66章
元魔王様と公爵令嬢 1
鉱山に潜った日から二日が経過した。
なんとこの日でジル達は採掘を終わらせてしまった。
「今日も大量だった。これでわしとジルが買い取る分は余裕で掘れただろう。」
予想よりも早く終わってしまった。
それだけ先に入った者達の採掘の仕方が雑だったと言うのもあるが、ジルとダナンのコンビが採掘特化し過ぎていた。
「あれだけ採掘していればそうなるだろうな。むしろ多いのではないか?」
「余剰分は公爵が採掘の謝礼を払って引き取ってくれるらしいのです。シャルルメルトの交易品としてこれから使われるのです。」
採掘した物は全て買い取ってくれるので手に入るだけお得だ。
「結晶石を取り引き出来るとなればシャルルメルトも安泰そうだな。」
「そうなればいいのだがな。」
ジルの言葉に難しそうな表情をするダナン。
「何だ?やはり公爵令嬢のスキルか?」
「あまり人前で大きな声では言うなよ?シャルルメルトに住む物達はこの手の話題は嫌っている。」
ダナンがもっと小声で話せとでも言わんばかりに辺りを見回して小声で言う。
今いる領民達はシャルルメルト公爵家のスキル事情を知っていながら残っている者達だ。
悪く言われて良い気持ちはしないだろう。
「ジル様、この話しは自領の領主の娘を悪く言ってるのと変わらないのです。注意した方がいいのです。」
「分かっている。今は周りに誰もいないだろう?」
ジルも周りに人がいないのは確認済みだ。
自ら喧嘩を売る様な面倒な事はしない。
「話しを戻すがジルの言う通りスキルが原因だ。あの様な強い力を持つスキルは使い方を誤れば大きな災厄となるからな。」
魅力的な交易物質を持っていても取り引き相手はどうしても気になってしまうだろう。
「国落としすらも出来るかもしれないと昨日聞いたな。」
「そうだ、警戒するのは当然だと思わないか?自分の治める街や暮らしている国が一人の少女に滅ぼされる可能性がある。」
シャルルメルトと付き合うだけでそう言ったリスクが付きまとう。
上に立つ者であれば自分の判断一つで多くの者を危険に晒す事になるので慎重になるだろう。
「まあ、そう思う者もいるのだろうな。」
「ジルは違うのか?」
「あのスキルは魔物を呼び寄せる類いだろう?別に魔物が大量に押し寄せてこようと全て排除すればいいだけだ。」
口にはしないがスキルだけで無く、魔法でも国落としをしようと思えば出来る。
魔王時代に地図を大きく変えてしまう程の被害を魔法によって生み出した事もある。
今のジルでも極級魔法を何度か使えば同じ事が出来る筈だ。
「確かにジル様ならそれが出来そうなのです。もちろんライムもなのですよ。」
自分の従魔を撫でながらシキが言うと、ライムが嬉しそうにプルプルと揺れている。
今はまだ難しいがいずれはその様な規格外なスライムへと育つだろう。
「やれやれ、お前達は規格外過ぎるな。普通ならば脅威と感じて恐れるものなのだが。」
感性が違い過ぎてダナンが溜め息を吐く。
脅威をまるで脅威と感じていない。
「我と一緒にいる間は護衛として守ってやるからダナンも安心していいぞ。」
「ジルを雇えた段階で安心はしている。戦力で言えばこれ以上は中々無いからな。」
脅威と感じているスキルの件もジルがいるからこそ安心出来る。
そうでなければシャルルメルトに訪れてはいない。
「さて、わしは先行して少しだけ買い取った結晶石を持って工房を借りてくる。早速何かを作ってみたいからな。」
結晶石は大量に手に入ったので査定に大きく時間が掛かる。
なので少量だけ先に手に入れておいたらしい。
「武具でも作るのか?」
「悩み中だ。結晶石は武具よりも装飾品の方に扱われる事が多いからな。まあ、思うままに試して売ってみるとしよう。大量に買い取るにはもう少し資金が必要だ。」
持ってきた金額も相当だったのだが、採掘出来た量を見るともう少しお金が欲しい。
なので現地調達をしてみる事にした。
エルダードワーフの手掛ける物なら相当な価値になりそうだ。
「色々と試してみるといい。暫くはシャルルメルトに滞在するのだからな。」
「シキ達も色々と見て回るのです。」
結晶石の採掘は終わったので今日から自由時間だ。
公爵の好意にあまえて暫く屋敷で過ごしながらのんびりするつもりだ。
その内街の観光ややりたい事も見つかるだろう。
「ああ、そうさせてもらう。今日までの結晶石を合わせれば、わしらの合計買い取り量を大きく上回っている筈だ。買い取り額も期待出来るし、これくらいは小遣いとして渡しておく。好きな物でも食べるといい。」
そう言って金貨を数枚渡してからダナンは去っていった。
この後結晶石を売却に向かうのだがジル達以外の結晶石の査定待ちもあるので直ぐに現金は支払われない。
後々大量に支払われるので先行報酬と言ったところだ。
「大量に採掘した臨時収入だな。」
「ダナンは太っ腹なのです。」
ジル達だからこそこれだけ待遇が良いのだ。
普通の冒険者でこれだけ待遇の良い指名依頼なんて滅多に存在しない。
「結晶石を預けたら何か美味い物でも食べにいくか。」
「賛成なのです。シャルルメルトの美味しい料理があったら無限倉庫に蓄えたいのです。」
ジル達は採掘した結晶石を渡す為にギルドへと向かった。
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