元魔王様とリュシエルに迫る魔の手 4

 シャルルメルト公爵家の屋敷の割り振られた部屋の中で深夜にジルとシキが集まって話し合っていた。


「と言う事があったのだ。」


 先程聞いてきた話しをシキに説明する。


「とっても重要な情報なのは分かったのです。でも何でジル様がブリオルを見つけられたのです?」


「午後の訓練が無くなっただろう?だから我は暇潰しに街を見に出掛けた。」


 リュシエルが今日は休みたいと言うので急遽暇になったジルは観光に出ていた。


「それはシキも知っているのです。」


「その時に態度のでかい酔っ払いを見つけてな。横暴な態度も目立ったから貴族だろうと思って、面倒事に巻き込まれない内に離れようと思っていたんだ。そうしたらわしはブリオル様だぞって大声で怒鳴る声が聞こえてな。」


「まさかの自分で名乗っていたのです。」


 ジルがブリオルを見つけたのは本当に偶然だった。

そしてその直前にリュシエル達の会話で聞いた名前が出てきたので一旦離れるのは止めて後を付けてみたのだ。


「直近でブリオルと言う名前も聞いていたし、万能鑑定でも見たから間違い無いと分かってな。尾行して情報収集していたらそう言う話しをしていたのだ。」


 ブリオルの部屋の隣りでしっかりと盗み聞きをしていた。

泊まりもしないのに高い宿代を払って少し落ち込みつつ、何か重要な話しが聞けないかと思っていたら色々と話してくれた。


「よくバレなかったのです。」


「我には結界魔法があるからな。」


 様々な結界を駆使すれば他者から一切認識されなくなるのもお手のものだ。

と言っても結界魔法に高い適性を持つジルだからこそ出来る芸当である。


「さすがのフラムもジル様の結界魔法は看破出来無かったのです。」


「そのフラムと言うのは有名人か?」


「はいなのです。ブリオルが炎王とまで言っているから間違い無いのです。炎王フラムと言えば隣国の元Sランク冒険者なのです。」


「ほう、あの者はSランクだったのか。」


 人族にしてはかなり強そうだと感じていたがラブリートに並ぶ国家戦力クラスの実力者だったらしい。


「実力だけはかなり高くて同業者にも恐れられていたと前に聞いた事があるのです。」


 別の国の者であってもシキであれば一度見聞きすれば忘れる事は無い。

さすがは知識の精霊である。


「元冒険者と言う事は今は違うのか?」


「確か雇われればどんな事でもする違法傭兵をしていたと思うのです。冒険者としての依頼を受けるよりも犯罪依頼の方が稼げるから傭兵になったのです。」


 冒険者でそんな裏稼業をしていれば直ぐに同業者達に目を付けられて捕まり犯罪奴隷にされる。

個人の傭兵であれば足が付きにくいと言うのもある。

例え見つかったとしても元Sランクの実力者を捕らえるのは難しいだろう。


「それで今回はお嬢を狙うブリオルに雇われたと言う訳か。」


「普通なら大ピンチなのです。元Sランク冒険者が相手なんて勝ち目が無いのです。」


 人外の化け物と呼ばれるSランク帯の強者達。

爵位の高い公爵家が全戦力で迎え撃っても勝ち目は無いだろう。


「ラブリートと同じ国家戦力だしな。そのフラムとやらはどれくらい強いんだ?」


「火魔法に高い適性を持ち、炎に関連するスキルを持っていると聞いた事があるのです。火の扱いに関しては冒険者でもトップクラスの実力者だった筈なのです。」


「だから炎王か。」


 フラムは随分と火に愛されているらしい。

火魔法の適性が高いのであれば、その分火に対する耐性も高い。

ジルの火魔法もあまり効果が無いかもしれない。


「狙われればそこには死体すらも残らないと言われるくらいフラムの火力は凄まじいのです。でもシキは慌てたりしないのです。こっちにはジル様とライムが付いていて安全なのです。」


 Sランクと敵対するなんて冗談では無いが、それを大きく上回る戦力が味方だと思えば安心だ。

ジルが味方である以上、誰が相手でも怖くない。


「我ならSランク冒険者相手でも勝てるとシキは思っているんだな?」


「当然なのです。フラムに負けるなんて思っていないのです。だからシキは落ち着いていられるのです。」


「ちなみにこの話しは伝えるべきだと思うか?」


「うーん、悩みどころなのです。」


 シキが小さな腕を組んで悩まし気な表情を浮かべている。


「伝えても大パニックになるだけだと思うのです。それなら誰にも知らせずに事を運んで、ジル様がフラムを倒すと言うのが良さそうなのです。」


「ふむ、ならばそうするか。」


 公爵家に任せては多数の犠牲者が出そうだ。

世話になっていて知らない仲でも無いのでフラムの相手はジルがする事にした。


「フラムと戦うのは我かライムしかいないが、今回は我がやるとしよう。ライム、ピンチになったら助けてくれ。」


 任せてとでも言う様にプルプルと揺れている。

ライムも強くなってきたので後ろに控えてくれているだけで安心である。


「ジル様のピンチなんて想像が付かないのです。」


 明日は激しい戦いが予想されるのでジル達は早めに就寝した。

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