元魔王様と結晶石泥棒 7
ジル達はダナン達にそのまま採掘させておいて魔族が来るであろう方向に敢えて進んでいく。
断絶結界で周囲を覆ってきたので魔物が来ても大丈夫だろう。
「ジル、魔族はまだですか?」
「そろそろ見えてくるだろう。だから肩の力を抜け。」
「す、すみません。魔族と会うのは初めての事なので。」
ジルが側にいても緊張はしてしまう。
余計な力を抜く様にリュシエルが深呼吸する。
「敵対的かどうかもまだ分からんぞ。魔族の中にも話しの出来る者はいるからな。」
「そうですね。人族と敵対している種族ですが、全てが悪だとは私も思っていません。それでも今までの歴史を考えると良好な関係を築ける者は少ないと思っています。」
「まあ、それは出会ってみれば分かる事だ。」
相手の魔族の出方次第でこちらの対応も変わる。
元魔王時代の配下であれば簡単に話しが付きそうだが、今の魔王の配下ならそうはいかないだろう。
「来たっ!」
遠くに魔族が見えて思わずリュシエルがジルの背中に少し隠れる。
「あで?人族だっただ。」
青い肌とお腹に巨大な口を持つ太った魔族がジル達を見て首を傾げている。
向こうはこちらを魔物とでも思って近付いてきた様だ。
「魔族よ、ここに何の用だ。ここは人族の領地だぞ?」
「なんだ?おらに文句でもあるだか?」
「何故ここにいるのか要件を知りたいだけだ。」
「結晶石を取りにきただ。戦争で必要になるでな。」
魔族の目的は結晶石であった。
武具に用いるのに適している鉱石なので、戦争となれば大量に必要となるだろう。
「採掘許可は貰ってるのか?」
「なんだそれ?」
「他領の資源を勝手に持ち去られてはシャルルメルトの不利益となる。その為の約束事の様なものだ。」
シャルルメルトの領主である公爵に採掘の許可をもらって採掘した鉱石は一度売却する。
そして欲しい鉱石は改めて購入すると言う流れがある。
「そんなの魔族のおらには関係無いだ。欲しい物は奪うだけだで。」
どうやら人族の決まり事に従うつもりも無く、結晶石を返すつもりも無いらしい。
「素直に採掘した分を置いていくなら見逃してやってもいいんだがな。」
「人族がおらを見逃す?ぶははは、面白い冗談だ。」
ジルの言葉を聞いて上の口とお腹にある口を大きく開きながら笑っている。
「丁度鉱石集めで腹が減ってただ。人族でも喰って飢えを満たしてやるだよ。男とスライムは不味そうだが、そっちの女達は美味そうだな。」
リュシエルとアンレローゼを見ながら二つの口で舌舐めずりをしている。
捕食者の視線にリュシエルは怯えてジルの背中に隠れ、アンレローゼは不快感を露わにしている。
「交渉決裂だな。それにお嬢を狙うなら確実に始末してやろう。」
「人族がおらを始末なんて出来る訳無いだ。魔王軍五大将軍が一人、悪食のベゼルグル様を。」
ジルを見下しながらニヤリと笑う。
自分が人族に負けるなんて微塵も思っていない。
「将軍!?何故そんな大物が!?」
「肩書きは大層な事だが知らん名だな。アクアランス!」
ジルが早速とばかりに巨大な水の槍を生み出して容赦無くベゼルグルに向かって放つ。
大きな身体に直撃するかと思ったが、ジルの放った水の槍はベゼルグルの腹で大きく開いている口に吸い込まれた。
そして味わう様に口が水の槍を咀嚼している。
「ぶはぁー、お前の魔法美味かっただよ。」
腹の口がゲップしている。
ジルの魔法が食べられてしまった。
「相手の魔法を喰らうか。面白い力を有しているな。」
「もっと喰ってやるだよ。幾らでも打ってくるといいだ。」
「ライム、やってやれ。」
ジルの指示で今度はライムがスキルで壁から岩を削り取り、槍の形にしてベゼルグルに放った。
魔法で生み出した訳では無い実物の岩の槍だ。
「魔法が無理なら物理だか?でも無駄な事だな。」
ジルの放った水の槍同様にベゼルグルの口に飲み込まれる。
バキバキと岩を砕いて咀嚼している。
「抜刀術・断界!」
「無駄な努力だで。」
ジルが銀月を魔装して放った斬撃すらもベゼルグルの口が食べてしまった。
本来ならその身体を真っ二つにする様な威力なのだが、普通の口では無いと言う事だろう。
万能鑑定でどう言った力なのか視てみたが、残念ながらベゼルグルの情報は何も得られなかった。
鑑定を妨害する魔法道具でも身に付けているのだろう。
「魔法も物体も魔力も全部おらが喰らってやるだ。おらは最強だでな。そんで羽虫共も全部喰ってやるだ。」
ベゼルグルの言う羽虫とは天使族の事だ。
大口を叩くだけの事はある様だ。
「中々やるではないか。まさか攻撃が全て喰われるとはな。」
「ぶははは、今更後悔しても遅いだよ。お前らを喰らったら後ろにいる奴らも全部喰らってやるだ。その後で結晶石だって全部頂いていくだで。」
邪魔なジル達がいなくなってからゆっくりと結晶石を探せばいい。
食事も目的も達せられてベゼルグルは大満足で帰れる。
「じ、ジル。」
「心配するな。この程度の魔族に我が負ける筈が無いだろう?」
不安そうに見上げてくるリュシエルの頭に手を置いて安心させる様に撫でてやる。
「そうですね、頑張って下さい。」
「ああ、安心して見ているがいい。」
リュシエルはアンレローゼと共に少し後ろに下がる。
ジルとライムの邪魔にならない為だ。
「格好付けても駄目だで。どうせお前もおらに喰われるだ。」
「我を喰える者なんて中々いないぞ。まあ、はっきり言えるのは、お前程度では確実に無理だと言う事だな。」
「その言葉、後悔させてやるだ。」
ベゼルグルが舌舐めずりしながら獲物を狙う目をジル達に向けてきた。
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