69章
元魔王様と記憶喪失の天使族 1
鉱山から帰還した後、リュシエルとダナンは早速大結晶石の交渉へと向かった。
結晶石以上に貴重な大結晶石を三個も掘り当てたので相当な成果であった。
ジルは一息付く為にティータイム中だ。
「唐突ではありますが、ジル様達がシャルルメルトを訪れた目的は達成されたのですか?」
お菓子や紅茶のお代わりを準備しながらアンレローゼが尋ねてくる。
「そうだな、結晶石はかなりの数を確保出来た。大結晶石がまだ欲しいとダナンが言えば滞在期間は伸びるかもしれんがな。」
今回は依頼主であるダナンの護衛でシャルルメルトに来ている。
ダナンが納得すれば帰る事になるだろう。
「ではお帰りになる日も近いのですね。」
「寂しくなったか?」
「ジル様が来てからお世話係を任されていますが、刺激的な毎日が続いていますからね。寂しくもなります。ですが私以上にお嬢様の方が…。」
「はいそこまでです!アンレローゼ、貴方は一体何を口走ろうとしているのですか!」
扉が勢い良く開かれて、大きな声を出してアンレローゼの台詞に被せながら入ってくるリュシエル。
それ以上言わせる訳にはいかない。
「あらあらお嬢様、お早いお戻りですね。」
「全く、安心して席も外せません。」
リュシエルが溜め息を吐きながらソファーに腰掛ける。
「それでアンレローゼ、何を言い掛けていたんだ?」
「それはですね…。」
「聞かないで下さい!そして言わなくていいです!この話しは終わりです!」
まだ話しを続けようとする二人の会話を手をパタパタ振って終わらせる。
そうしている間に遅れてダナンも戻ってきた。
「こほん、交渉が終了しました。」
一つ咳払いをして話題を変える。
「無事に手に入ったか?」
「まあ、二つは確保出来たから、わしとしては問題無い。」
大結晶石の方は事前情報が無かったので確保出来ただけでも良かった。
「二つ?もう一つはどうしたんだ?」
「私が買い取りました。」
そう言って小さく手を上げているのはリュシエルである。
「お嬢が?」
「はい、私が交渉に加わった理由が大結晶石の為でしたから。」
「欲しかったのか?」
そんな素振りは見えなかったのだが、急に交渉に加わると言ったところを見ると、ずっと大結晶石を狙っていたのかもしれない。
「そうですね、とても欲しくなりました。一つ確保出来て良かったです。」
「残りの資金的に、わしは二つ買えるかどうかだったからな。」
大結晶石は結晶石よりも更に価値が高い。
三つも買えるだけのお金は残っていなかった。
「ダナンは欲しい大結晶石は手に入れられたのか?」
結晶石と言うのは属性がある。
どの結晶石を用いたかで出来上がった武具の属性も変わってくる。
ホッコの龍聖剣の時の様に作りたい性能にあった結晶石が必要なのだ。
「わしは属性に特に拘りは無い。逆にリュシエル嬢は氷の大結晶石を是非譲ってくれと引かなくてな。一先ず自分の大結晶石を確保出来るならと応じたのだ。」
「ほう、氷の大結晶石か。」
「な、何ですか?」
ジルの呟きに対してリュシエルが少し動揺している。
「お嬢が何故氷の大結晶石を選んだのかと思ってな。」
「それは当然ジル様が…。」
「だから余計な事は言わなくていいのです!アンレローゼ、貴方は黙っていなさい!」
また余計な事を言いそうになったアンレローゼを黙らせる様に、リュシエルが立ち上がって指を突き付ける。
頬を少し膨らませて赤くしている。
「成る程、分かったぞ。我の氷結魔法を見てその素晴らしさに触れたくなったか。分かるぞ、我の氷結魔法は美しく強いからな。」
「そうなんです!素晴らしい魔法でした!」
本心は違うがジルの言葉に大きく頷いて同意する。
それを見たアンレローゼがやれやれと軽く首を振っていたが、リュシエルに軽く睨まれて背筋を伸ばしていた。
「それで大結晶石で何を作るつもりなんだ?」
「魔法発動型の魔法道具のアクセサリーです。大結晶石ともなれば相当な魔法が込められる筈ですから。」
「確かにな。」
希少で価値の高い鉱石を使えば魔法道具の性能も高まる。
魔力を流すだけで適性の無い魔法を使える様になる魔法道具は数多く存在するが、初級魔法や中級魔法が大半を占める。
大結晶石ならば上級魔法以上は確実だろう。
後は作り手の腕の見せどころだ。
「誰に依頼するかは決めているのか?もしまだならわしが受けてもいいぞリュシエル嬢。」
「え!?宜しいのですか!?」
予想外のところから声が掛かって驚いている。
魔法武具や魔法道具作製においてダナンの名は有名だ。
そんなダナンから自分が引き受けてもいいなんて言われる者は幸運だろう。
「わしも大結晶石を扱った物が作れるからな。珍しい鉱石を沢山触れる良い機会だ。」
口にしたのも本心であるが、リュシエルが氷の大結晶石を欲した理由も何となく想像出来た。
ならば公爵家で世話になった分、これくらいは恩返ししておこうと言うダナンなりの優しさであった。
「それでは是非お願いします!」
腕の良い職人をこれから探そうと思っていたので丁度良かった。
ダナン以上の職人はシャルルメルトにはいないだろう。
「お嬢、良かったではないか。ダナンに引き受けてもらうのは難しいからな。」
自分が気に入らなければ王族からの依頼であっても断ると聞いた。
気まぐれかは分からないが運が良い。
「はい、楽しみです!」
「最高の一品を作ろう。」
ダナンが自信満々に頷いてそう言った。
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