元魔王様と記憶喪失の天使族 3
ダナンに製作を頼んだ魔法道具は完成までに少し掛かると言う。
その間はリュシエルの戦闘訓練をして時間を潰していた。
「魔力を糧とし、石の礫よ、我が敵を打て、ストーンバレット!」
リュシエルが詠唱した土魔法により勢い良く放たれた複数の石が遠くに転がる。
何度も使わせているので遠くで石の小山が出来上がっている。
「ふぅ、そろそろ魔力が少なくなってきました。」
額の汗を軽く拭いながらリュシエルが言う。
「ふむ、ではここまでだな。昨日より二回多く使えているから魔力量は確実に上がっている。」
トレンフルでルルネットを相手にやった魔力量を増やす訓練だ。
「魔力量を増やす訓練は大変ですね。毎日魔法をこんなに使わなければいけないとは。」
生まれてから一度にこんなに魔法を使う事は無かった。
一日で増える魔力量も微々たるものなので大変な思いをして行う者は少ないが、ジルからすれば毎日行わせれば一定の魔力量が手に入るのでやらない手は無い。
「本当であれば魔力切れで倒れるまでやらせたいところなのだがな。」
「ジルは鬼ですか?」
「だから優しくしてやっているだろう?お嬢をそこまで訓練させたら口煩い輩が多そうだからな。」
遠巻きにこちらを見ている騎士達。
訓練の方針は雇われているジルに一任されているので口出しは滅多にしてこない。
「この後はどうしますか?」
「魔力を使わない戦闘訓練でもいいが、何か希望はあるか?」
「希望ですか?」
訓練内容はジルが効率的に決めてくれていたので意見を求められるのは珍しい。
「もう時期セダンに帰るからな。何か見ておきたかったり、やってほしい事があれば言うといい。」
「成る程。」
リュシエルはジルの提案に暫し思案する。
「それでは少し遠出をしても宜しいですか?」
「構わないぞ。」
「では領地の少し南の方まで連れて行って下さい。アンレローゼ、私はジルと出掛けてきます。」
タオルや果実水を持って近付いてきていたメイドのアンレローゼに伝える。
「南と言うとベリッシ湖ですか?」
「はい。」
「分かりました、お気を付けて。公爵様には私の方から伝えておきます。」
方角だけでリュシエルの目的地を理解したアンレローゼがぺこりと頭を下げる。
「そこは遠いのか?」
「馬車でなら1時間程でしょうか?」
「ならば魔法での移動で行くか。」
「魔法でですか?」
往復に2時間も掛けているのは面倒だ。
そのベリッシ湖と言う場所で何をするのかは分からないが、魔法については話していて制限も無いので思う存分使っても問題無い。
「え?ジル、浮かせて何をする気ですか?」
急に鉱山の中でされた様に重力魔法で身体を浮かせられる。
どんどん高度が上がって地面との距離が開いていくとリュシエルの顔は青くなっていく。
「安心しろ、結界があるから落ちても死ぬ事は無い。」
「こ、怖いのですけど。」
空に浮く機会なんて無いので初めての経験だ。
落ちないか不安で思わずジルの手に抱き付く。
「直ぐに終わる。では行くぞ。」
「え?きゃああああ!?」
ジルが風魔法を後方に放った事でジル達を包む結界が勢い良く押し出されて空中を爆速で移動していく。
「この移動方法だと速くて楽なのだ。」
「速いのは分かりますが怖いですううう!?」
高高度で周りの景色がどんどん流れる速さでベリッシ湖へ向かっていく。
数十秒もすれば目的地上空に到着だ。
風魔法を止めて重力魔法でゆっくりと降りていく。
「はぁはぁ、死ぬかと思いました。」
「大袈裟だな。」
下に降りると地面の存在を有り難がっているリュシエルがいた。
地に足が着く素晴らしさを暫く堪能してから立ち上がる。
「それでこの湖に何か用事があるのか?」
「ここは釣りの名所だった場所です。」
「だった場所?」
「はい、今は釣り人が立ち寄る事も無くなってしまいました。とある魔物のせいで。」
そう言って悲しそうにベリッシ湖を見渡すリュシエル。
ジル達以外に人の姿は一切無い。
「その魔物を我に倒してほしいとかそんなところか?」
「可能であればですね。相手が相手なので。」
中々厄介な魔物が住み着いているらしい。
ジルは空間把握を使って周囲の高ランクの魔物を探していく。
湖の周りには特にいないので中だろうと思って探っていくと、湖の底に巨大な魔物を発見する。
「ほう、レイクサーペントか。」
「そうです。魔法ですか?」
「ああ、湖の深くにいるな。」
巨大な身体を持つ水棲の蛇型の魔物だ。
水中にいる魔物と言うのはそれだけで厄介だ。
リュシエルが倒してほしいと頼んでくるのも納得だ。
「やはりまだ生きていましたか。私が産まれる前から住んでいるらしいです。レイクサーペントのせいで湖の魚は減り、釣り人も襲われるからと寄り付かなくなってしまいまして。」
随分と長い間ベリッシ湖を牛耳っているらしい。
釣りの名所と呼ばれていたのも随分と前の話しだろう。
「相手は水中を自在に動き回れる魔物だからな。倒すのも中々難しいか。」
「そうなんです。何度か討伐隊を派遣したらしいのですが、全て失敗に終わってしまって、今では完全にレイクサーペントの住処となってしまいました。」
「成る程な。」
シャルルメルトは他の土地に比べて魔物があまりいない。
なので強い冒険者も少なくレイクサーペントを倒せる様な者もいないのだろう。
「ちなみにこの湖に拘る理由はそれだけなのか?」
正直に言えば釣りだけならそこまで拘る必要性は無い様に感じる。
ベリッシ湖以外にも川や小さな湖は存在しているのでそちらを利用すればいいだけだ。
「ここは釣りで人気だったと言うのもありますが、神聖な湖としてシャルルメルトの観光地の一つでもあったらしいです。この湖にはかつて精霊が住んでいたと聞きました。」
ベリッシ湖はレイクサーペントに乗っ取られる前、精霊の住処だったらしい。
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