元魔王様と異世界からの転移者 2

 何となく万能鑑定を使って有用な奴隷がいないか視ていて発見は偶然だった。


「気になる奴隷でもいました?」


 ジルが突然動かなくなってしまったのでリュシエルが尋ねてくる。


「ああ、少し見ていってもいいか?」


「構いませんけど。」


 ダンジョン周りの営業している店の視察はここで最後なので問題無いと言ってくれた。

ジルは万能鑑定で視た奴隷に近付く。


「むっ、女性ですか。」


 ジルが気になっている奴隷が女性と知ってリュシエルが少し不機嫌そうな声を出す。


「何故機嫌が悪くなる?」


「別に悪くなっていません。」


「そうか?」


「そうです。」


 明らかに先程よりも不機嫌そうに感じるが違うと言うならそうしておく。


「お客様、そちらの奴隷は言葉が通じません。異国の言語を話していまして。」


「異国の言語?」


「私の言葉が分かりますか?」


 黒髪黒目の奴隷の女性が言葉を発する。

何かを喋っているのは分かるが、確かに奴隷商人の言う通り言葉が分からない。

ちなみに万能鑑定で名前は一条美咲と言うのは分かっている。


「こんな感じで何と言っているのか分からないのです。」


 奴隷商人が困った様に言う。

今までも言葉が通じずに苦労した様だ。


「どこの言葉でしょうか?」


「ふむ、文字はどうだ?」


「試してみましたが見た事の無い文字を書きますね。」


「我にも見せてくれ。」


「分かりました。」


 奴隷商人が羊皮紙を用意して美咲に羽ペンと共に渡す。


「何か書けばいいのかな?」


 首を傾げつつも何かをすらすらと書いていく。

当然書かれた文字の意味は分からない。


「どうです?見覚えはありますか?」


「初めて見る文字ですね。」


「ほう、日本語か。」


 ジルも普通では分からないが異世界通販のスキルで購入した本なんかを見る時に使っている翻訳機能のある魔法道具で見ると文字の意味が分かる。

紙には私は美咲と言います、これは日本語と言いますなどなど説明が書かれている。


「日本語?どこかで聞いた事がありますね。」


 リュシエルが聞き覚えのある言葉を思い出そうとしている。


「昔召喚されていた勇者が元の世界で使っていた言語だな。」


「それです、通りで聞き覚えがあったと思いました。」


 召喚された勇者の出身で一番多かったのが日本と言う場所だった。

こちらの世界にその地域で使われていた言語が根付く事は無かったが勇者の使う言語と言う事で知られていた。


「なっ!?ではこの方は勇者様なのですか!?」


「いや、勇者は召喚されると同時にこの世界の言語を理解するスキルを持っていた。それを持っていないと言う事は違うのだろう。」


 万能鑑定で視たが美咲はスキルを所持していない。

勇者とは違う扱いだろう。


「ジル、随分と詳しいですね?実際に会った事があるのですか?」


「…と言うのを本で読んだ事がある。」


 実際に魔王時代に勇者達とは会っているが、それはジルの前世を知る者だけが分かる事だ。


「この方も勇者で無いとしても同じ世界から来られたと言う事なのでしょうか?」


「その可能性はあるかもな。それで店主よ、この奴隷は売ってもらえるのか?」


 ジルは勇者関係者関連だから購入を決めた訳では無い。

それでもこの話しをした事で値段変動はしてしまうかもしれない。


「貴方の話しが本当だとすれば価格を見直す必要があるのですが。」


「しかし言葉が通じず文字も理解出来無いと言うのは大変ではありませんか?」


「正にその通りです。そこでどうでしょうか、現在の価格の倍の値段で即決と言うのは?」


 本来ならもっと価値が高まる可能性もある。

しかし奴隷商人としても意思疎通が取りにくい奴隷を抱えているのは大変なので即決の価格を提示してきた。


「ふむ、いいだろう。」


「ありがとうございます。それでは早速契約をしましょう。」


 奴隷商人が鍵を開けて美咲に出る様に促す。


「えっ?出ていいの?貴方が何かしてくれたの?」


 困惑しつつも美咲が外に出てくる。

言葉が通じないので状況を伝えるのも難しい。


「何を言っているか分かりませんね。」


「店主よ、少しだけ二人きりにしてもらってもいいか?」


 ジルは現在の状況を伝えて美咲を安心させてやろうと思い尋ねる。


「構いませんよ。」


「私もですか?」


「そうしてくれ、直ぐに終わる。」


 二人が離れてくれたので魔法道具を付けながら無限倉庫から本を取り出す。

異世界通販のスキルで購入した日本語の本だ。

その本を見せると少し驚いた表情をしている。

ジルと違って美咲は内容を理解出来るのだろう。


 ジルは本の文字を順番に指差していき、それが文章になる様にする。

美咲を奴隷として購入する事、酷い扱いはしない事、大人しく付いてきてほしい事などを文字で伝える。

それを見た美咲は更に驚きつつもジルを見て頷いてくれた。


「何をしていたのですか?」


「気にするな。」


 リュシエルは知りたがっていたが異世界通販のスキルにも触れかねない事なのでそう言って誤魔化しておく。


「それでは契約に入ります。」


「それなんだが奴隷契約では無く奴隷解放の手続きで頼む。丁度領主の娘もいる事だしな。」


 美咲を奴隷として抱え込むつもりは無い。

これから世話になるので待遇は良くしてやりたい。


「犯罪奴隷では無いのですよね?」


「はい、空腹で行き倒れていたところを保護しました。私が食事を与えてくれると分かって、とても大人しくしてくれています。」


 誰とも話せない美咲を保護する為に借金奴隷としただけらしい。

所有奴隷となった代わりに衣食住はしっかり保証されていた。


「では奴隷解放しても構いません。お父様には戻り次第報告しておきます。事後報告でもジルが面倒を見るなら大丈夫でしょう。」


「分かりました。」


 リュシエルから許可が出たので手続きをして美咲を奴隷から解放してもらった。


「これで奴隷解放が終了しました。」


「では約束の代金だ。」


「確かに受け取らせて頂きました。またのご利用をお待ちしております。」


 異世界の言語を話す一条美咲と言う女性を引き連れてジル達は公爵家へと戻った。

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