元魔王様と観光デート 9

 直ぐに孤児院に衛兵を呼び寄せて院長や雇われの荒くれ者達が連行されていく。

これで孤児院にも平和が戻った。


「院長が溜め込んでいたお金はこれだけですか?」


 テーブルの上に金貨や銀貨が積まれているが、シスターから院長の着服し始めた時期を聞くと相当な額を溜め込んでいる筈なので圧倒的に足りない。


「予想よりも少ないですが子供達にはお腹いっぱい食べさせてあげられそうです。」


 シスターは現状でもかなり困っていたので、このお金でも充分有り難がっている。


「使われてしまったのでしょうか?」


「どこかに隠しているんじゃないか?」


「あり得ますね。手分けして探してみましょう。」


「いや、我が探してやろう。」


 ジルは心眼よりも効果範囲の広い空間把握の魔法を使用して孤児院全体を認識範囲とする。

それらしい物がないか探すとこの部屋の直ぐ近くに見つけた。


「この壁の向こうだな。」


 ジルが院長室の壁をコンコンと叩きながら言う。


「この奥ですか?」


「廊下を見ましたが部屋はありませんでしたよ?」


 シスターとリュシエルが首を傾げる。

ジルが言う場所には出入り口となる扉が無い。


「何かの仕掛けに反応して開く部屋なんじゃないか?まあ、面倒だから探さなくてもいいだろう?」


 目当てはお金であり隠し部屋はどうでもいい。


「シスター、少し荒っぽくなりますが宜しいですか?」


「誰もあの院長の部屋に近付きたいと思わないでしょうから壊れても構いません。」


 シスターに許可をもらえたのでリュシエルが壁に向かって魔装した剣を振るう。

するとジルの言う通り壁の奥に空間が広がっていて、容易に壁を壊す事が出来た。


「随分と溜め込んでいたな。」


「こ、こんなに大量の金貨や銀貨が!?」


 部屋の中にはテーブルに置かれていた何倍ものお金が存在していた。

中には大金貨まである様でかなり溜め込んでいたのが分かる。


「一体どれだけ孤児院のお金に手を付けていたのやら。シスター、今度こそこれらは孤児院の経営に役立てて下さい。」


「宜しいのですか?解決して下さったお二人に金銭を払うのが筋では。」


 いきなりこんな大金を貰えると聞いてシスターは少し困っている。

お金が欲しかったのは事実だが取り戻せたのはジル達のおかげだ。


「私にとってはシャルルメルトの将来を担う子供達に使われた方が有益ですから。」


 いつの間にか集まってきた子供達を見ながらリュシエルが微笑む。


「我は少し貰っておこう。」


「ジル、貴方であっても孤児院のお金に手を出すのは止めてもらいたいのですが?」


「勘違いするな。これから腹一杯美味い物を食わせてやる代わりの金銭だ。」


 そう言ってジルが部屋の中にあるお金から金貨を一枚貰う。

このまま空腹の子供達を放置して帰ったりはしない。


「お前達、腹が減っているな?」


「う、うん。」


 子供達がジルの言葉に頷く。

院長のせいで皆とても空腹だ。


「ならば孤児院の者を全員中庭に集めろ。我が美味い物を思う存分食わせてやる。」


「ほ、ほんと?」


「ああ、食べたければ急ぐといい。」


「分かった!!」


 子供達が一斉に孤児院中に散っていく。

早く食べたくて仕方無い様子だ。


「ジル、子供達はそれなりの数がいますよ?そんな約束をして大丈夫なんですか?」


「任せておけ。シスター達も一緒に食べにくるといい。」


「私達も宜しいのですか?」


「子供だけ食べさせて大人は除け者なんて事はしない。」


 無限倉庫の中にはいつでも好きなだけ食べられる様に大量の食べ物が収納されている。

それをこの機会に振る舞うつもりだ。

少しすると中庭に孤児院の者達が全員集合したと子供達が教えてくれたのでジル達も向かう。


「さて、今日は食べ放題だ。院長に苦しめられた分、それを取り返すくらい思う存分食べるといい。」


 そう言ってジルはスキルを使用して幾つものテーブルを出して、その上に大量の料理を出していく。


「「「わあー!」」」


 美味しそうな出来立ての料理に子供達が群がっていく。

皆我先にと食べているがそう簡単に無くなる量では無い。


「肉だけで無く海の魚まで!?」


「これは高ランクの魔物のお肉ではないですか!?」


「揃えようとしたら金貨がどれだけ掛かるのでしょう…。」


 リュシエルとシスターが料理を見て驚愕している。

間違い無く金貨一枚程度では揃える事が出来無いのは確実だ。


「大人達の手が進んでいないな。」


 子供達は美味しそうに食べているがシスター達はまだ手を付けていない。


「こんな豪華な料理を前にしたら普通は驚いてしまいますよ。」


「子供の様に素直になればいいものを。」


 そう話していると一人の女の子が近付いてくる。

先程院長に取り押さえられていた子供だ。


「お兄ちゃん、ありがとー!」


「まだまだあるから遠慮するなよ?」


「うん!シスターも食べよう!美味しいよ!」


「あっ。」


 シスターが子供に手を引かれてテーブルに連れていかれる。

勧められるままに料理を食べるとその美味しさに驚き、ジルに一礼してから一緒に料理を食べていた。

それを見た他のシスター達も料理を食べ始めてくれた。


「ジルがこんなに子供に優しいとは意外でした。」


「我は敵対する者以外には随分と優しい方だぞ?」


 前世から庇護を求めてくる者は敵だった者でも受け入れていたくらい寛容だった。


「そうでしょうか?私の訓練は厳しい時も多い様に感じますが。」


「この先の未来を案じてやっているのだ。厳しいのでは無く逆に優しいと言う事だな。我の優しさが伝わっていないとは心外だ。」


「冗談です。しっかり伝わっていますよ。」


 そう言ってリュシエルが笑う。

確かに厳しくしてきたのは事実だが、それくらいしないとリュシエルはこの先生き残れない。

そんな事はリュシエルも分かっている。


「改めて孤児院の件は助かりました。」


「気にするな、成り行きで解決しただけだからな。」


「ふふっ、料理を食べ終えたら次に向かいましょうか。」


 孤児院の人達との食事を楽しんだ後、皆に見送られてジル達は観光の続きに戻った。

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