元魔王様と結晶石泥棒 8
ジルとライムの攻撃がベゼルグルの腹にある大口で全て喰われていく。
挟み撃ちにしたり、全方位同時攻撃なんてのも試したが不思議な事に全てベゼルグルの口の中に吸収されていった。
「何度やっても無駄な事だで。喰った分だけおらの力さ変わるでな。」
「それにも限界があるのではないか?腹がかなり膨れているぞ?」
最初から太っていたが今はその腹が更にまん丸と膨れ上がっている。
「確かに喰い過ぎただ。でもその分魔力を消費している筈だべ。」
「我らの魔力切れに期待しているのか?」
「その瞬間に攻撃して殺してやるだよ。」
どうやらベゼルグルの戦い方は相手の魔力切れ待ちの様だ。
どんな攻撃でも食べてしまえる力を持っているが故だろう。
「だそうだぞライム。魔力は無くなりそうか?」
ジルの言葉に答える代わりにベゼルグルに攻撃を放つ。
まだまだ魔力は問題無い様だ。
「見ての通りまだまだ余力はあるぞ。ライムも随分と魔力量が増えたものだ。」
ライム同様ジルの魔力もまだ残っている。
転生前と比べると相当魔力量は減少しているが、それでもかなり多い方なので簡単には無くならない。
「強がりだべ。脆弱な人族と雑魚スライムがあれだけ攻撃しておいて魔力切れにならない訳無いだよ。」
平然としているジル達に少しだけベゼルグルが焦った様に言ってくる。
「お前の尺度で測るな。我は元々魔力量が多い方だ。それにライムは特殊個体だからな。」
「どっちもたかが知れてるだ。」
「ならば全て喰ってみせろ!」
まだ魔力が残っている事を証明する様にジルとライムが攻撃を再開する。
当然先に限界が来たのはベゼルグルの方だ。
数分も撃ち込んでやると吸収されない攻撃が出始めてきた。
「そろそろ限界の様だな。喰い切れずに身体に傷を受けているぞ。」
「うぐぐ、反撃さえ出来れば!」
二人の苛烈な攻撃に近付く事も出来無い。
「抜刀術・断界!」
攻撃が殆ど吸収されなくなってきたタイミングを見計らって、ジルが魔装した銀月で居合いを放つ。
最初に放った時は口の中に吸収されたが、今度は魔力の斬撃が腹の口を斬り裂いて大量の血を流させる。
「ぐああ!?いでえだあ!?」
身体を分断するには至らなかったがベゼルグルがその痛みに蹲っている。
もう反撃も吸収も出来る状態では無い。
「これで詰みだな。」
「お、おらにこんな事してただじゃ済まないだよ!」
ベゼルグルが蹲りながら涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で睨んでくる。
「ほう、誰かが復讐にでも来るのか?」
「当たり前だべ!おらは将軍だでよ!この通信機は魔国と繋がってるだ!」
そう言って懐から小型の機械を取り出す。
魔法道具の遠距離通信装置の様だ。
「どれどれ。」
「か、返すだよ!」
ジルが重力魔法を使用してベゼルグルの手から自分の下へと移動させる。
「聞こえるか?魔国の者よ。」
「…人族か。」
通信機から声が返ってくる。
高くも無く低くも無く性別が分かりにくい。
「ああ、邪魔だったんでこのデブは排除させてもらった。自分の復讐に来るとこいつは言うが、ここにやってくるのか?」
「…そのつもりは無い。」
「なっ!?おらを見捨てるだか!」
通信機から聞こえた言葉にベゼルグルが慌てた様に声を荒げる。
こんな状況で見捨てられれば自分は確実に殺されてしまう。
「…ベゼルグル、人族に負ける様ではこの先の戦いには付いてはこれまい。」
「ふざけるでねえ!結晶石はどうなるだ!天使族との戦いに必要だと言うから集めてただよ!」
わざわざ人族の領地までやってきてずっと採掘していた。
このまま自分が殺されれば集めた結晶石が無駄になってしまう。
「…案ずるな、お前が持っていた収納道具は対となる物が存在する。…収納した物の取り出しは魔国でも出来るのだ。…結晶石は有り難く使わせてもらう。」
「なっ!?」
慌てて懐から小さな鞄を取り出す。
おそらくそれが収納道具なのだろう。
ひっくり返して中身を取り出そうとしても石ころ一つ落ちてこない。
「つまりこいつは見捨てられたと言う事か。」
「…そう言う事になる。だが人族よ、お前には興味が湧いた。」
「うっ!?」
通信機からそう声が聞こえた瞬間、ベゼルグルの身体がボコボコと内側から膨らみ出した。
「これは!?」
「お嬢、そこを動くなよ。」
何が起きても守れる様に後ろで待機させておく。
しかし何か攻撃がくる訳でも無く、膨らんだベゼルグルの身体は徐々に縮んでいき、仮面を被った魔族の姿へと変わった。
「…ふぅ、初めましてだな。」
「通信機の相手か?」
仮面の魔族から聞こえた声は通信機の声と同じだった。
「…仮初の姿だがな。…ベゼルグルを贄として身体を再構築して思念を飛ばしている。」
「ほう、珍しい事をするのだな。」
ライムの使う分裂の分身の様なものだろう。
本体には大きく能力で劣るが本物そっくりの姿形に出来たりする。
「…成る程、ジルか。…覚えておこう。」
「鑑定系のスキルか何かか?マニエッテ。」
スキルか魔法道具で視られた様なのでお返しに万能鑑定を使用しておく。
この魔族の名前はマニエッテと言うらしい。
「…本当に面白い人族だ。…今は忙しいから相手をするつもりは無いが、いずれ会える事を楽しみにしている。…と言ってもこれを生き延びていたらの話しだがな。」
マニエッテの分身体が身体からプシューと言う音を出しながら紫色の煙を出して萎み始める。
「毒の煙か。鉱山の中では止めてほしいものだ。」
「呑気な事を言っている場合ですか!早く何とかして下さい!鉱山が使い物にならなくなってしまいます!」
「分かっている、慌てるな。」
ジルは結界魔法を使って毒煙を閉じ込める様に結界を展開する。
それを圧縮させて掌サイズにした結界の中は濃密な毒煙で一杯だ。
「ライム、食えるか?」
ジルの言葉に任せろと言った様子でプルプルと揺れているのでライムに渡す。
ライムに結界が覆われたのを確認してから解除すると毒煙を食べ始めた。
既に毒の耐性を得ていたライムは美味しく毒煙を頂いた。
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