元魔王様とシャルルメルトの街 10

 翌日、シャルルメルトの屋敷で目覚めたジル達は豪華な朝食で持て成されていた。

リュシエルはいないが公爵達が歓迎してくれているのがよく伝わる。


「ダナン殿、今日から早速鉱山へ潜るのか?」


「その予定だ。公爵から許可証も貰えた事だしな。」


 公爵から渡されたプレートにはシャルルメルト公爵家の貴族印が記されている。

これを鉱山の管理人に見せれば自由に出入りが可能となるらしい。


「どのくらいの滞在を考えているんだ?」


「成果次第と言ったところか。一先ず持ってきた金が尽きるくらいの結晶石は買い取ってから帰るつもりだ。」


 採掘したからと言って結晶石が自分の物になる訳では無い。

結晶石の所有権はシャルルメルトにあるので、欲しければ購入する形となる。


 その代わり採掘した者は優先的に安く購入出来るのでメリットもある。

なので高価な結晶石を少しでも安く手に入れようと採掘に乗り出す者が多いのだ。


「どれだけ買い取るつもりなんだ?持ってきたのは確か大金貨を約百枚とか言っていなかったか?」


「とんでもない額なのです。」


 結晶石を買い取る為にダナンが用意してきたお金は相当な額だ。

盗まれては大損害なのでジルの無限倉庫の中に仕舞ってある。


「わしの全財産を殆ど持ってきたからな。今欲している物が他に無い以上、結晶石に全部当てたいのだ。」


 全財産を使ってでも結晶石を大量に手に入れたい。

そう簡単に手に入る鉱石では無いので気持ちは分からなくもない。

それにダナンならば結晶石を使った魔法武具や魔法道具で元手を軽く超える利益を出すのは目に見えている。


「それだけの額となると中々採掘は終わらなそうだな。鉱山内には魔物も住み着いていて採掘があまり捗っていないと報告も上がっている。」


「その点は心配していない。その為に高い金を払って雇ってきた護衛だ。わしは採掘だけに集中出来る。」


 魔物との戦闘は護衛であるジルに丸投げだ。

高い金を支払う分しっかりと働いてもらう。


「魔物はこちらで回収して売り払って小銭稼ぎでもするか。」


「ジル様、シキ達も幾つか結晶石をそのお金で買い取ってもいいかもなのです。セダンでなら需要も高いし自分達でも使い道があるのです。」


 この国で結晶石の取れる鉱山が残っているのはシャルルメルトだけだ。

この機会に希少な結晶石を手に入れておきたい。


「そうだな、ダナンが掘った中から良さそうな物を買い取るとするか。」


「結晶石を採掘するのはわしだぞ?選ぶのはわしに優先権があるからな?」


 結晶石を一番求めているのはダナンだ。

その為にわざわざシャルルメルトからやってきた。

良質な鉱石は優先的に欲しい。


「それは分かっているが中途半端な物ばかり渡されてもな。」


「掘れるのは一級品ばかりだから安心しておけ。長い間人目に触れてこなかったのが幸いしたらしいぞ。」


「そのおかげでシャルルメルトの財政もかなり潤っている。結晶石様々だな。」


 どうやら鉱石の質に関しては問題無いらしい。

その後も公爵から鉱山の事を聞いて情報収集も存分に行えた。


「よし、そろそろ出発するか。」


 昨日から採掘したくてうずうずしていたので、今日は思う存分結晶石を掘る予定だ。


「やれやれ、もう少しこの貴族気分を味わいたいとは思わないのか?」


「貴重な体験なのですよ?」


 ソファーで寛ぎながら食後のティータイムを堪能していたジルとシキが言う。


「それを堪能しにやってきた訳では無い、目的が違うぞ。それにお前達ならいつでも貴族気分は味わえるだろうが。」


 貴族の知り合いが多いジル達ならそこまで珍しい事でも無い。

それよりも結晶石の採掘が優先だ。


「仕方無い、働くとするか。今日で買い取り予定分の半分は採掘したいところだな。」


「わしを殺す気か?と言いたいところだが、せっかくやってきたシャルルメルトの観光もしたいからな。久しぶりの現場作業だが本気を出すとしよう。」


 ダナンが気合を入れる様に腕まくりしている。

小柄なドワーフだがその筋肉は凄まじい。

採掘と言う過酷な作業をこなす為に、自国にいた時に培われたのだろう。


「そんなに急ぐ必要があるのか?屋敷には長期間滞在してもらっても構わないのだぞ?」


 トゥーリの使者であるジル達はシャルルメルトに滞在する間、公爵家の屋敷で客人として持て成すつもりだ。

のんびりしてもらって一向に構わない。


「洞窟に毎日の様に通うのが嫌なだけだから気にしなくていいぞ。」


「同感なのです。洞窟暮らしなんて精霊であるシキには似合わないのです。」


 毎日の様に鉱山に行くのが面倒なので早く終わらせたいだけであった。

早く終わればその分早く自由時間となる。


「まあ、ダナンにはお似合いだがな。」


「分かるのです。」


「ドワーフへの偏見は止めろ。洞窟が好きな訳では無く鉱石が好きなのだ。わしだってあんな狭くて暗い場所にいつまでも滞在したいとは思わん。」


 ドワーフと言えば鉱山と言うイメージだが、別に好んで滞在したい場所では無いらしい。


「ならばさっさと行って採掘作業を始めるとしよう。」


「お前達なら心配無さそうだが気を付けてな。」


 リュウセンに見送られてジル達は結晶石が取れると言う鉱山に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る