元魔王様と観光デート 10
孤児院を後にしたジル達は様々な店で買い物を楽しんだ。
お世話になったお礼に服やアクセサリー等をジルにプレゼントすると、ジルからもお返しがあってリュシエルはとても喜んでいた。
「ふふっ!」
リュシエルがジルに買ってもらった首飾りやブローチを撫でて嬉しそうな声を出している。
「そんなに嬉しかったのか?」
「はい、プレゼントと言う物は貰えると嬉しくなるものです。この指輪と同じくらい大切にしますね。」
そう言って指に嵌められている氷の結晶の意匠がある指輪を撫でる。
ジルが超級氷結魔法を込めてやった魔法道具の指輪だ。
ジルから貰えた物は全てリュシエルの宝物だ。
今日のデートは既に大満足であった。
「次はどこに向かうか決めているのか?」
「はい、少し遠いので魔法での移動をお願いしてもいいですか?」
「構わないぞ。」
二人は街の外に出てジルの魔法で空を移動する。
距離が離れているので日帰りするならこの移動方法しかない。
「この方角はベリッシ湖か?」
「正解です。水の精霊が戻って昔の観光地に戻りつつあるベリッシ湖をジルが帰ってしまう前に一緒に見ておきたかったのです。」
水の精霊を召喚魔法で呼び出して事情を説明すると直ぐにベリッシ湖を住処としてくれた。
既に水の精霊が住み着いた影響が出てきているらしい。
「昔がどれ程かは知らないが、そこそこ賑わっているらしいな。」
「皆レイクサーぺントがいなくなったと聞いて足を運んでいる様ですね。」
既にシャルルメルト全体にその話しは広まりつつあった。
皆久しぶりに魔物の脅威から解放されたベリッシ湖が気になっているのだ。
「見えてきましたね。」
「前に来た時よりも湖が綺麗に見えるな。」
「水の精霊が住み着いたからでしょうか?」
遠くからでも分かるくらい湖の水が透明度を増している。
ジルがレイクサーペントを討伐した事によりベリッシ湖が本来の美しさを取り戻してきているのだろう。
ベリッシ湖の近くに着地して更に近付いていくと釣りをしている親子を見つける。
「これはリュシエル様、ベリッシ湖の見学ですか?」
「リュシエル様も一緒に釣りしようよ!」
「こら、すみません。」
「いえいえ、お気になさらず。釣りはまた今度にします。その時は一緒に釣りましょうね。」
「うん!」
リュシエルの言葉に子供が頷いて和やかな雰囲気となる。
以前のベリッシ湖では考えられない事だ。
親子と別れて前にレイクサーペントと戦った場所に向かう。
水の精霊のおかげか戦いの跡は綺麗に消えていた。
「ん?何かこちらに向かってきてるな。」
ベリッシ湖の中央付近から大量の水飛沫を舞い上げながら勢いよく向かってくる何かがいる。
「水の上をとんでもない速さで移動している様ですね。あれは水の精霊ではないですか?」
「随分と慌てているがどうしたんだ?」
ジル達の下へと一直線に向かってきた水の精霊は急停止すると小さな頭を下げてお辞儀をしてきた。
「ここここんにちは!お迎えが遅くなってしまい申し訳ありません!」
開口一番に水の精霊がそう言ってくる。
当然前世が魔王だと知っているジルに向かってだ。
「そう畏まるな。信仰の対象であるお前がそんな状態では人族から変な目で見られるだろう?」
「も、申し訳ありません!」
不機嫌にさせてしまっただろうかと更に水の精霊の頭が低くなる。
「普通に接して下さって大丈夫ですよ。ジルも私もベリッシ湖を観光に来ただけですから。」
リュシエルがそう声を掛けると水の精霊はこの小娘は誰に言っているのか分かっているのかとでも言いたげな目を向けている。
しかしジルを見ると黙って頷いているので空気を読んで何も言う事は無い。
「それなら存分に見ていってほしい。今はレイクサーペントに荒らされた湖の中や周りの清掃中で相手は出来無いけど。」
まだレイクサーペントに汚されたベリッシ湖を清掃中らしい。
それでもかなり良くなってきているだろう。
「やはり昔住んでいた頃とは随分と変わっていましたか?」
「先ず圧倒的に魚がいない。私が人族の為に色んな種類の魚を養殖していたんだけど殆ど食われていた。」
水の精霊が残念そうに呟く。
苦労して集めて増やしたのに呆気なく食われてしまった。
「それは残念だな。美味い魚が食べられると思ったのだが。」
「数は少ないですがご用意は出来ます。後でお待ちしますね。」
「そうか?悪いな。」
「いえいえ、ベリッシ湖に住まうレイクサーペントを討伐してもらったお礼です。」
またベリッシ湖に住める様になったのもジルのおかげだ。
水の精霊としては何かしらお礼をしたいと思っていた。
「ん?お嬢、どうかしたか?」
水の精霊とやり取りをしているとこちらをじっと見ているリュシエルに気付く。
「水の精霊のジルに対する態度だけとても丁寧だなと思いまして。」
「そ、それはベリッシ湖を解放してもらった恩がありますから!それ以上の事は何もありませんよ!」
「そうでしょうか?」
少し慌てている水の精霊を見て更に疑惑の視線を向けている。
ジルの前世を知る水の精霊だがジルは隠したそうにしている様子なのでバレる訳にはいかず、どうやって誤魔化そうかと焦っている様子だ。
「それよりもお嬢、観光に来たのだから周囲を見て回らないか?」
「そうでした、それが目的ですものね。」
ジルが助け舟を出してやるとリュシエルも心良く頷いてくれて水の精霊は安堵していた。
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