72章

元魔王様と観光デート 1

 せっかく奴隷から解放されて言葉も覚えたので美咲は街を見て回りたいと言ってきた。

直ぐにセダンに帰る訳でも無いのでお小遣いに金貨を持たせて送り出した。


 一応美咲には護衛として天ちゃんを付けている。

暇そうにしていたので記憶を取り戻すきっかけにでもなればと買い物に付き合わせた。


「ジル、何をしたのですか?」


「戻ってくるなり何の話しだ?」


 ジト目を向けてくるリュシエルに尋ねる。


「お父様にダンジョン近くの近況報告をして帰ってきたら美咲が言葉を覚えていたのですよ?ジルが何かしたのは明白です。」


「突然言葉に目覚めたのではないか?」


「そんな訳が…はぁ。まあ、いいのですけどね。ジルが特殊な存在だと言うのは今更ですから。」


 時々こうやってジルは話しをせずに誤魔化す時がある。

そんな時は何を聞いても無駄なのだと最近はリュシエルも理解していた。


「それで報告は終わらせてきたのか?」


「はい、今のところ上手くいっている様なので、これを機会にあの辺りに本格的に村を作ろうかとお父様は考えていました。」


 既に村の様な発展ぶりだがその場所を仕切る者やギルドの設置、食べ物も宿屋も不足している。

快適にダンジョン探索をする環境作りはまだまだこれからだ。


「ダンジョン村か。その内大きく発展していきそうだな。」


「ダンジョンは大きな財源になると聞きますからね。港町トレンフルの様に発展してくれたらと思います。」


 トレンフルではダンジョンコアの破壊が禁止になっているくらい領地の財源の一つとして確立されている。

ダンジョン次第だがシャルルメルトもそう化ける可能性はある。


「それでこの後はどうしますか?ダンジョンでの訓練は出来無かったので模擬戦でもしますか?」


「そうだな、そうするか。」


 今日の予定が丸々空いてしまったのでリュシエルと模擬戦をする事になった。

それから暫く模擬戦を続けたので休憩していると二人の下に駆け寄ってくる者がいた。


「出来たぞ!」


 そう声を上げながら近付いてくるのはダナンだ。

珍しく興奮している様子である。


「突然どうしたダナン?」


「出来たとは何がですか?」


「大結晶石を使ったリュシエル嬢の魔法道具だ!」


「もう出来たのですか!?」


「ああ、渾身の出来だぞ!」


 そう言ってダナンが自信満々に掌を見せてくる。

その上には小さな指輪が乗っており、氷の結晶の形が意匠されている。

リュシエルはそれを受け取ってまじまじと見つめる。


「…綺麗です。」


「ほう、見事な指輪だ。」


 リュシエルはその魔法道具の指輪の美しさに見惚れている。

美しさだけで無く魔法を込める器としても申し分無い。


「魔法を使える魔法道具の物でも間違い無く最高峰だと自負している。」


「確かにこいつなら超級魔法までは入りそうだ。」


 鑑定用の魔法道具を取り出して万能鑑定を使用する。

魔王時代に作った似た様な魔法道具には及ばないが、あれらは神々の恩恵を受けた強過ぎる力によって作られた例外なのでこれは世界最高峰と言って問題無い。

さすがはエルダードワーフのダナンだ。


「超級魔法ですか!?そんな凄い魔法道具を。」


「ほほう、我ながらさすがだな。」


 ジルの言葉を聞いてリュシエルは驚き、ダナンは嬉しそうに頷く。


「ジル、模擬戦を再開する前に早速魔法を入れてほしいのですが。」


 リュシエルが期待の眼差しで指輪を差し出してくる。


「構わないぞ。何の魔法がいいのかもう決めているのか?」


「何でもいいのですか?」


「ああ。」


 ジルが持つ魔法適性の中でも氷結魔法はずば抜けて高い。

どんな魔法でも使えるので何を指定されても構わない。


「それではフロストコフィンをお願いしたいです。」


「超級氷結魔法のフロストコフィンか。確か相手を氷の棺に閉じ込める魔法だったな?」


「ああ、かなりの強度があるから壊すのは一苦労だ。だが攻撃系の魔法で無くていいのか?」


 相手を拘束する優秀な魔法だが同じ超級氷結魔法には火力の高い魔法もある。

氷結魔法の強力な攻撃系魔法が手に入るチャンスなのだ。


「はい、攻撃系は自分の適性のある魔法で覚えます。相手を拘束出来る強力な魔法は何かと便利だと思いますから、そちらでお願いしたいです。」


「時間稼ぎにもなるからな。自分が敵わない相手だと分かれば閉じ込めて逃げる事も出来るし使い勝手はいいだろう。」


 スキルの件で狙われる事が多いリュシエルにとっては良い魔法かもしれない。

フロストコフィンを受ければ大抵の者は直ぐに追ってくる事は出来無いので逃げる時間は充分に稼げるだろう。


「必ずしも倒す必要は無いか。リュシエル嬢にとっても良い切り札になりそうだな。」


「はい、良いお守りになりそうです。」


「では早速魔法を込めるか。」


 ジル達は魔法道具の指輪に魔法を込める為に庭へと移動した。

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