元魔王様と結晶石泥棒 5

 覚悟していた衝撃がやって来ず、代わりに弾力性のある物が自分を受け止めてくれて男性が不思議そうにしている。


「助かったのか?」


「助けてやったのだ、うちの従魔がな。」


「そ、そうだったのか。感謝します。」


 男がライムに向かって頭を下げる。


「ミナトー、大丈夫ー!?」


 上から焦った様な声が掛けられる。

仲間が落下してしまい怪我をしたかもしれないので焦るのも当然だ。


「ああ、冒険者が助けてくれたー。」


「じゃあ私達も降りていいー?」


「え?あ、あの俺の連れもこれを使ってもいいですか?」


 ミナトと呼ばれた男がライムが作った糸の網を指差しながら尋ねてくる。


「構わん、利用したければ勝手にしろ。」


「ありがとうございます!崖沿いなら飛び降りてもいいぞー!」


 ミナトが上に向かって言った直後、二人の者が糸網の上に落ちてきた。


「おおお、糸が受け止めてくれた。」


「これ程頑丈な糸は初めて見る。スキルだろうか?」


「そんな事どうでもいいじゃん。貴方達だよね、ミナトを助けてくれてありがとう。」


 新たに落ちてきた女性の方がジル達に頭を下げる。

ライムが助けなければミナトはどうなっていたか分からない。


「感謝する。危うくパーティーリーダーが落下死などと言う無様な人生の終わりを迎えるところだった。」


 女性と一緒に降りてきた男性も深々と頭を下げてくる。


「無様は余計だ。でも本当に助かりました。」


「ご無事で何よりです。」


「ん?貴族?」


 リュシエルの丁寧な話し方や佇まいからジルの様な冒険者では無いと気付いた様だ。


「っ!?リュシエル公爵令嬢!?」


「この人が!?」


「魔誘のスキル持ち…。」


 シャルルメルトの公爵令嬢であるリュシエルだと気付いて三人が少し後ずさる。

スキルの事も知っている様だ。


「あっ。」


 三人の反応に少しだけ悲しそうな表情をするリュシエル。

最近は屋敷にいたのとジル達とばかり行動していたので久しぶりにこう言った反応をされた。


「お嬢様、気にする必要はありません。」


「アンレローゼ、ありがとうございます。」


 悲しむ主人を励ます様にアンレローゼが言う。

優しいメイドの言葉に気持ちが少し楽になった様だ。


「助けてやったのに失礼な奴らだな。」


「じ、ジル、いいのです。」


 一切不快そうな態度を隠そうともしないジルの言葉にリュシエルが慌てている。

自分のスキルは怖がられる存在なのだとリュシエルは理解している。


「何故だ?我は今公爵に雇われているのだぞ?雇い主の娘が失礼な態度を取られたのならば文句も言いたくなるだろう?」


「も、申し訳ありません。失礼な態度はお詫びします。」


「御免なさい、突然で驚いてしまって。」


「謝罪させてほしい。」


 ジルの言葉に自分達がしてしまった失礼な行動を三人が反省する。

リュシエルに向かって深々と頭を下げている。


「い、いえ。慣れていますから気にしないで下さい。」


「これに慣れていると言うのも悲しい話しだな。」


「お嬢様、お可哀想に。」


「あーもう、二人がそう言ってしまうと罪悪感を与えてしまいますから黙っていて下さい。本当に気にしていませんから。」


 二人の言葉で更にミナト達の表情が申し訳無さそうになっていく。

リュシエルが気にしないでほしいと説得する事で、ようやく頭が上がる。


「ふ、不敬罪とかにもならないですか?」


 リュシエルが危険なスキルを所持しているからと言っても貴族に対する態度では無かった。

不敬罪を言い渡されてもおかしく無い。


「こんな事で不敬罪にしていたら一体どれだけの方を罪に問わなければいけないか分かりません。そんな事よりも皆さんは結晶石を目当てに?」


 話題を切り替える様に別の話しを振る。

このままではずっと申し訳無い気持ちにさせてしまう。


「は、はい。出稼ぎでシャルルメルトまで。」


 三人は遠くの村出身の冒険者らしい。

そんなに裕福でも無い村なので結晶石が取れるシャルルメルトの鉱山で村の者達の為に一稼ぎしようとやってきたらしい。


「そうですか。採掘が捗ればシャルルメルトの財政も潤いますから助かります。採掘は順調ですか?」


「いやー、それが…。」


「採掘の才能は無くて全然なんです。」


「浅い場所は掘り尽くされていて無かった。結晶石を求めて深層を目指してきたが魔物も強くて苦戦中だ。」


 どうやら成果はあまり良くないらしい。

中々結晶石も見つけられないので多少の危険は承知で渓谷までやってきたと言う。


「ちなみに皆さんのランクはおいくつなのですか?」


「僕達はCランクのパーティーです。」


「Cだと?お前達ではここは危険ではないか?」


 魔物の強さや数を考えると厳しいと感じる。

ジルやライムがいるからこそ、リュシエル達がいても安全に採掘出来ているのだ。


「鉱山をあまく見ていると直ぐに命を落とすぞ。わしは今までに何人もそう言う者を見てきた。」


「やっぱりそうですか?」


「命を失ってからでは遅いからな。大人しく安全な浅い場所で掘るか、別の依頼にした方がいいぞ。」


 と言ってもシャルルメルトのギルドで出されている依頼は今は鉱山関係が殆どだ。

街の周辺には魔物も殆どいないので冒険者が稼ごうとすれば自然と鉱山に向かう必要がある。


「ですが結晶石は一攫千金のチャンスなんです。村の皆の為にも僕達が稼がないと。」


「ジル、私達に同行してもらうと言うのはどうですか?」


 ミナトの様子を見てリュシエルがこっそりと相談してくる。


「何を考えている?」


「この子達にも稼がせてあげたいのです。私達だけで独占しなくともよいでしょう?それに同行してもらえば私が恐ろしいだけの存在で無いと分かってもらう機会にもなります。」


 魔誘のスキルで怖がられる事が多いが、一緒に行動すればリュシエルと言う人自体は害が無いと直ぐに分かってもらえる筈だ。


「ふむ、そう言う事か。まあ、お嬢がやりたい様にするといい。」


「ふふっ、ありがとうございます。」


 リュシエルはミナト達を採掘パーティーに加える事にした。

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