元魔王様と記憶喪失の天使族 4

 精霊は精霊界と呼ばれる世界に住んでいるが、シキの様に召喚魔法に応じてやってきて、契約主との契約が切れてからもこの世界に居着いている精霊も多い。

そう言った精霊は人々の信仰の対象となり、ベリッシ湖にいた精霊もその類いだろう。


「どんな精霊かは知っているか?」


「水の精霊と聞きました。ベリッシ湖に現れてから水が清らかになり、多くの魚が泳ぐ様になり、周辺には珍しい草花が生い茂り、人も多く集まったと聞きます。自然を豊かにしてくれる水の精霊を民達も崇めて、お礼にと供え物をすると精霊も喜んで湖をより良くしてくれたらしいです。」


「良い関係を築けていたのだな。」


 精霊の中には魔力の少ない人族を嫌う精霊もいたりするが水の精霊が人好きで良かった。


「ですがその関係もレイクサーペントが現れた事により壊れてしまいました。水の精霊や民達は討伐を試みましたが、その強さに成す術も無く。」


 領民は水の精霊の住処を取り戻す為に、水の精霊もその手助けとしてレイクサーペントに共に挑んだが、力及ばず水の精霊は精霊界に帰ってしまった。


「私は水の精霊が住まうベリッシ湖を見てみたいのです。どこにでも誇れる美しき名所だった頃のベリッシ湖を。」


 自身のスキルのせいでシャルルメルトの印象が悪いとリュシエルは気にしている。

かつての名所を復活させる事で印象を少しでも良いものにしたい。


「良いだろう。お嬢の願いは我が聞き届けてやる。」


「本当ですか!」


「ああ、任せておけ。」


 嬉しそうな表情を浮かべるリュシエルに自信満々に頷く。


「ジルが言うと頼もしいですね。ですが無理はしないで下さい。ここのレイクサーペントは少し変だと聞きましたから。」


「変?」


「最後に戦いを挑んだのが私が子供の頃なのですが、以前よりも明らかに強過ぎたのだとか。私も実際に戦った訳では無いので分かりませんが、特殊個体に進化した可能性もあります。」


 それまでは何とか討伐出来るかもしれないと言う事で戦いが続いていたのだが、その時に圧倒的な力を見せ付けられて討伐は断念する事になった。


「ではお嬢は念の為に離れた場所から見ていてくれ。」


「分かりました。」


 リュシエルを湖から離してからジルが近付く。


「さて、特殊個体ならば相当厄介だがどうなるか。」


 湖の隣りまでやってきてどう誘い出すか考えながら覗き込む。

すると水面が少し揺れ出した。


「ん?気付かれたか。」


 空間把握を使用すると上に向かってレイクサーペントが物凄い勢いで迫ってきていた。

ジルに気が付いて迎撃しにきた。


「自分の縄張りに入ってきた侵入者の排除か。中々察知能力が高いではないか。」


 そんな事を言っている間に水面が大きく盛り上がって湖の中から巨大なレイクサーペントが姿を表す。


「ギャアアオ!」


「喧しいぞ、アクアランス!」


 ジルが水で出来た巨大な槍を放つ。

するとレイクサーペントが口から水の光線とでも言うべき凄まじい勢いの水を放ってジルの魔法と激突する。


「我の魔法を打ち消すか。確かに通常個体では無さそうだな。」


 万能鑑定を使用してレイクサーペントを視る。

これで特殊個体かどうか直ぐに分かる。


「ん?強化状態?魔力量増加、魔力回復量増加、魔法強化だと?」


 レイクサーペントが普通の状態で無い事は分かった。

何かが原因で大幅に力が強化されている状態らしい。


「原因は何だ?」


 万能鑑定で視ても原因は分からない。

なので空間把握を使用して身体全体を確かめる。

目で見えない体内も含めて全てだ。


「体内に何かあるな。これが原因か。」


 胃袋の辺りに人型の塊が存在している。

他に気になる物が特に無いのでこれが強化の原因だろう。


「これでは実質特殊個体みたいなものだな。冒険者達が苦労するのも納得だ。」


 通常のレイクサーペントよりは明らかに強い。

ただでさえ水中にいて厄介なのにこれでは手が付けられない。


「抜刀術・断界!」


「ギャオ!?」


 魔力の斬撃がレイクサーペントの身体に突き刺さる。

大きな傷は入ったが切れるまでには至らない。

しかしその攻撃でジルを危険だと判断したのか湖の中に潜ろうとする。


「逃すか。中級氷結魔法、フリージング!」


「ギャオ!?」


 ジルが水面に手を当てて魔法を使用すると水面が一気に凍り付く。

レイクサーペントが潜るのを僅かだが遅らせる。


「直接叩き斬ってやる。フレイムエンチャント!」


 銀月を火魔法で強化したジルが近付く前に湖に潜ろうと必死に身体を動かして氷を砕こうとしている。

だが氷が砕けるよりもジルの銀月が身体に当たる方が早かった。


「硬いな。まあ、焼き斬れるまで止めなければいいだけだ!」


 レイクサーペントを何度何度も銀月で焼き斬っていく。

相当な耐久力だがジルの攻撃をここまで受けて無事では済まない。


「ギャ…オ…。」


「やっとか。」


 1分近く斬り続けてようやく倒れてくれた。

レイクサーペントの巨体が凍った水面に横たわっている。


「ジル、さすがです!」


 レイクサーペントが倒されたのを確認してリュシエルが喜びながら近付いてくる。


「これでベリッシ湖は平穏になった筈だ。水の精霊がまた現れるかは分からないけどな。」


「また来てくれるといいのですが。それとも召喚魔法で呼び出した方がいいのでしょうか?」


 水の精霊は精霊界にいると思われるのでレイクサーペントが倒された事を伝える手段が無い。


「帰ってシキに尋ねてみるといい。同じ精霊同士だからな。」


「それもそうですね。帰ったら何か良い方法があるか聞いてみます。」


「ではこいつを収納して帰るとするか。」


 ベリッシ湖の件は解決したのでこれ以上留まる必要も無い。

湖がジルの氷結魔法で凍っているのでリュシエルが身体を冷やさない内に帰った方がいい。


「私の我儘で倒してもらったのですから、高く買い取らせてもらいますよ。」


「それはいいな。ん?」


「え?」


 無限倉庫の中にレイクサーペントを収納すると、その体内にいたと思われる人が空中に突然現れて凍った水面に落下した。

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