元魔王様と公爵令嬢 5

 リュシエルの部屋の窓からも見える様に屋敷の敷地内にある広い場所へとジル達は移動する。

何をするのか興味がある様で公爵達も一緒に付いてきた。


「公爵、少し敷地を荒らすが必要な事だと思って許してもらいたい。」


「一体何をしようとしているのだ?」


「これから模擬戦を行う。派手に戦闘音を響かせていればリュシエルも気になるのではないかと思ってな。」


「成る程、それで音で釣るですか。」


 ジルが銀月を抜きながらライムと向かい合う。

ライムとの激しい模擬戦による音でリュシエルの気を引く作戦だ。


「そう言う事なら構わないが相手はそのスライムなのか?」


 準備運動する様にその場でポヨンポヨンと飛び跳ねているライムを見て公爵が尋ねてくる。

スライムと模擬戦をしても派手な戦闘音を継続して出すなんて普通なら出来無いと思うだろう。


「ご希望であれば騎士を何名か貸し出せますが?」


「いや、我とまともに戦えるのはライムくらいだろう。その実力を見てみたいとも思っていたしな。」


 トアシエルの提案を断る。

ジルの相手をするとなれば一体どれだけの騎士が必要になるか分からない。

それにこの機会に強くなったと言うライムの実力をジル自らが相手をして見ておきたい。


「ジル様とライムの戦いなのです!これは見逃せないのです!」


 シキが興奮しながら目を輝かせている。

最強の主人と自慢の従魔の対戦だ。

しっかりと目に焼き付けておきたい。


「スライムがそれ程強いのか?にわかには信じられないな。」


 ジル達の言う事なので信じたいが、ライムはどこにでもいる普通のスライムにしか見えない。

特別な強さを持っているとは思えない。


「ライムは普通のスライムに見えて上位種なのです。野良スライムと一緒にされては困るのです。」


 異世界通販のスキルで購入したこの世界には存在しないスライムなのだが、それは上位種と言う便利な言葉で誤魔化しておく。


「ではライムよ、我と少し踊ろうではないか。」


 ジルの言葉に了承する様にプルプルと揺れている。


「審判は私アンレローゼが担当させて頂きます。それでは模擬戦開始です!」


「ファイアアロー!」


 アンレローゼの開始の言葉と同時にジルが火魔法を使用する。

周囲に大量に現れた火の矢をライムに向けて放つ。

しかしライムに当たる寸前に突然霧散してしまい、火の矢が身体に触れる事は無かった。


「魔法が消えた!?」


「一体何をしたのですか!?」


 初級火魔法とは思えない威力にいきなり勝負が決まったと公爵達は思ったが、平然と揺れているライムからはまだまだ余裕が感じられる。


「ふむ、初級魔法程度では届きもしないか。」


 何かしらのスキルで対処したと思われるので、これ以上同じ様な攻撃をしても無駄だろう。


「フレイムエンチャント!」


 遠距離攻撃から近距離攻撃へと切り替える事にした。

銀月を火魔法で強化してライムとの距離を詰める。

するとライムがその場で複数の身体へと分かれた。


「分裂からの展開、我を取り囲む気か。だが本体は分かっているぞ!」


 分裂したスライム達がジルの周りを取り囲むが、本体は分かっているので構わず突き進む。

だがそう簡単に本体へと触れさせてはくれない。

展開したスライム達がジルに向けて魔法を放ってきた。


「アクアランスにストームブラストか、ファイアウォール!」


四方八方から飛んでくる分身の魔法を火の壁を使って防ぐ。

ライムの魔法はジルの魔法に威力で勝る事が出来ず全て止められてしまうが、ジルが魔法を使用した隙を付いて火の壁を避けつつ、本体のライムが飛ばしてきた糸が身体に巻き付く。


「ちっ、複数のスキル持ちはやはり厄介だな。」


 身体を魔装して糸を引きちぎろうとするがかなりの強度だ。

その一瞬で更にライムはスキルを使用してくる。


「あれは糸か?しかし光沢があるぞ。」


「右足の先が石に変わっていってますよ!?あれは一体。」


「ぬおー!決まったのです!ライムの必勝拘束技なのです!」


 公爵達が困惑している中でシキが盛り上がっている。

あれは前にシキが考えてあげたスキルを組み合わせた必勝戦法なのだ。

鋼糸によって相手の動きを封じて逃げられない様にしてから、石化のスキルを使用して対象を更に追い詰める。


「やるな、だがこれくらいで我は終わらんぞ。イグニスピラー!」


 ジルは自分の足元に魔法を使用する。

足元に魔法陣が浮かび上がり、噴き出した炎がジルを包む。


「なっ!?」


「魔法で自滅!?」


 二人が驚いているが当然自分の攻撃でやられたりはしない。

適性が高いとその魔法に対する耐性も上がるので、上級火魔法くらいで倒れたりはしない。


「これくらいでジル様はやられたりしないのです。ライム、気を抜いたら駄目なのです。」


 ジルの実力をよく理解しているシキがライムに言う。

ライムもこれくらいで勝負が決まるとは思っておらず、本体も分身も油断無く構えている。


「超級火魔法、ヒートラジェーション!」


 火柱の中から赤い光線が無数に放たれる。

それらは的確にライムの本体と分身の身体を狙っている。

本体と幾つかの分身はスキルを使って相殺したり防いだりしたが、大半の分身は熱戦に身体を焼き貫かれて倒される。


「どうだライムよ、我の火魔法をまともに受けた気分は?」


 火柱が消えて現れたジルが殆ど無傷の状態でそう言った。

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