元魔王様と公爵令嬢 2

 ギルドで結晶石を預けてから公爵家に戻ったジル達は公爵の所へと向かった。

そこでギルドに渡してきた結晶石の数を報告する。

売買に関しては公爵であるリュウセンも通すので予め伝えている。


「これで全部だな。」


「まさかこれだけの量を今日も集めるとは。」


 ジルに報告された通りに採掘された結晶石の数を書いた紙を見て驚きの声を上げる。

一日のジル達の成果だけで他の者達が持ってくる結晶石数日分はある。

それが連日続けば驚かずにはいられない。


「我らの分だけでギルドの倉庫がかなり圧迫されているらしいな。」


 一旦ジル達の採掘は今日までだが、このままでは近い内にギルドの倉庫が溢れる。

早い内に査定を終わらせてジル達と結晶石の売買をする必要がある。


「一体どれだけ採掘すれば気が済むのだ?」


「我は収納していただけで掘ったのはダナンだぞ。」


「取りこぼしが多いって先に潜った人達に文句を言っていたのです。」


 運搬を担当しただけで一切採掘に手は貸していない。

さすがは鉱石の採掘に優れているドワーフである。


「これだけの量を一人で。さすがはダナン殿だな。」


「だが短時間で持ち込み過ぎた様だ。査定や買い取り金額の算出に時間が掛かると言われた。」


「そうであろうな。そしてジル達は既に目的は達したのだろう?何か急ぎの用があれば結晶石と金だけを後で送る事も可能だがどうする?」


 金だけ預けていけば勝手に売買の計算をして全てセダンの街に送ってくれると言う。

公爵は信用出来るので盗む心配も無い。


「暫くシャルルメルトで過ごす事にしたからいつでも大丈夫だ。遠出して直ぐに戻るのも勿体無いからな。」


「そうか、何も無い場所だがのんびりしていってくれ。私はシャルルメルトを恐れない者が好きだからな。」


「またそれか。」


 公爵の言葉にジルが溜め息を吐く。

この街に来る前からシャルルメルトが絡むと誰もがこの手の話題を持ち出してくる。


「すまんな。リュシエルの前では責任を感じさせない為に言わない様にしているのだが、私達の悩みの種だからな。」


 公爵は愛想笑いを浮かべているがその件に関しては本当に困っているのだろう。


「スキルを封じる魔法道具はそれなりに頑丈だと記憶しているのです。そう簡単に壊される可能性があるとは思えないのです。あまり心配し過ぎなくてもいいのではないです?」


 公爵達が心配する気持ちも分かる。

だがそのせいで他の者達に迷惑を掛けているとリュシエルに思わせてしまえば更なる責任を感じさせてしまうかもしれない。


「確かに壊される事は殆ど無いだろうな。だが高ランク冒険者クラスになると分からない。」


 元々犯罪者に使う様な物なので耐久性の高い魔法道具ではあるが絶対では無い。

ジルの様な強者達からすれば破壊も可能だろう。


「一応言っておくが我はそんな事はしないぞ。面倒事になるだけで得になる事が無いからな。」


 リュシエルに頼らなくても街や国を攻め落とす事くらい出来るので手中に収める必要が無い。

ただ人族に転生した今は自由に過ごしたいだけなので面倒事になると分かっていてしたいとは思わない。


「疑ってはいない。何より我々が信用するセダン伯爵が信用している人物だからな。」


「ならばあまり心配しなくてもいいだろう。破壊出来る者もそれなりに限られると思うぞ。」


「そうだろうな。だからこそ別の心配は尽きないのだ。首輪が破壊されるのでは無く外される事をな。」


 公爵が最も心配しているのはこちらだ。

首輪を破壊出来る者は少ないが外す方法なら更に選択肢が多くなる。

実力者で無くてもそう言った事に特化しているスキル持ちで事足りるからだ。


「壊す事は難しくとも外す事だけなら難易度は大幅に下がる。我々もそうだが、何よりリュシエル自身がそれを一番恐れているのだ。だからあの子は心から信じられる者が数少ない。」


 何かの拍子に首輪を外されて感情を大きく揺さぶられてしまえば、スキルによってその土地に甚大な被害を及ぼしてしまう。

人を簡単に信じられないのも当然だ。


「何度も何度もあのスキルのせいで人の闇の部分に触れてきた。あの子を何としてでも凶悪な人間兵器として利用する為に手に入れようと接触された。貴族の知り合い、公爵家との交易相手の商人、シャルルメルトの領民、公爵家に潜り込んできた使用人、更には昔馴染みの友達までな。」


 リュシエルを手に入れる為に悪人達は凡ゆる手段を行使して接触してきたらしい。

そんな事をされていれば警戒していても連れ去られるのも仕方が無い。

むしろ一度だけでよく食い止めたものだ。


「酷いのです…。」


 シキがリュシエルの過去を聞いて悲しそうに呟く。


「身近な者達まで自分を手に入れたい犯罪者達に利用され、誰を信じていいのか分からないあの子が…私は、私は。」


 公爵は歯を噛み締めて悔しそうな表情で俯く。

現状の誰も信じられず孤独に過ごす状況から何とか解放してやりたい。

しかし人を不幸にさせたくないリュシエル自身がそれを拒んで屋敷と言う殻に閉じこもっている。


「公爵よ、我も気の毒には思う。故に聞こう、我に何を望む?」


 項垂れている公爵にジルが問い掛ける。

その言葉を聞いて顔を上げてジルを見る。


「ジル様?」


「助けてほしいのだろう?せっかく暇なのだし、これに時間を使うのもいい。」


「有り難うなのです。」


 ジルの言葉を聞いたシキが涙を見せつつも笑顔でそう言った。

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