元魔王様と異世界からの転移者 4

 ジルが万能鑑定で偶然発見したのはダンジョンマスターになれる人族である一条美咲だった。

浮島でシキが異世界の知識を使ってダンジョンコアの復元に成功したが、ダンジョンを管理するダンジョンマスターがおらずただの地下空間になっていた。


 ダンジョンを稼働させる為に必要なダンジョンマスターを探して、こうして時々万能鑑定を使用していたのだが、やっと出会う事が出来たのだ。


「ダンジョンマスター?それは凄い事なんですか?」


 この世界に来たばかりでダンジョンマスターが何か理解していない美咲が首を傾げている。


「我が人族で見たのは初めてだ。かなり貴重な存在だろうな。」


 万能鑑定を長年使ってきて初めて見つけた。

なれる素質を持つ者はそれだけ少ないのだろう。


「それなら私そのダンジョンマスターになります!そしてジルさんに恩返しをします!」


「まあ待て。そう簡単に決めていい事では無いのだ。」


「?」


 美咲は恩を返そうと二つ返事で引き受けてくれる様だが、ダンジョンマスターについて理解していない美咲にはしっかり説明しておくのが先だ。


「先ず美咲は異世界からの渡り人だ。ダンジョンに付いてもよく分かっていないのだろう?」


「あっちの世界にはありませんからね。モンスター、宝箱、トラップとかがある迷宮って印象はあります。」


 実際に存在する訳では無いので知識上の話しだ。

世界が違うのでそれが合っているのかも分からない。


「簡単に言えばそうなるな。そしてそのダンジョンを管理するのがダンジョンマスターだ。」


「迷宮の管理ですか。面白そうですね。」


「だがダンジョンマスターには危険もある。ダンジョンには人種で言うところの心臓とも言えるダンジョンコアが存在する。ダンジョンコアは外からやってきた者によって破壊される可能性がある。」


 ダンジョンは財源にもなるのでそのまま残して資源を生み出してもらうと言う考えと、ダンジョンコアを破壊する事で得られる貴重な素材を手に入れようと言う考えの二つに分かれる。

後者だとダンジョンマスターも危険となる。


「それを守るのもダンジョンマスターの務めと言う訳ですね。」


「そうなるな。そしてここからが重要だが、ダンジョンコアが破壊されればダンジョンは崩壊する。更にダンジョンマスターも命を落とす事になる。」


「えっ。」


 ダンジョンコアとダンジョンマスターの命が共にあると聞いて美咲は驚いている。

そんな仕組みだとは思わなかったのだろう。


「故に簡単にダンジョンマスターになるなんて言うべきでは無い。それは自分の命を掛けると言う事と同義なのだからな。」


 ダンジョンマスターになると言うのは命の危険を増やす行為だ。

無理してまでなってほしくは無い。


「美咲は我に恩を感じている様だがそこまでする必要は無い。自由にこの世界を生きていく選択肢だってある。」


 突然知らない世界に転移させられて不安だろう。

購入して奴隷から解放したのはジルだが本人の意思を尊重するくらいはする。


「ジルさんって優しいんですね。」


「何故そう思う?」


「だって私はこの世界に来て日が浅い世間知らずの小娘なんですよ?そんな事話さないでダンジョンマスターにだって出来たじゃないですか。」


 ダンジョンマスターのリスクを話さなければ美咲は簡単に引き受けただろう。

それならわざわざ話さなくてもよかったのではと美咲は言っている。


「そんな騙す様な事はしない。我の持つダンジョンを稼働させたいがダンジョンマスターの命がコアと連動してしまうんだからな。命を預けてくれる者には敬意を払いたいだろう?」


「やっぱり私を購入してくれたのがジルさんで良かったです。そして私は今ダンジョンマスターになると決めました。言葉が分かる様になっても、この世界を一人で生きていくのも大変そうですから。」


 出会って間もないジルだが話してみて信用の出来る人物だと確信した。

ダンジョンマスターになる事でダンジョンコアと命を共にする事にはなるが、ジルの庇護下であれば安心出来ると判断した。


「本当にいいのか?コアが破壊されれば命を落とすんだぞ?」


「そうなりたくは無いので守って下さい。ジルさん強そうですし。」


「美咲、お前は人を見る目があるな。我に任せておけ。お前を我の仲間として受け入れよう。」


 ダンジョンマスターを引き受けてくれた美咲に危険が及ぶ時は必ず守ると誓った。


「はい、これから宜しくお願いします。」


 美咲が浮島の新たな住人としてジル達の仲間に加わった。

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