元魔王様と公爵令嬢 6
石化のスキルによって右足が膝下まで石化しているくらいで鋼糸は火魔法によって燃え尽きている。
「やはりジル様は強敵なのです。でもライムだって負けていないのです!ファイトなのですよ!」
主人であるシキの言葉に応える様に飛び跳ねてやる気をアピールしている。
「ほう、まだ向かってくるか。」
「ライム、中途半端な攻撃は通用しないのです。こうなったら必殺技をジル様にお見舞いしてやるのです!きっと死なないから大丈夫なのです。」
「何だか物騒な事を言っているが、まだ何かあるみたいだな。」
その必殺技を放つ為かライムが分身を身体に戻す。
少しでも魔力を攻撃に回す為だろう。
「やってやるのです!」
シキの合図でライムが空中に巨大な岩を生成する。
そしてその岩は見る見る削られて形を変えていき、巨大な岩の槍へと姿を変える。
そして空中に浮いた巨大な岩の槍は回転し始め、強力な風を噴出させながらとんでもない速度で突き進む。
「スキルの合わせ技か、叩き斬ってやろう。抜刀術・断界!」
鞘に納めた銀月を漏れ出すくらいの膨大な魔力で覆って居合いを放つ。
ライムの必殺技に対抗してジルも全力の一撃だ。
魔力の斬撃が目の前に突き進んできた岩の槍を真っ二つに斬り裂いて、その後ろにいたライムの身体に直撃する。
「あ。」
相殺くらいのつもりで放った一撃だったのだが、ジルの攻撃の方が強力であった。
「ら、ライムー!?」
地面にはジルの攻撃によって真っ二つにされているライムがいた。
何かしらの防御系のスキルを使ったのか、斬撃はライムで食い止められたが身体は耐えられなかった様だ。
「じじじジル様、ライムがライムが!?」
従魔の見るも無惨な姿にシキが半泣きだ。
「落ち着けシキ。我も少し驚いたがライムはまだ生きている。」
「ふえっ?」
生きていると言う言葉を聞いてシキが変な声を出す。
その言葉を肯定する様にライムの身体が徐々に元に戻っていく。
そして無事をアピールする様にシキに擦り寄っている。
「あれを受けて生きているとは本当に規格外な存在になっている様だな。」
「ライムー!」
シキが全身でライムに抱き付く。
それを優しく受け止めてプルプルと揺れている。
「良かったのです!死んじゃったかと思ったのです!」
「悪かったな、さすがにあれは手加減出来ん。」
ジルも全力の一撃で迎え撃たなければいけない程の攻撃だった。
正に必殺技と言える一撃である。
「ライムは気にしていないみたいなのです。そもそもシキがあの攻撃を放つ様に指示したのが悪いのです。」
「それにしても強力な攻撃だったな。」
「敵を貫く形状、回転させて貫通力を高め、風で推進力を極限まで上げるライムの必殺技なのです。一緒に考えて作ったのです。」
誰を倒そうと思って考えたのかは分からないが、Sランクの魔物でも倒せそうな威力であった。
ライムの見た目からは想像出来無い攻撃力である。
「その他も驚かされたぞ。あれ程強くなっていたとはな。」
ライムの成長を実感出来て大満足の模擬戦であった。
その内ジルよりも強くなっていくだろう。
「えーっと、ジル様の勝利で宜しいのでしょうか?」
「ん?ああ、模擬戦は終わりだ。」
「ライムの魔力もすっからかんなのです。」
先程の一撃に全ての魔力を込めたのだろう。
ジルもかなりの魔力を消費させられたので、これ以上戦う気にもなれない。
「素晴らしい戦いでしたね。まさかスライムがあれ程の力を持っているとは。」
「ジル殿の戦闘能力も凄まじいな。騎士では相手にならないと言うのも納得だ。」
公爵達にとっては終始驚かされる模擬戦だった。
これ程の激しい戦いは見た事が無かった。
「騒々しいですがこんな時間から何をしているのですか?敵襲かと勘違いを…。」
上の方から声が聞こえてくる。
声の主は窓からこちらを見下ろしている若くて美しい女性だ。
目的を忘れそうになっているかもしれないが模擬戦が目的では無く、公爵令嬢の気を引くのが目的である。
「あれがリュシエルか。」
「綺麗な人なのです。」
窓から顔を出していたリュシエルはこちらを見て固まっている。
主に屋敷の者では無いジル達を見て固まっていた。
「では公爵、依頼の件だが我の自由にやらせてもらう。口出しはしてくれるなよ?」
「リュシエルを無闇に傷付ける様な事は控えてくれよ?」
「あの子が抱える悩みや想いも気にしてあげて下さいね?」
「やれやれ面倒な注文だ。まあ、やれるだけやってみよう。」
公爵達の言葉も多少は気にするつもりだが、この機会を無にするつもりは無い。
多少強引でもリュシエルと会話を試みる。
「ふっ。」
ジルはその場から大きく飛び上がる。
目指すのはリュシエルが開けている窓だ。
「っ!?」
それを見たリュシエルが慌てて窓を閉めようとする。
しかしそれよりも早くジルの手が窓を掴んだ。
「おっと、せっかく会えたのにいきなり閉めなくてもいいではないか?」
閉められない様に窓に手を掛けながらジルが言う。
やっとリュシエルとご対面である。
「あ、貴方がお父様達が言っていた客人ですか?」
少し緊張した声で尋ねてくる。
信用していない者と関わるのは慣れていないのだろう。
「セダンから手紙を届けにな。今はこの屋敷で世話になっている。」
「そうですか。では客人らしくメイドに持て成されていて下さい。客人として出迎えられているからと言って、貴族の娘の部屋の窓枠に土足で上がり、乱暴な言葉使いをするなんて不敬罪と言われてもおかしくはないのですよ?」
強気な態度でリュシエルが言ってくる。
早くこの場から立ち去ってほしいので立場の違いを持ち出してきた。
貴族にこう言われれば大抵の平民は大人しく従うだろう。
しかし今回は例外である。
「ふむ、不敬罪か。」
「されたくはないでしょう?ならば早くここから出て…。」
「断る。そんな言葉で我を自由に動かせるとは思わない事だな。不敬罪でも何でもやってみるといい。」
リュシエルに向かって堂々とジルがそう宣言した。
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