元魔王様と記憶喪失の天使族 2

 早速ダナンが大結晶石を持って魔法道具を作成しに出ていった。


「魔法道具が完成したらジル達はセダンに戻られるのですか?」


「お嬢までアンレローゼの様な事を聞いてくるな。寂しいのか?」


「寂しい…のでしょうね。こんなに屋敷の者達では無い方と過ごしたのは久しぶりでしたから。毎日が楽しくて刺激的で終わってほしくないと思っています。」


 リュシエルが今の感情を正直に呟く。

ジル達ともう直ぐお別れかと思うと寂しいと言う感情が大きくなってくる。

まだまだ一緒に毎日を過ごしてほしいと思っている。


「だが我も向こうに仲間達を残してきているからな。ずっとシャルルメルトにいてはやれん。」


「分かっています。私の我儘でジルを拘束出来るとは思っていませんから。」


 そう言って悲しそうな笑顔を浮かべている。

本心ではジルにずっとシャルルメルトにいてほしいのだろう。

ジルはリュシエルの顔をジッと見る。


「な、何ですか?」


「やっと引きこもりから人並みの生活を送れる様になったのだ。スキルに苦しめられた分、たまには我儘を言っても罰は当たらんのではないか?」


 移住は難しいがリュシエルが望む事をある程度叶えるくらいは何でも無い。


「そうですよお嬢様、この機会にジル様に何か頼み事があればしてしまいましょう。」


 アンレローゼとしてはリュシエルにもっと思い出を作らせてあげたいのだろう。


「遠慮が無いなアンレローゼよ。」


「お嬢様が我儘を言ったところなんて見た事がありません。それくらい受け止められる器量がジル様にはおありでしょう?」


「内容によるとしか言えんな。」


 リュシエルの頼み事なら可能な限り叶えてやりたいがあまりにも大きな事を言われても困る。


「私がジルに頼み事…。」


 リュシエルは真剣な表情で暫く考え込む。

何を頼むのか考えているのでは無く、多過ぎて悩んでいると言う方が正しい。


「何も無ければ無理をしなくてもいいぞ。」


「あ、あります!本当は私の護衛として公爵家で雇われてほしいのですけど、それが難しいのは分かっています。なので別のお願いを聞いて頂けませんか?」


「言ってみろ。」


 自由で思うがままに生活出来る今を手放したくは無いので雇われるのは無理だが、リュシエルもそれは理解してくれている。


「魔法道具が完成したら、ジルの魔法を込めてもらいたいのです。」


「ダナンが作っている大結晶石を使った魔法道具にか?」


「はい。」


 魔法が込められた魔法道具は、事前に魔法を覚えさせる必要がある。

その作業をジルにしてもらいたいと言う。


「ジル様の魔法が込められた魔法道具ですか。お嬢様の心強いお守りになってくれそうですね。」


「ふむ、氷結魔法か。」


 氷の大結晶石を使った魔法道具なのだから、氷結魔法と相性が良いのは当然だ。

そしてジル程の氷結魔法の適性を持つ者は他にいない。


「駄目でしょうか?」


 リュシエルが不安そうに尋ねる。

ジルとの思い出の品となる物をリュシエルは作りたい。


「それくらい叶えてやろう。スキルを狙う悪党共はまだいるだろうし、アンレローゼが言う様にお守りになるといいな。」


「はい!」


 ジルの言葉を聞いて満面の笑みを浮かべている。

一生の宝物となりそうだ。


「ならば我もダナンのところに少し行ってくる。魔法道具の造形に付いて話し合ってくるとしよう。」


「楽しみにしていますね!」


 ジルは公爵家を後にしてダナンが借りていると前に聞いた工房へとやってきた。


「ダナン、やってるか?」


「今から作るところだ。何か用か?」


 取り掛かる直前だったので丁度良い。

先程の会話をダナンに聞かせる。


「成る程、リュシエル嬢のお守りか。随分と気に入られている様だな。」


 色々と思い悩んでいたリュシエルが勇気を出したのだろうとダナンは心の中でうんうんと頷いておく。


「Sランク冒険者を倒す程の魔法だからな。今後を考えて護身用に欲しいのだろう。」


 フラムの火力を圧倒する威力には皆が驚かされていた。

それだけの氷結魔法であればお守りとしては充分だ。


「理由は他にもありそうだが用件は分かった。それで何か作製に関しての希望でもあって来たのか?」


 造形に関してなら事前にある程度の希望は聞ける。


「身に付けやすい指輪の形の魔法道具を作製してもらいたい。分かっているとは思うが高位の魔法が込められる様に器として優秀な魔法道具に仕上げてくれよ?」


 強力な魔法を込められるかは魔法道具である器次第だ。

素材も重要だが作り手の技量も多いに関わってくる。


「誰に言っている。これ程の鉱石を使って作る魔法道具だぞ?魔法発動型の魔法道具の中でも最高クラスのを作ってやる。」


「期待しているぞ。」


 ダナンにアクセサリー作りを任せてジルは工房を後にした。

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