元魔王様と公爵令嬢 9
公爵家の屋敷の敷地内、そこでこの家の令嬢が剣を握ったまま地面に倒れていた。
「はぁはぁはぁはぁ。」
息を整えるのに必死で声が出せない。
それ程リュシエルは疲労困憊の様子である。
「まあ、こんなところか。」
「こんなところかじゃないのです!明らかにやり過ぎなのです!」
「そうか?」
ジルとしては軽くリュシエルの剣の腕を確かめる為に模擬戦を行っただけなのだが、シキにやり過ぎ認定されてしまった。
「さすがは実力派の冒険者だな。貴族相手でも容赦が無い。」
「ずっと屋敷にこもっていたリュシエルが少し心配ですが大丈夫でしょうか?」
こんな状態の娘を見るのは初めてだ。
親として心配にもなる。
「お嬢、水だ。」
「はぁはぁ…。んっ、…はぁ~。」
無限倉庫のスキルを使用して仕舞っていた水を渡してやる。
身体をなんとか起こしてカップを受け取ったリュシエルは冷えた水を一気に口に流し込む。
「大丈夫ですかお嬢様?」
「今からでもこの冒険者に天誅を。」
倒れているリュシエルの身体を支えている騎士達。
自分達の主人を酷い目に合わせたジルを睨んでいる。
「大丈夫です。いや、大丈夫ではないのですけれど頑張ります。」
剣を杖代わりにして立ち上がる。
既にジルとの模擬戦で足にきている様でプルプルと震えている。
「もう構えなくてもいいぞ。大体今の実力は知れたからな。」
「どう判断されたか聞いても?」
「駄目駄目だな。話しにならん。」
リュシエルに対して一切気を使う事も無くジルがはっきりと告げる。
それを聞いて騎士達が腰の得物に手を掛け、それを見たリュシエルが慌てている。
「お、落ち着いて下さい貴方達。ジル、あまり煽る様な事は言わないで下さい。」
「事実を言ったまでだ。それと妨害する様ならまた閉じ込めるぞ?」
リュシエルに仕える騎士達なので観戦を許可しているが邪魔をするなら話しは別だ。
だがジルの結界に閉じ込められるのは嫌なのか渋々引き下がってくれた。
「まあ、襲撃を恐れて引きこもっていた様だからな。現状の実力としてはこんなものだろう。」
話しにならないと言ったがずっと前に屋敷の部屋にこもっていたのだから仕方が無い事だ。
「私は強くなれますか?」
「それはお嬢次第だな。手助けはしてやるつもりだが。」
不安そうに尋ねてくるリュシエルだが、やってみるまで分からない。
しっかり訓練して鍛え上げるつもりだが、どこまで成長出来るかはリュシエル次第だ。
「私は一歩を踏み出しました。勇気を出したのですから立ち止まる時間は少しでも減らしたいです。」
「ならば次に進むか。と言ってもやるのは身体作りだな。」
「身体作りですか?」
「以前どれだけ動けていたのかは知らないが身体が鈍っている。ある程度の持久力や筋力、魔力の総量や操作技術が無ければ実戦なんてさせられん。」
模擬戦をしてみた感想は圧倒的な基礎不足だ。
まだ地盤が固まっていないので最初は地味な訓練ばかりになりそうだ。
「私を狙うのは強者ばかりですからね。基本を疎かにしている様では勝てませんか。」
リュシエルも体力不足は感じているのだろう。
強くなる為の訓練を受ける体力すら今は足りない。
「そう言う事だな。では走ってもらおうか。」
「走る?」
「屋敷の周りを走って持久力を確保する。先ずはそれからだ。直ぐに疲れていては教える効率が悪い。」
先ずはある程度の体力を付けさせる。
本格的な訓練はそれからだ。
「分かりました。」
「「お嬢様、お供します。」」
騎士達を引き連れてリュシエルが走り出す。
屋敷の周りなら何かあっても直ぐに駆け付けられる。
「普通は公爵令嬢に走れなんて言う冒険者はいないのです。」
「ここにいるではないか?」
「解雇されても不敬罪にされてもおかしくないのです。」
ジルに貴族の扱いを言っても今更ではある。
それにシキはジルが敬う側では無く敬われる側だと知っているので無理強いするつもりも無い。
「強くしてほしいと言ってきたのはお嬢と公爵家だからな。我はその希望に応えてやっているだけだぞ。」
訓練に関しては一任されている。
リュシエルを酷く扱う様な訓練でなければ、ある程度厳しい内容でも問題無い。
「いつも通り容赦無くて心配なのです。シキも付いて見てくるのです。」
「やれやれ、心配性な精霊だ。」
リュシエルの方に飛んでいくシキを見送る。
ナキナやルルネットに訓練をしてやった時もよく心配していた。
シキの心配性は魔王時代から変わらない。
「ジル殿、リュシエルはどうだろうか?」
公爵が少し緊張した様子で尋ねてくる。
自分達の娘の事なので本職の意見は気になるだろう。
「現状では何とも言えないな。一先ずは身体作りをさせてそこから様子を見る。言っておくが訓練方針への文句は受け付けないからな。」
「分かっている。リュシエルがせっかく前向きになっているのだからな。」
「お手柔らかにお願いしますね。元々戦闘訓練していた頃から時は経っていますから。」
「安心しろ、ポーションならば幾らでもある。」
そう言って両手に大量のポーションを出してみせる。
不味いので自分では飲まないが無限倉庫には大量のポーションが仕舞ってある。
怪我人が自分の周りにどれだけ現れても問題無い量があるので、リュシエルが怪我をしても直ぐに治してやれる。
「それを聞いて逆に不安になってきたぞ。」
「依頼する相手を間違えたのでしょうか?」
ジルの発言を聞いて二人は不安な気持ちを胸に必死に走るリュシエルを応援していた。
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