元魔王様とシャルルメルトの街 9

 リュシエルの部屋の前には女性の騎士が二人扉を守る様に立っていた。

中々特殊な立ち位置にいる人物なので簡単に人を近付ける訳にはいかないのだろう。

近付いてくるジルに厳しい視線を送ってきている。


「リュシエル、起きているか?」


「お父様?」


「ふむ、声は元気そうだな。」


「はいなのです。」


 扉越しに公爵が話し掛けると中から女性の声が返ってくる。

屋敷にこもりきりと聞いたが思ったよりも元気そうな声だ。


「屋敷にセダン伯爵の使いの者が来ていてな。お前に会いたいと言っているがどうだ?」


「…私にですか?」


 突然の事に少し困惑した様な声が返ってくる。

当然父親である公爵はスキルの事を知っている。

なので簡単に知らない者を自分に近付けたらはしない筈だ。


「公爵様、どう言う事でしょうか?お嬢様といきなり会わせるだなんて。」


「見たところ冒険者の様ですが信用出来るのですか?」


 リュシエルの代わりに女性の騎士達がジルを訝しむ様に見ながら尋ねてくる。

突然やってきた得体の知れない冒険者をリュシエルに会わせるのは嫌なのだろう。


「聞いた通り伯爵の使いだ。我が公爵家と友好関係なのは知っているだろう?」


「それは存じていますが…。」


 友好関係にある貴族の使いと言っても自分達が会うのは初めてなのだ。

トゥーリは信用出来てもジルの方は分からない。

リュシエルに接触する為にセダン伯爵の下へ潜り込んでいる間者の可能性だってあるのだ。


「リュシエル、無理に会わなくても構いません。これは命令では無く提案なのですから貴方が決めていいのですよ。」


「お母様。」


 娘の事を考えて無理矢理対面させるつもりは無い。

あくまでもリュシエルの気持ちが最優先であり、許可した場合に対面出来る。


「すみませんが誰かに会いたい気分ではありません。今日のところはお引取り下さい。」


「そうか、分かった。悪いなジル殿。」


 リュシエルの返答を聞いて公爵が頭を下げてくる。


「いや、うちのお節介精霊が気になっていただけだからな。」


「気になってしまうのは仕方無いのです。」


 あんな話しを聞かせられればシキの性格上放ってはおけない。

何かしら力になってあげたいのだろう。


「滞在中に会う可能性もありますが、今回の事であまり気を悪くされないで下さいね。リュシエルもスキルの事があって信用出来る人でないと会うのは難しいのです。安心して周りに置ける者も少ないので。」


「これくらいで何か思う事は無い。それよりも護衛達が早く立ち去ってほしそうだぞ?」


 ジルの事を怪しむ様に見ている護衛の騎士達。

敵意までは向けられていないが、歓迎されていないのはよく分かる。

これではリュシエルに会うのは難しそうだ。


「これはすまない。お前達、引き続きリュシエルの護衛は任せるぞ。」


「「はっ!」」


 騎士達にリュシエルの警備を任せてジル達は引き上げる。


「あの子達の事も悪く思わないであげて下さいね。シャルルメルト公爵家に昔から仕えてくれて、リュシエルの事を赤子から見守ってくれている姉の様な存在ですから。」


「それならばあの対応も納得だな。」


 リュシエルを見守ってきたからこそ、スキルを発動させて悲しい思いなんてさせられない。

そんな可能性を排除する為に怪しい人物は全て近付かせない様にしているのだ。


「大事な妹に怪しい部外者を近付けたいとは思わないのです。」


「ほほう、我は怪しい部外者なのか?」


「た、例え話しなのですよ?ジル様は怪しくなんてないのです。」


「分かればいい。」


 ジルが揶揄う様に聞き返すとシキが慌てながら手をブンブンと振って否定している。

あまりに必死なので直ぐに許すと静かに胸を撫で下ろしていた。


「二人は仲が良いのだな。」


「ええ、本当に。人と精霊がここまで心を通わせているとは。」


 二人のやり取りを見て二人が微笑ましそうな表情になっている。

娘にもこう言った心から信頼出来る友がいればと思っているのかもしれない。


「昔ながらの付き合いだからな。」


「それに種族で契約の判断をしない精霊もいるのです。シキはジル様だから契約しているのです。」


 精霊は人族とあまり契約しないと思われがちだが、実際は精霊によって様々だ。

魔力量を優先して種族を選ぶ精霊、魔法の扱いに長けた者を選ぶ精霊、好んで人族を選ぶ精霊、面白そうな者なら種族を問わない精霊もいる。


「素晴らしい関係だ。リュシエルにも心を許せる友が身近にいれば、もう少し明るく生活を送れそうなのだがな。」


 ジルとシキの気安いやり取りを見た公爵が娘の現状を思って悲しそうに呟いた。

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