているのでしょうか?」
ジルと違って時空間魔法を使えないリュシエルには、この距離からだと何をしているか分からない。
分かるのはゴブリン種な事くらいだ。
「何か植物を採取しているな。これは、成る程。」
「一人で納得していないで説明して下さい。」
「おそらく陣形魔法に使用する触媒類だな。長らく水の精霊がいなかったから、ベリッシ湖の周りで勝手に栽培していたのだろう。」
レイクサーペントと上手く共存でもしていたのか、ゴブリンシャーマン達を害する存在はいなかったので居着いていた様だ。
「栽培と言うと価値のある薬草類ですか?」
「いや、呪花と言う触れただけで様々な状態異常に掛かる厄介な花だ。観光客が誤って触れれば面倒な事になるだろうな。」
「直ぐにゴブリン共々駆除しましょう。」
そんな危険な花をベリッシ湖の周りに群生させておく訳にはいかない。
害悪なゴブリンと一緒に即刻排除するべきだとリュシエルは判断する。
「構わないが一応水の精霊に報告を入れておくか。呪花が欲しいと言われる可能性もあるしな。」
「言うでしょうか?」
そんな危険な物を欲しがるとは思えないが樽の水も無くなりそうなので、それもお願いする為に一度戻る事にした。
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