元魔王様と公爵令嬢 4
リュシエルの件を公爵から正式な指名依頼として引き受ける事になった。
シャルルメルトに滞在している間にリュシエルの実力を高める依頼だ。
「さて、どう手を付けたものか。」
「明らかに避けられているのです。」
同じ屋敷で過ごしてはいるが、基本的にリュシエルは自分の部屋から出てこない。
食事も部屋に運ばせている様なので接触する機会が限られる。
一応公爵の一声で屋敷の者達も協力的になってはくれている。
しかし年頃の令嬢のトイレや風呂のタイミングで接触するつもりなら止める様にと女騎士達から言われている。
故にリュシエルの姿すらまだ見る事が出来ていない。
「シキよ、何か良い策はないのか?」
「…扉を蹴破って中に侵入して連れ去ると言うのはどうなのです?」
「まるで犯罪者だな。」
真面目な表情で言うシキだがそんな強引な手段はとりたくない。
更にリュシエルの心が閉ざされてしまう。
「絶対におやめ下さい。娘が屋敷どころか部屋からも出なくなってしまいます。」
トアシエルが真剣な表情でジルに言う。
リュシエルを不安にさせる様な実力行使は論外だ。
「待ちに徹してもらうしか無いだろうな。ジル殿達には申し訳無いが。」
「別に気にする事は無いぞ。その間貴族の暮らしを堪能させてもらっているのだからな。」
公爵が謝罪してくるが暫くシャルルメルトに滞在するので問題は無い。
その間たっぷり貴族の生活を満喫出来ると言うものだ。
「こんなもので良ければ幾らでも堪能していってくれ。」
「責任が無い貴族暮らしは最高なのです。」
「全くだ。」
トレンフルでも同じ様に貴族の生活はさせてもらったが、あの時はお互いに何かと動いていた。
ゆっくり出来た期間はそれ程多く無かったのだ。
「ジル様達は随分と貴族の暮らしに慣れているご様子ですが、セダンの街ではいつもこんな暮らしを?」
そう尋ねてきたのは全員のお茶の世話をしてくれている屋敷の美人メイドであるアンレローゼだ。
まだ二十歳を過ぎたばかりと若いが、昔から公爵家に尽くしてくれている数少ない信用出来る人物らしい。
滞在中のジル達の世話係として公爵が付けてくれたのだ。
「たまにだけだな。トレンフルでは長い間こんな暮らしもしていたが。」
「港町トレンフルの事か?まさか傑物揃いと名高いトレンフル侯爵家とも繋がっていたとは。」
公爵が驚いた表情で言う。
トゥーリだけで無くそんな大物とまで知り合いとは思わなかったらしい。
「ん?侯爵家?」
「あれ?ジル様、もしかして知らなかったのです?」
「特に爵位に興味は無かったからな。」
トゥーリの時も偶然話しの流れで知った。
貴族の爵位に興味は無いのでトレンフル家の爵位に付いても知らなかった。
「そう言えばシキも聞かれてないから言っていなかったのです。」
うっかりしてたと記憶を遡って頷いている。
「ここまで貴族に興味の無い者も珍しいな。だからこそセダン伯爵やトレンフル侯爵家と良い関係を築けているのかもしれんが。」
「私達を相手にしても全く態度を変える事が無かったですからね。普通の冒険者とは思っていませんでしたが予想以上の大物の様です。」
貴族の爵位では最も高い公爵家であってもジルの態度は変わらなかった。
相手が誰であってもこの態度が変わる事は無い。
「我への印象は自由だが、そんな大物でも一人の令嬢の扱いに困っているのが現状だぞ?」
実力行使が封じられている状況ではリュシエルの方から話し掛けてもらったり部屋から出てきてもらうしかない。
「難しい問題ですね。あまりリュシエルに無理矢理迫られるのは困りますし。」
「かと言ってこのままではいつジル殿が接触出来るかも分からない。」
ジルとてシャルルメルトに滞在する時間は有限だ。
その時まで一度も会わない可能性だってあるので、何らかの行動は起こすべきだろう。
「何かリュシエルお嬢様の気を引く様な事があればいいのですけど。」
「ふむ、気を引くか。」
アンレローゼの呟きに少し思案する。
何でもいいからリュシエルがジルに話し掛ける状況を作ればいい。
「ちなみにリュシエルの部屋には防音の魔法道具などは付けられているのか?」
一つ思い付いた事がある。
それを実行するには防音系の物が邪魔だ。
「いや、いつ襲撃されるかも分からない状況で外の音を遮るのは愚策だ。いつでも自分で判断して逃げられる様にと聞こえやすいくらいだと思うぞ。」
自分のスキルを狙ってやってくる者達に一早く気付きたいリュシエルからすると防音は必要無い。
部屋の中にいても外の音がしっかりと聞こえるらしい。
「ならば音で釣ってみるか。少し敷地を荒らす事にはなるがそれくらいは許してくれよ?ライム、我に付き合ってくれ。」
ジルに突然指名されてライムは首を傾げる様にプルプルと左右に揺れていた。
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