71章
元魔王様と異世界からの転移者 1
ダンジョンから帰還した後は公爵に調査報告を行った。
ランクの低い冒険者でも利用出来ると言う事でシャルルメルト領でも話題となり、多くの冒険者が集まる事となった。
それから数日としない内にダンジョンの周りは小さな村が出来た様な賑わいである。
冒険者が集まればそれに続いて商人、鍛治師、飲食店、宿屋とどんどん人が集まったのだ。
「一気に賑わいましたね。」
ダンジョン近くの村を見渡してリュシエルが呟く。
「持ち帰った魔法武具や魔法道具もそれなりに価値が高かったらしいからな。やはりダンジョンの宝箱は金になる。」
結晶石で使った分を全て補た訳では無いがそれでも相当な収入だ。
それだけシャルルメルトでは魔法武具も魔法道具も不足している物なのだ。
「結晶石ばかり掘っていては冒険者にとっては退屈かもしれませんからね。本当にダンジョンを見つけてくれた冒険者には感謝しかありません。」
その冒険者のおかげでシャルルメルトは一気に活気付く事になった。
勿論公爵からはその報酬として一生遊べるだけの大金が出され、本人は感謝しながら隠居生活を送っているらしい。
「新しいダンジョンと言うのは人の興味を惹くからな。それでどうする?ダンジョンはかなり混んでいるみたいだぞ。」
今日もダンジョン探索の予定でやってきたのだが入り口は行列が出来ている。
皆ダンジョンに潜ってみたくて順番待ちまである状態だ。
「仕方がありません。今日のダンジョン探索は諦めましょう。その代わりに少し寄り道してもいいですか?」
「どこか寄りたいところでもあるのか?」
「お父様にダンジョン付近で営業している者達が真っ当な商売をしているか見てきてほしいと頼まれていたのです。」
店を営業している者はシャルルメルトの領民が多いが、ダンジョンの噂を聞き付けて外からやってきた者も一定数いる。
領地のルールに従って営業しているかの調査がまだ進んでいないらしい。
「公爵は結晶石の件で忙しいらしいからな。」
「ですからこの後見て回っても宜しいですか?」
「構わないぞ。」
それから二人で様々な店を見て回ると領民は普通に接してくれているが、外からやってきた者達はリュシエルだと分かるとスキルの事もあって警戒していた。
本人は特に気にしていない様なのでジルも騒ぐつもりは無い。
「ここで最後ですね。」
「もうこんな物まで出来ているんだな。」
二人の前に建っている急拵えの建物は奴隷商館だ。
しっかりとした建物や商品となる奴隷がまだまだ揃っていない様だが営業はしている。
「ダンジョンの近くには多いらしいですよ。戦力の貸し出しとして。」
「成る程な。」
買い手がいなくても戦闘に特化した奴隷の貸し出しで儲ける事が出来る。
それに戦闘の腕を買われて実際に奴隷を買い取ってもらえる事も多いらしい。
「少しお時間宜しいでしょうか?」
「こ、これはリュシエル様、我が奴隷商館にようこそお越し下さいました。」
店の中に入って奴隷商人に話し掛ける。
相手はリュシエルの事を知っている様で、突然の貴族の訪問に少し緊張している様子だ。
「今日は視察で来ています。中を見せてもらっても?」
「構いません、ご案内致します。」
店の中を案内されると何人かの奴隷とすれ違う。
奴隷と言うと貫頭衣やボロ切れを着させられている印象があるが普通の衣服を身に付けている者ばかりだ。
「随分と内装が綺麗ですね。」
「奴隷を扱っていると悪い印象を持たれがちなのですが、私は奴隷達を少しでも良い環境で扱ってしっかり仕事をしてもらいたいと考えていますから。」
「確かに奴隷達もとても健康そうですね。」
「商人の管理が行き届いている様だな。」
「恐縮です。」
奴隷を道具の様に扱う奴隷商人も多いがこの奴隷商館は信用出来そうだ。
元々シャルルメルトで奴隷商館を開いていた領民らしいので、その点も安心出来る。
「ここから下がまだ奴隷商館にきて日が浅い奴隷になります。教育や礼儀作法等教えられていませんので、失礼があるやもしれません。」
これまでに見た奴隷達は貴族の屋敷で使用人として働いていてもおかしくないくらいに礼儀作法がしっかりと叩き込まれていた。
なので貴族であるリュシエルに失礼があっては自分が困るので前もって知らせてくれる。
「気にしなくて大丈夫ですよ。それくらいで不敬罪と言う様な貴族ではありません。」
「左様ですね。とうぞ。」
シャルルメルト公爵家の者達の事は領民が一番よく知っている。
これくらいで罰する貴族ならとっくに領地を出ているところだ。
「様々な種族がいるんですね。」
リュシエルが物珍しそうに奴隷達を見回している。
ずっと屋敷に引きこもっていたので多種多様な種族と触れ合う機会も無かった。
「思ったよりも悲観している奴隷はいないな。商人の扱いが良いからか?」
「なるべく奴隷の負担にならない様に接してはいます。」
珍しい事に絶望している奴隷が全くいない。
奴隷と言う身分でありながら皆生気のある表情だ。
「貴方の様な奴隷商人が多ければ奴隷も苦労せずに済むのですけどね。視察は終わりでいいでしょう。今後も真っ当な商売を期待しています。」
「はい、シャルルメルトに住む者としてリュシエル様の期待を裏切る様な真似は致しません。」
深々と頭を下げて商人が言う。
善政を敷いてくれている公爵家を裏切る様な真似をするつもりは無い。
一領民としてシャルルメルトを支えていくつもりだ。
「ジル、帰りますよ。」
リュシエルが話し掛けてもジルは動かない。
とある場所から視線動かさずずっと見ている。
「ジル?」
「見つけた。」
ジルは一人の奴隷の少女を見ながらそう呟いた。
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