元魔王様と観光デート 2

 屋敷の外に出たジル達は魔法を使用しても問題無い広い敷地に移動する。


「ちなみに魔法を使用出来る魔法道具の存在は知っているのですが、どうやって魔法を込めるのですか?」


「込めたい魔法を魔法道具にぶつければいい。それだけで魔法を保存出来る。」


 一度魔法道具に向かって魔法を放つ必要がある。

なのでもし器の耐久を上回る魔法を放ってしまえば耐えられずに壊れてしまう可能性がある。


「と言う事で一度預からせてもらうぞ。」


「はい、お願いします。」


 リュシエルから指輪を受け取る。

ジルは前方にその指輪を軽く放る。


「超級氷結魔法、フロストコフィン!」


 指輪が落下する前にジルが手を前に向けて氷結魔法を使用する。

すると指輪が一瞬で巨大な六角柱の氷の中へと閉じ込められた。


「綺麗な氷塊ですね。まるで宝石の様です。」


 ジルの魔法を見てリュシエルが思わず感想を呟く。

美しく強い、正にジルの氷結魔法はその言葉が似合う。


「少し待っていれば指輪が魔法を保存してくれる。」


 ジルの言う通り直ぐに指輪が魔法を保存して氷結魔法が解除されていく。


「ジルのフロストコフィンが消えていく。」


「指輪が魔法を覚えられた言う事だな。ほら、大事にするんだぞ。」


「はい、ありがとうございます。」


 ジルから受け取った指輪を大切そうに両手で包んでリュシエルが微笑む。

最高の贈り物を貰えて大満足だ。


「わしも満足のいく物が作れて良かった。さて、そろそろセダンに帰る準備でもするか。」


「シャルルメルトは堪能出来たのか?」


「ああ、結晶石も大量に仕入れられたからな。店も弟子に任せているがそろそろ少し不安でな。」


 思ったよりも長い間シャルルメルトに滞在してしまったのでそろそろ帰る事になった。

ジルも充分満喫出来たので異論は無い。


「出発はいつ頃にする?」


「わしは今日でも明日でも構わないぞ。ジルに任せるとしよう。リュシエル嬢の訓練の依頼を受けているのだろう?」


「そうだな。」


 一先ず区切りの良いところまでは訓練を付けるつもりだ。

中途半端な状態で手放すのは帰った後で気になってしまう。


「あ、あの、もう数日は時間を頂けないでしょうか?」


 ジルとダナンがセダンに帰る日について話しているとリュシエルがそう言ってきた。


「まだ不安があるか?」


「それもあります。ジルに鍛えてもらって随分と強くなれた自覚はありますが、最後にもう少しだけ訓練を付けてほしいのです。」


「構わないぞ。お嬢が納得いくまでは付き合おう。」


 常に襲われる可能性があるリュシエルとしてはギリギリまでジルに訓練してもらい、実力を最大限に高めておきたいのだ。

ジルもそう考えていたので問題無い。


「助かります。それに私はジルに何もお返しが出来ていません。その時間も頂きたいのです。」


「公爵から報酬は貰っているぞ?」


「それとは別に個人的に返したいのです。」


 ずっと屋敷に引きこもるだけだった自分を変えてくれたジルに今は感謝している。

少しでも何か恩返しがしたかった。


「ふむ、ならばシャルルメルトの街を案内してくれ。」


「街案内ですか?」


「ああ、軽く見て回った程度で観光はまだしっかり出来ていないのだ。お嬢自らの案内なんて中々豪勢な報酬になるだろう?」


 せっかくならシャルルメルトの街も見ておきたいと思っていた。

公爵令嬢であるリュシエル自らの案内で観光なんてそう簡単に体験出来無い。


「ふふっ、ジルが希望するならそうしましょうか。それでは残り数日間でしょうけど宜しくお願いしますね。」


「ああ、この後は早速訓練だ。滞在期間が一気に短くなったからな。」


「分かりました。その前に着替えてきますね。」


 リュシエルが屋敷に戻る。

その際に早速指輪を嬉しそうに指に嵌めていた。


「そう言えばダナンは会っているか分からないが、帰りは人数が増える。」


「ん?誰かセダンに行きたい者でもいたのか?」


 工房にこもっていたので最近の事情を知らないのだ。


「仲間と仲間の様なのが増えてな。セダンに帰る時に一緒に付いてくる事になった。」


「そうだったか。ならばスカイに乗れる人数を増やす為に鞍を変えておかないとな。」


 ダナンの従魔であるレッサーワイバーンのスカイに乗るとなると鞍の数が足りない。

今の内に増やしておく必要がある。


「それに関しては心配するな。スカイは出さなくて大丈夫だ。」


「ん?何で帰るつもりだ?」


「ダナンにも我が複数の魔法を使える事を明かしたからな。制限する必要が無くなった。我は魔法の組み合わせによる爆速移動が可能だ。」


 今回のシャルルメルトでダナンにも魔法適性に付いて話した。

なので帰りはスカイでは無く魔法の移動で帰ろうと提案する。


「帰りはその方法を使うと言う事か。」


「ああ、スカイの何倍も早く帰れるぞ。」


「成る程な。お前達が移動を長いだの退屈だの言っていた意味が分かった。」


 そんな方法があるとは思いもしなかったが、これは複数の魔法を扱えて魔力量が多いジルだから出来る事だ。

規格外な方法なので予想なんて出来る筈が無かった。

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